鈴木 |
あの、話をコロッと
変えてしまうようですけれども、
あとでいままで話していたことに
関係してゆこうというつもりで言いますが‥‥。
唐突かもしれませんが、糸井さんは、
NPO(NonProfit Organization・民間非営利組織)
については、どう思われますか? |
糸井 |
正直に言うと、わかりません。 |
鈴木 |
例えば、ピッツバーグにNPOのビルがあって、
ありとあらゆるNPOが揃っているんですけど‥‥。
ピッツバーグの中では、
市の予算とNPOの予算とが、同じ額なんですね。
同じ額であることによって、何が起こるかと言うと、
市は、NPOのチカラを借りなければ、
もう運営が成りたたないんです。
実はそのNPOの中心メンバーのひとりを
紹介されたことがありまして。
この人は某食品メーカーでは副社長をやっていた。
でも、その年収1億円を捨てちゃうんですね。
なんで捨てるかと言うと、テーマは一個だけ。
「いくら儲けても、儲かるのは株主だけ」だと。
「自分のために働きたい、たとえ給料が減っても」
そんなスタンスのNPOが、
いま、やたら、増えているんですよ。
たとえばハンガリーなんて国は
どんどん先に進んでいってまして‥‥。
個人個人が、みんな税金を払いますよね?
ところがその税金の1パーセントは、
自動的にNPOに行くようになっているんですよ。
国民ひとりひとりが税金をおさめる時に、
「どのNPOにそのお金を出すのか」
を、指定しなければならないんです。
ぼくは知らなかったんですけれども、
そもそも、なんと1601年の時点で、
イギリスでは、
「いわゆる福祉の問題に関しては、
これは民間がやっていくんだ」
ということで、
NPOの存在を社会的に認めているんですね。
1601年なんですよ、なんと。
当時から、イギリス人は、
国家は夜警国家でいいんだと言っていました。
要するに、みんなの安全を守ればいいんだと。
夜に安全に歩ければいいんだと‥‥。
そう言っていたのをひっくりかえしたのが、
ロシア革命なんですよ。 |
糸井 |
(うなずく) |
鈴木 |
要するに、国としてそういうのは面倒を見ると。
そういうものに、資本主義国も影響を受けてきた。
イギリスも、例の有名な「ゆりかごから墓場まで」を
1945年に発表するにいたるわけです。
サッチャーの時代には、
どんなに民間の動きが活発になろうとも、
サッチャーはまったく認めなかったわけです。
ところが次に、ブレアが出て来たでしょう?
あのひとはNPOを認めたんですよ‥‥その結果、
どんどんNPOが頭をもたげて来たんですね。
もうこの先はぼくも受け売りで言ってますけど、
19世紀から20世紀になり、
王様支配の世の中から、完全に、
国家と企業の時代に入りましたよね。
そして、テーマは商売だったわけでしょう? |
糸井 |
ええ。 |
鈴木 |
そこへ持ってきて、
どうも21世紀っていうのはこの
NPOっていうのが大きなチカラを‥‥。
まぁ、個人的に非常に単純化して言いますと、
20世紀には、共産主義があったからこそ、
資本主義もおたがいに影響を受けあってきて、
それでやってきたところがあるじゃないですか。
東西の冷戦でバランスが取れていたのだけれども、
ひとつがつぶれちゃった、と。
それで一気に資本主義が牙をむきはじめた途端、
NPOがチカラを持ちはじめているんですね。
ぼくは、どのみち、いつか何らかのかたちで
社会主義的なものが頭をもたげてくるだろうなぁとは
思っていたんですけれども、
もう、すでにNPOというかたちで、
社会主義的なものが出てきているなぁと、
そういう風に感じているんです。 |
糸井 |
ぼく、いま、わからないと言っている割には、
しゃべりたがっているんですけど‥‥。 |
鈴木 |
いや、これについては、
糸井さんの意見を聞きたかったんですよ。 |
糸井 |
会社というシステムが発明されてから、
最終的には株式会社という形になってきて、
「利益を追求することが善である」
という時代が続いてきましたよね。 |
鈴木 |
そうです。おっしゃるとおりです。 |
糸井 |
金本位制も壊れて、
通帳の中には無限にお金がある、
ということになってきた時には、
使い切れない富が生まれる‥‥。
そうなってくると、今は、
「じゃあ、最初は何をしたかったんだっけ?」
ということを、みんなが
考えるようになったんですよね。
|
鈴木 |
ええ。 |
糸井 |
だからぼくは、今NPOについて
言われているようなことというのが、
会社の仕組みのままでできるんじゃないか、
と思っていたんです。
