佐藤 | この前の対談でも、 ちゃんとお話をしたのが最初なのに、 糸井さんは、突然、 「可士和くん、 距離のことをどう考えてますか?」 と言ったじゃないですか、いきなり。 |
糸井 | (笑)イヤだよね、そんな質問。 |
佐藤 | 「距離」って…… ほんとのことを言うと 「どうとも考えていなかったはず」 なんですけど、話をしているうちに、 やっぱり、どこかで、 距離のことを考えていたんだと気づいて。 それ以来、 距離のことが気になっちゃうという、 会話には、 そういうところがあるなと思います。 あのときは、だいたい、どうして、 突然そんなことをきいたんですか? |
糸井 | なんでだろうねぇ。 距離のことを 考えている人に見えたんでしょうね。 |
佐藤 | (笑) |
糸井 | 「隣にいる人に語りかけること」と 「マイクで人に語りかけること」は やっぱりちがうことだと思うんです。 マスメディアでは、いっぺんに 1000万人の人に 語りかけることができるけど、 それに慣れすぎてしまったら、 近くの人に語りかける方法が わからなくなるんじゃないでしょうか。 可士和くんの広告の仕事は 「距離のすごく近いもの」を提示して 人とコミュニケーションを考えていて、 人と人の間で、噂になっていくときに、 「距離の近いコミュニケーション」が、 遠くに飛んでいくように見えたんです。 だから、 距離のこととかを いつも考えているんじゃないか、 と思って、きいてみたんですよ。 |
佐藤 | 「距離」という言葉ではなくても、 たしかに、考えていたんですよね。 そのことは、きかれて気づきました。 どういうサジ加減でモノを言うと、 ピタッとくるのかを考えることは、 「距離感」を考えることですからね。 コミュニケーションが 強すぎてもダメだし、 弱すぎてもまたダメだし、 絶妙な距離感をとると、 商品とか企業が、いい感じに見えてくる。 ぼくはもともと 空間とか建築とかが すごく好きで、そういう要素を、 コミュニケーションに 利用したいと思ってましたから。 |
糸井 | 吉村順三という建築家特集を、 このあいだ 『新日曜美術館』で見たんだけど、 戦後まもなくの時代の建築で、彼が、 「今まで3尺だった単位を2尺に変える」 ということをしたらしいんです。 「このぐらいのおおきさの扉にした方が、 人間の生理の感覚にあうんじゃないか」 ということで家を作ったりしていて……。 ものさしのとりかたを変えるだけで、 急に親密になれることって、ありますよね。 |
佐藤 | はい。 |
糸井 | 格闘家の チェ・ホンマンっていう 2メートル13センチの人に 会ったことがあるんだけど、 距離感はわからないし、 デカくて、親しくなれないんですよ。 バスケットボールの岡山選手に会ったときも、 なかなか近づいてこないように思えたんです。 遠くにいるときから、近くに見えていたから。 ……って、何の話をしてたんだ? ま、そんなふうに、距離というのは、人間は、 ものすごく気にしているんだと思うんですよ。 「どこからどこまで何時間」 と、時間が距離におきかえられてしまうと、 距離が、効率の中におしこめられてしまう。 でも、いくら飛行機や新幹線がはやくても、 前に、遠かったものは、今も遠いですよね? 「アラスカから生中継です」と言われても、 今は、なかなか、驚きがないものだけど、 遠くのものが、近く見えるような感覚は、 かならずしもいいことばかりじゃないですし。 ただの、 「ひとりの人間」としての距離感を 持っているかどうかというのは、 すごく重要なことだと思うんです。 |