佐藤 | SMAPの広告は、 代理店を辞めて独立して 一発目の仕事だったんです。 代理店にいたころから、 考えてはいたことなんだけど。 |
糸井 | 代理店にいたときには、 やりづらい決断ですよね。 |
佐藤 | なかなか、実行できにくいですから。 |
糸井 | 代理店というのは、構造的に、 「メディアを買って、媒体を 売り買いすることで商売している」 という会社だから、 テレビをやりませんというのは、 イヤなことになりますもんね。 |
佐藤 | そうですね。 代理店としては、 テレビCMの 売買メディアの扱いなしでは ぜんぜんもうからなくなるし、 ティッシュを作っても 「トク」とは言いがたいし、 あとは、大企業の営業の立場からすれば、 特殊な媒体で広告を打つというのは、 めんどくさいことですからね。 |
糸井 | 「手がかかる」ものだもんね。 ヘタしたら赤字になりますし。 |
佐藤 | 「前例のない方法」は、 通りにくいですものね。 |
糸井 | SMAPの場合は、 全国各地にファンがいるから、 東京だけでやっていることでも、 「それを見るためだけに 飛行機に乗ってくる人」 も、いるわけですよね。 東京の一角で、 「ほんとに人目に触れたのは 50万人しかいませんでした」 というイベントだとしても、 それが、SMAPの場合には コミュニケーションが 玉突き的に増殖するんですよね。 |
佐藤 | そうですね。 SMAPだからできたキャンペーンです。 「ポスターからシールがはがせます」 とかいう特色があると、 ニュースもスポーツ新聞も ワイドショーもぜんぶ取材してくれて あれはもう、媒体に換算したら、 すっごい金額ですよ。何億もの……。 報道は全国に流れるから、 全国の人も知るだろうという仕組みは、 確信犯でやったんですけど。 |
糸井 | 昔の 「お伊勢参り」に近いですよね。 「お伊勢さん」に行ける人数は限られているけど、 「いきたいな」と思う人の母数はすごくおおきい。 無作為にばらまくんじゃなくて、 ちいさいひとつの噴水みたいなところに 集中して伝えるという方法は、 ある意味、先祖がえりだと思ったんです。 みんな、テレビの効率のよさを中心にして 「これで一気に撒けます」 シャワーみたいに広告をしていたんだけど、 そうじゃないことをやったんだな、という。 |
佐藤 | 昔に比べたら、 自分自身もテレビCMを見なくなりましたし。 代理店に入ったばかりのころは、 まだ、CMを作りたいと思っていたんです。 「ホンダ ステップワゴン」 とかをやった時は効いた感じもあったけど、 それも、どんどん、 急速に効かなくなってくる……。 そういうことを考えていたときのものでした。 たとえば、ポスターを一所懸命に作っても、 自分の思うとおりには 貼られていなかったりする。 そこをなんとか コントロールしたかったんだけど、 町というか 「渋谷区」というふうに考えた場合は、 町全体を作ることなら、 できるなと思いまして。 |
糸井 | うん。目の届く距離感ですよね。ああ。 |
佐藤 | だから、 「どこでもいいから ビルボードをお願いします」 ではなく、 「あそこのボードをおねがいします」と、 値段も媒体も計算して考えていたんです。 |
糸井 | つまり、もう、 「なんか、当たるのやってよ」 という広告では通じないんですよね。 |