つくっている野菜、300品種以上!鈴木農場の鈴木光一さんに聞く 野菜のおはなし。

東京・青山の国連大学前で開催されている
ファーマーズマーケットで、
ひときわ混雑しているブースがあります。
郡山ブランド野菜のマルシェです。
全国の「枝豆勢力図」を塗り替えた枝豆、
スウィーツのようなサツマイモ、
13度以上の糖度を持つ、甘~いかぼちゃ。
12品目、ひとつひとつがスターみたいな
郡山ブランド野菜を立ち上げたのが、
鈴木農場の鈴木光一さん。
300品種以上(!)の野菜をつくっている、
なんともすごい、野菜のプロです。
「ほぼ日」では、
郡山ブランド野菜の中でも自信作のそろう
冬野菜のスペシャルBOXを販売します。
それに先立ち、マルシェに立つ鈴木さんに、
郡山ブランド野菜のことや、
野菜つくりについて、うかがいました。
担当は「ほぼ日」奥野です。
野菜つくり、奥が深くて、おもしろかった!

第1回
300品種以上の野菜をつくる人。
──
ずいぶん前から、鈴木さんのことを
「野菜を何百品種も育てている、すごい人」
がいると、うかがっていたんです。

いつも、いろいろとお世話になっている、
郡山の米農家の藤田浩志さんから。
鈴木
ああ、藤田くん。
──
はい、なので、
いつか取材させていただきたいなあと
思っておりまして。
鈴木
それは、ありがとうございます。
──
さっそく単刀直入で申しわけありません、
本当に‥‥何百品種もの野菜を?

いえ、疑っているわけではないのですが、
そんなに、すごいなと思いまして‥‥。
鈴木
品種で言えば、300品種以上やってます。

ただ、品種と品目という区分けがあって、
トマトという1品目の中に
いろんな品種があるということですけど。
──
はい、トマトならトマト、
ナスならナスで、これだけの品種がある、
‥‥ということですよね。
鈴木
そう、おそらくですが、
今、日本でオープンになっている品種って、
400品種くらいあると思うんです。

おっしゃるように、たとえばトマトならば、
大玉トマト、中玉トマト、
ミニトマト、細長いトマト、加工用トマト‥‥。
──
今は、スーパーなんかに行っても、
いろんな種類のトマトが売ってますよね。

で、野菜の品種の数が「400」くらいで、
鈴木さんのところでは、
そのうち「300以上」を栽培されている。
鈴木
はい。
──
すごいくないですか‥‥300以上って。
鈴木
まあ、数だけで言ったら、
けっこう、やってる方かもしれません。
──
そもそも、野菜の「品種」というのは、
どういった理由で、
そんなにたくさん出てきたのでしょう。
鈴木
はい、種苗メーカーさんからのご提案、
われわれ生産者からのニーズ、
お客さんやレストランなど
消費者からのニーズ‥‥などによって、
日々、新しい品種が開発されています。

以前は「固定種」と呼ばれる、
昔ながらの品種が、ほとんどでしたが。
──
トマトにしたって、
昔は、そんなに種類もなかったような。
鈴木
でも現在では、種苗メーカーさんのほうで、
たとえば「病気に強い父親」と、
「食味のすぐれた母親」を組み合わせた
「交配種」が、
全体の「95%」くらいを占めているんです。
──
つまり、今は、ほとんど交配種。
鈴木
ええ、「桃太郎」というトマトだけでも、
24品種とか、あったりします。

収穫できる時期に違いがあったり、
特定の病気に強かったり、
それぞれ、強みや特徴を持っています。
──
そのなかから、農家さんは、
土地柄やニーズによって種を選ぶんですか。
鈴木
そう、われわれ農家は、
それだけたくさん増えた品種のなかから、
何をどうチョイスするのか、
それらを、
どうやって世の中に提案していくのか‥‥。
──
はい。
鈴木
ただ、これまでの農家では、
穫れた野菜を、まとめて農協に出すのが
一般的だったんですが、
その場合、品種がほぼ決まっていました。

つまり、農協から「推奨はこの品種」と、
指定されていたんです。
──
そうじゃないと、品質が揃わないから。
鈴木
その場合の農家は、決められた品種を
いかに大量に、
かたちを揃えてつくることができるか、
その部分で競っていたんです。
──
いかに美味しいか‥‥ではなく。
鈴木
はい、そうです。販売されるときには、
誰がつくったトマトであろうが、
どんなに美味しいかぼちゃであろうが、
一緒くたになってしまうので。

とにかく、
AとかLとかの規格サイズに揃えた
きれいなかたちの野菜を
どれだけの量、収穫できるか‥‥。
──
その時代が長かったんですか。
鈴木
つい最近まで、そんな感じでした。

もちろん、産地をブランド化するため、
みんなで同じ品種の野菜をつくって、
農協さん経由で‥‥という、
従来型の農家も、まだまだありますが。
──
でも、その流れが、変わってきたと。
鈴木
そうですね、ここ5年くらいでしょうか。

それだけ、農家や野菜に対するニーズが、
多種多様になってきているんです。
──
農家のみなさんにしても、
間に、農協さんや市場が入ったりすると、
中間マージンが生じますから、
自分でお客を見つけて直接販売できれば、
「もうけ」が増えますね。
鈴木
実際、自分たちの野菜を
誰が食べてくださってるのかを考えたら、
農協さんではなく、
最終的な「お客さん」なわけです。

