京極夏彦さんの小説映画化第2弾『魍魎の匣』が
2007年12月22日(つまり今日)から公開されます。
今回の睡眠論の対談のなかでも
映画のことについて触れていたので、
今日は、その部分を抜き出してお伝えいたしましょう。
京極さんの睡眠論、後半戦をまえに
ちょっと中休みという意味もふくめて、
番外編的にお楽しみくださいね。
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糸井 |
ええと、『魍魎の匣』が、いよいよ。 |
京極 |
はい。 |
糸井 |
映画化されまして。
また、たいそう立派な映画を‥‥。 |
京極 |
ねぇ(笑)。 |
糸井 |
お作りになって(笑)。 |
京極 |
びっくりしますよね。
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糸井 |
京極さんでも、びっくりしましたか。 |
京極 |
そりゃびっくりしますよ。
ぼくは、字を書いただけですからね。 |
糸井 |
そうですか(笑)。 |
京極 |
ぼくは『魍魎の匣』って題名の小説を書いたわけで。
原田眞人監督は、
『魍魎の匣』っていう題名の映画を撮られたんですね。 |
糸井 |
ええ、ええ。 |
京極 |
つまりこれは、小説を映画化したんじゃない。
それ以前に、どんな小説でも、
映画にするって不可能だと思うんです、ぼく。 |
糸井 |
よしあしはともかく、違うものになる、と。 |
京極 |
そもそも、映画にしようと思って書かないでしょ。
小説でしか表現できないから小説にするんで、
映像化なんかできるもんかと思って
書くもんだと思いますけどね。
だから、小説を読んだ読者が感じるものと、
「同じような何か」を感じさせる映像作品を作って、
それに、小説と同じタイトルをつけるしかない。 |
糸井 |
うん、うん。 |
京極 |
映画の『魍魎の匣』は、原田監督の『魍魎の匣』。
ぼくの小説とは、ぜんぜん違うんだけれど、
きわめて同じニオイを感じさせる映画を作ってくださって。 |
糸井 |
どうやって小説のムードを出そうかって、
かなり考え込まれてますよね。 |
京極 |
うん、ものすごく綿密に計算されてます。
原田さんの書かれた脚本の第一稿を読ませていただいて
これはもう映画として成立してると思ったから
何もいいませんでした、ぼく。
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糸井 |
前作の『姑獲鳥の夏』は実相寺昭雄監督でしたが。 |
京極 |
あれはもう、実相寺さんの映画そのものですよね。
今回の『魍魎の匣』も
まったく同じキャストで、同じシリーズだから、
いうなれば続編という位置づけなんですが、
まったく違う、独立した映画です。 |
糸井 |
ぼくは、観させていただいて
ああ、これは「超スチール写真」なんだなと。 |
京極 |
あ、それはいい表現ですね。 |
糸井 |
ムービーなんだけど、
映像の処理のしかたが「超スチール写真」。
ものすごく「引き抜きのはやい紙芝居」みたいな。 |
京極 |
そう、そう、そう。
まずは、映像に目がいく絵作りですよね。
それと‥‥この『魍魎の匣』って
もともとはミステリーなんですよ。 |
糸井 |
ええ、はい。もともとは(笑)。 |
京極 |
財産略取に絡んだ、
密室からの人間消失による不可能誘拐事件と、
梗概は書かれる。 |
糸井 |
ええ、そうでしたね。 |
京極 |
映画では、そこが、ぜんぶ「ない」。 |
糸井 |
うん(笑)。 |
京極 |
そこだけを、ぜんぶ取っちゃった。 |
糸井 |
ふつう、やりませんよね、その手は。 |
京極 |
ええ、ふつうは
そこだけ残して失敗したりするんですよ。 |
糸井 |
明らかに、監督の確信犯ですよね。 |
京極 |
ミステリーとして
いちばんの核になる部分だけ抜き取っちゃった。
それでぼくは「いいな」と思ったの。
ミステリ小説を映像化するのじゃなく、
『魍魎の匣』の映画を作りたいんだな、と。
だから、ジャンルがないのね、この映画。
ホラーでもミステリーでもないし、
ギャグでもあれば、ほろりともさせる。
観客は映画のなかに、好き勝手なものを見ることができる。 |
糸井 |
そうそう、この映画って
見てるあいだに、目が忙しいんですよね。
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京極 |
うん、で、見終わったときには、
なんだったのかが、よく思い出せないという(笑)。
でも、見てる最中が最高におもしろい。
これって、
映画として理想的だと、ぼくは思います。 |
糸井 |
ああ、それは、わかります。
でも、京極さんがこういう人じゃなかったら、
怒るかもしれない脚本だったわけですよね(笑)。 |
京極 |
「ミステリーなんじゃあ!」っていう人ならね(笑)。 |
糸井 |
お客さんには、
そこまでわかって見に行ってほしいね。 |
京極 |
うん、そうですね。これは「映画」です。 |
糸井 |
たとえば、ミュージックビデオとか、
コンサートって
見てるときは夢中になってるんだけど
なにを見たかは、具体的じゃないでしょう。 |
京極 |
そう、そう、そこなんですよ。 |
糸井 |
ああいうことに、似てますよね。 |
京極 |
なおかつ、なにを見たのかはすぐに整理できないんだけど、
受け取る情報量はやたら多いんです、この映画。 |
糸井 |
うん、多いよね。 |
京極 |
似てますよね、ぼくの小説に(笑)。
ああ、ぼくが小説で使った手法を、
原田さんは、映画に置き換えたんだ、と思って。
ストーリーなんかどうでもいいんですけど、
そのへんを踏襲してくださってる。
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糸井 |
ああ‥‥京極さん、この映画のことを
なんて言うんだろうって、
ちょっと聞きたかったんですよね、じつは。 |
京極 |
うん、だから、ひとことで言っちゃえば
「恐れ入りました」ですよ。 |
糸井 |
その小説と映画との「住みわけ」は
なんというか、平和でいいなぁ。 |
京極 |
だから、原作に忠実ってどういうことか、ですよね。
いずれ映画としておもしろいに
越したことはないんだなぁと、あらためて思いましたね。 |
糸井 |
なるほど‥‥平和だ。
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京極 |
うん、平和です(笑)。 |