「広告サミット2005 糸井重里×佐藤可士和」佐藤可士和くんから、
「ほぼ日」の「デザイン論」の対談が
おもしろかったから、そのつづきを話しませんか?
とさそわれて実現した企画を、
広告サミット運営委員会さんのご厚意により、
「ほぼ日」で、ほとんどまるごと、おとどけしますね。

第6回 結果的に、広告になっている



糸井 商品が売れればいい、
という考えでは、広告の効果が
出なくなっている時代、なわけで。

企業なりプロジェクトなりが
何を伝えるのかを含めて、
方向づけをしなければいけないから、
もう、やっていることは
「広告」という分類には
留まらないんですよね。
佐藤 たとえば、ぼくがキリンなどで
新商品企画から広告の戦略まで
ぜんぶやることができたというのは、
ものすごくいいことだなと思いました。

キリンと言えば、代理店にいたころから
すごい「大変そう」なクライアントなのに、
もう、そんなふうに変わってきているのか、
と、けっこうびっくりしましたけどね。
糸井 うん。
「誰が決裁するか」の権限が、
個人に近づいていったわけで。
SMAPの広告の決済にしても、
SMAPのマネージャーを任されている
ひとりの女性がやっているわけですから。
それは、社長でも部長でもなく、
ひとりの担当マネージャーなんだもんね。

もともと、SMAPというのは
事務所を挙げておしていくチームでは
なかったから、放っておかれたおかげで
ふつうの子と同じような服を着ていて、
そこがよくて人気が出たという、
インターネット的な成長のしかたを
しているんですよね。
順番に、社長までの決済を
ハンコで押していたらありえないことだから。

きっと、大企業のさまざまな変化も、
かつて、
営業会議や重役会議で落ちたようなことが、
だんだん、なくなっていったんでしょうね。



佐藤 そうですよね。
キリンの『極生』の仕事のはじまりは、
「あたらしい発泡酒を開発してほしい」
という雲をつかむようなものでしたが、
最初に、商品のプレゼンをするときに、
広告も、一緒に提案しているんですね。

「こういう名前、
 こういうデザインで、
 こういう広告で、新聞15段で」と。

新聞広告と言っても、バーンと
「極生」と出すというものなんだけど、
でも、商品から含めて
一気にすべての案が通るから、当然、
考えの筋道にロスがなくて強いですよね。
糸井 「川上」から
「川下」まで流すかのように
商品を消費者に伝えることは、
もう、無理だよなと前から思っていたんです。
「最初に広告を作って、
 それにあわせて
 商品を作ったら、絶対に売れる」
と思ったんです。
実際に、まだ、ないものでも、
「電気代半分の冷蔵庫」
という広告を先に作っちゃう。
「売れるに決まっているから作りましょう」
そういうふうにすれば、かならず
人のよろこぶものが作れるんです。
今、だんだんそっちに近づいてますよね。
佐藤 そうですね。
それがまさに商品開発の仕事ですからね。
糸井 「なにが欲しいか」が先にあった上で
それを作るべきなんだけど、
「できちゃったものをどう売っていくか」
という広告をやっていた時代が長いんです。
「ほぼ日」の商品は
「モノという名前のコンテンツ」
と言っているんですけど、まさにこれは
「自分が考えるにはこういうのがあったらいい」
というものを現実にしていくわけです。
今はまだ作れないなら待ちますねとか、
大量生産はできないだとか、
商品にバラつきがあるとか、
それでもやりたいですとか、自分決裁だから、
それで決断をできるんです。
佐藤 ぼくも広告の仕事をしているつもりでしたが、
最近、モノばかり作っているんです。
携帯電話、コンサートグッズ、幼稚園……。
「広告のみ」の仕事はほとんどなくなっています。
気づいたら、モノを作るというか、
事実を作るというか、それが結果的には
広告になるのかなというふうに思っているんです。
(明日に、つづきます)

2006-01-31-TUE