であるならば、
その人たちの食べたい野菜をつくろうと、
考える農家が増えてきたんです。
──
鈴木さんのように
お客さんに直接販売している農家さんは、
ご自身のお名前で、
つまり個人ブランドで勝負してますよね。
鈴木
はい、そうですね。

自分のつくった農産物をPRするために、
どの品目のどの品種を選んで、
どんなふうにつくって、
どんなふうに売ったらいいのか‥‥まで、
自分たちで考えてやっています。
──
ぶっちゃけ、それまでのように、
農協さんに野菜を収める販売方法よりも、
大変なのではないでしょうか。
鈴木
ええ、大変ですが、俄然おもしろいです。
──
おもしろい。
鈴木
ええ、おもしろいです。

言ってみれば、ようやく今、
農家もメーカーらしくなってきたと思う。
──
まったくおなじことを、
気仙沼で操業する牡蠣の養殖業者さんが、
おっしゃっていました。

漁協さんにどーんと置いてくるより、
大変だけど、
ラベルに自分の名前を出せば
「あんたのとこの牡蠣、おいしかったよ」
と、お客さんに言ってもらえる。
それが生産者冥利に尽きるんだ‥‥って。
鈴木
わかります。醍醐味ですよね、それはね。

もちろん、
農協さんや漁協さんにお願いする場合と、
個人で販路を切り拓いてやる場合とで、
有利な点、不利な点、
まあ、それぞれに、あるとは思いますが。
──
そういう流れになってきたきっかけって、
何か、あったんでしょうか?
鈴木
10年前と比べて
私たちのような農家が増えた理由として、
ひとつには
「直売所」という形態が広まったこと。
──
あ、道の駅とか。
鈴木
そうですね、たとえば。
──
都内のスーパーの店舗のなかにも
「どこどこの誰々さんが、つくりました」
みたいな、
産地直送コーナーがあったりします。
鈴木
聞いたところによると、
直売所の数って、
全国で「17000」くらいあるそうなんです。
──
その数って‥‥。
鈴木
セブンイレブンと同じくらい。
──
え、そんなに!
鈴木
その観点からも、自分の畑でつくった野菜を
「どう売るか」と考えたとき、
従来のように農協や市場を通すのではなく、
直接お客さんに販売しよう、
自分自身を表現して農業をしたいという人が、
増えているんだと思います。
──
農業も漁業も、
今、同じような流れにあるんですね。
鈴木
ただ、直売所で売るのと、農協さんに出すのと、
いちばんの大きなちがいは
「自分の名前を出すかどうか」そして
「自分で値段を決められる」という点ですが、
販売形態だけを見ると、
農協とか市場へ持っていって置いてくるのと、
それほど変わらないんです。

つまり、一日中そこにいて
お客さんに対面販売してるわけではないから。
「直接、売ってる感」は、あまりない。
──
それこそ、自分の店があれば別ですけど。
鈴木
そうそう、そういう意味で、
最近、これはおもしろいなと思っているのが、
今日もやってる「マルシェ」なんです。

ようするに、
われわれ生産者が売り場に立つスタイル。
──
お客さんとしても、マルシェは楽しいです。

こうして、
じかに生産者さんと話すことができますし、
見たことない野菜が多くて楽しいし、
「これ何ですか?」から教えてもらえるし。
鈴木
直売所が野菜を買いに行く場所だとすれば、
マルシェというのは
会話も含め、空間を楽しむ場所ですよね。
──
飲食のお店も出てたりしますし。
スーパーで買い物するのとは別の感覚です。
鈴木
そうでしょう、やっぱり。
──
何というか、お祭りの屋台に近いというか、
ワクワクしてきます。

青山の国連大学の前で開催されている
ファーマーズマーケットによく行きますけど、
鈴木さんたちが
郡山ブランド野菜のブースを出している日は、
会場でいちばん混んでるってほど、
いつも、お客さんでにぎわってますもんね。
鈴木
こういうマルシェの形態だと、
野菜を「単なる材料」というだけではなくて、
それを取り巻く食文化まで
あわせて、伝えることができるんです。

ただ、直売所より労力がかかりますから、
毎日やるわけにはいきませんが、
月に何回というペースを決めてやるぶんには、
とても有益だし、
本当に毎回、手応えを感じています。
──
野菜を売るという以上に、収穫がありますか?
鈴木
ええ、情報の発信と吸収ができるので。
──
あと、マルシェに行ったら、
何かめずらしい野菜に出会えるかも‥‥と、
ちょっと期待しちゃいます。
鈴木
そういう意味でも、ここ5年くらいの間に、
これまで、あまり見なかった野菜が
ずいぶん出てきたなという感じがしますね。
──
先日も、郡山のマルシェにおじゃましたら、
鈴木さんのブースで、
見たこともない「黒いキャベツ」があって。
鈴木
あ、カーボロネロ。
──
その場で、ちょっとかじらせてもらったら、
苦みと甘みが両方あって、
すごく美味しくて‥‥買ってしまいました。
鈴木
ああ、ありがとうございます。

カーボロネロは、ヨーロッパのほうでは、
わりにメジャーな野菜なんですけど、
あまり日本では、馴染みがないですよね。
──
はい、はじめて見ました。
鈴木
これが、ただ無言で
スーパーの棚に並んでいるだけだったら、
売れなかったかもしれません。

でも、マルシェだったら
つくった本人が目の前にいますから、
「これは、キャベツの仲間で‥‥」
からはじまって、
おいしい食べ方まで、お話できます。
──
おもしろいですよね。
鈴木
いやあ、こっちこそ、おもしろいんです。

<つづきます>
2016-11-18-FRI