糸井 | 商品が売れればいい、 という考えでは、広告の効果が 出なくなっている時代、なわけで。 企業なりプロジェクトなりが 何を伝えるのかを含めて、 方向づけをしなければいけないから、 もう、やっていることは 「広告」という分類には 留まらないんですよね。 |
佐藤 | たとえば、ぼくがキリンなどで 新商品企画から広告の戦略まで ぜんぶやることができたというのは、 ものすごくいいことだなと思いました。 キリンと言えば、代理店にいたころから すごい「大変そう」なクライアントなのに、 もう、そんなふうに変わってきているのか、 と、けっこうびっくりしましたけどね。 |
糸井 | うん。 「誰が決裁するか」の権限が、 個人に近づいていったわけで。 SMAPの広告の決済にしても、 SMAPのマネージャーを任されている ひとりの女性がやっているわけですから。 それは、社長でも部長でもなく、 ひとりの担当マネージャーなんだもんね。 もともと、SMAPというのは 事務所を挙げておしていくチームでは なかったから、放っておかれたおかげで ふつうの子と同じような服を着ていて、 そこがよくて人気が出たという、 インターネット的な成長のしかたを しているんですよね。 順番に、社長までの決済を ハンコで押していたらありえないことだから。 きっと、大企業のさまざまな変化も、 かつて、 営業会議や重役会議で落ちたようなことが、 だんだん、なくなっていったんでしょうね。 |
佐藤 | そうですよね。 キリンの『極生』の仕事のはじまりは、 「あたらしい発泡酒を開発してほしい」 という雲をつかむようなものでしたが、 最初に、商品のプレゼンをするときに、 広告も、一緒に提案しているんですね。 「こういう名前、 こういうデザインで、 こういう広告で、新聞15段で」と。 新聞広告と言っても、バーンと 「極生」と出すというものなんだけど、 でも、商品から含めて 一気にすべての案が通るから、当然、 考えの筋道にロスがなくて強いですよね。 |
糸井 | 「川上」から 「川下」まで流すかのように 商品を消費者に伝えることは、 もう、無理だよなと前から思っていたんです。 「最初に広告を作って、 それにあわせて 商品を作ったら、絶対に売れる」 と思ったんです。 実際に、まだ、ないものでも、 「電気代半分の冷蔵庫」 という広告を先に作っちゃう。 「売れるに決まっているから作りましょう」 そういうふうにすれば、かならず 人のよろこぶものが作れるんです。 今、だんだんそっちに近づいてますよね。 |
佐藤 | そうですね。 それがまさに商品開発の仕事ですからね。 |
糸井 | 「なにが欲しいか」が先にあった上で それを作るべきなんだけど、 「できちゃったものをどう売っていくか」 という広告をやっていた時代が長いんです。 「ほぼ日」の商品は 「モノという名前のコンテンツ」 と言っているんですけど、まさにこれは 「自分が考えるにはこういうのがあったらいい」 というものを現実にしていくわけです。 今はまだ作れないなら待ちますねとか、 大量生産はできないだとか、 商品にバラつきがあるとか、 それでもやりたいですとか、自分決裁だから、 それで決断をできるんです。 |
佐藤 | ぼくも広告の仕事をしているつもりでしたが、 最近、モノばかり作っているんです。 携帯電話、コンサートグッズ、幼稚園……。 「広告のみ」の仕事はほとんどなくなっています。 気づいたら、モノを作るというか、 事実を作るというか、それが結果的には 広告になるのかなというふうに思っているんです。 |