だから、NPOについてはわからない、
と答えたんです。
もともと、ぼく自身が、まだ資本主義を
ちゃんとできていなかった、というところがあるので、
会社でやれることを、考えてきていました。
今も、会社で株を売ったり買ったりやっているのは、
選挙をしているのと同じ状態ですよね。
今は商品を選ぶ時にも、投票しているのと
同じような意味を持っていますから、
会社の段階でも、
「投票」だとか「社会的な意義」だとかに
さらされている時代に、
もうすでに、なっていると思うんですね。 |
鈴木 |
うん。
こないだある大手の商事の人と会いまして、
その人は日本人ですけれども、
ハーバード大学を出ているんですね。
最近、ハーバードの同級会があったそうで、
その人は45歳なんですけど、
今、その同級会の30%近くが、
NPOの仕事をしているらしいんですよ。 |
糸井 |
多い! |
鈴木 |
そうなんですよ。
言いにくいところもありますが、
例えばスタジオジブリという会社で、
経営のことを多少なりとも
まじめに考えている人間というのは、
ぼくだけなんですよ。
ぼくの次の世代は、
そもそも、儲ける気がないですよね。 |
糸井 |
ないでしょうねぇ‥‥。 |
鈴木 |
ジブリに限らず、どこに行っても、
若い連中はそういうところがありますよ。
そこでふと、
ジブリ美術館のことを考えてみたんです。
あれは、非営利私営集団なんですよ。
つまり、実はNPOだったんですね。 |
糸井 |
会社のままで、なっていますね。 |
鈴木 |
そのことに気づいてから、
財団やその他の仕組みを変えようという
気持ちが生まれたんです。
非営利集団であることを、
もっと明確にしようと思いまして。
更に言うと、スタジオジブリそのものを
NPO化できるんじゃないかとも思ったんです。
例えば、
『となりのトトロ』という作品があります。
宮崎駿が頑張って作りましたよね。
しかし、いちばん最初に宮さんが作った原案では、
映画のファーストカットから
トトロがいきなり登場していたんです。 |
糸井 |
へぇー。 |
鈴木 |
最初から大活躍なんですよ。
コンテを見ていたら、全編、大活躍なんです。 |
糸井 |
(笑) |
鈴木 |
宮さんに「鈴木さん、どう?」って聞かれて、
ぼくはパッと答えにくくて、顔が曇ったんですね。
「鈴木さん、どうしたの?」
「‥‥いや、ふつう、こういう生きものは、
まんなかへんから出てくるもんじゃないかなぁ」
「なんで?」
‥‥最終的には、ETもそうだから、
ということで、まんなかあたりからの登場に
まとまりましたけれども、それでも宮さんは、
「鈴木さん、この映画って、
『火垂るの墓』と同時上映だよね?
2本立てだから、こういうことやってもいいのかな」
そう言っていました。
つまり、もし1本立てだったら、
最初から登場なんです。
「そういうサービスをしなければ、
お客さんは見にきてくれないんじゃないか」
という恐怖感が、宮さんの中には、あるんですよ。
ところが、2本立てだとわかったとたんに、
非常にラクな気分でいられるんですね。
宮崎駿は、ここ10年、ものを作る時に、
常々言い切っていることがあるんです。
「作るに値するもの、おもしろいもの、
そして、お金が儲かるものが必要なんだ」
お金が儲かるものじゃなければ、
資本主義の中ではやっていけないわけだと。
でも、最近のNPOの動きを見ていて、
ふと思うことがあるんですよ。
「もしも宮さんがNPOの資金で映画を作るとしたら、
どんな映画を作るのだろう?」と。
今週、そういうことをずっと考えていました。 |
糸井 |
宮崎さんが作るって言ったら、
集金システムは完璧にできますよねえ。
みんな、見たいですもの。
それは、ぼくがインターネットで
やっていることに近いですよねぇー。 |
鈴木 |
あ、そうです。 |
糸井 |
今度、ぼく、田んぼを買うんですよ。 |
鈴木 |
田んぼですか? |
糸井 |
絶対においしいお米を作るには
どうしたらいいのかと考えると、
「作り手」と「食べたい人」が要るんですよ。
それをつなげばいいだけなんです。
そしたら、両方にとってうれしいものになる。
儲かるし、おいしいものが手に入りますし。
ぼくはたまたま、その両方を知っているので、
これは会社の仕組みのまま、作れますね。
ただ、宮崎さんのお話でもぼくの話でもそうですが、
お客さんに接している場所を持ってますよね?
呼びかける方法を持っている。
だからできることなんですよね。
工場主が言い出しても、お客さんに届きませんから。 |
鈴木 |
それはわかります。
今は宮崎駿がジブリにいるから成りたつのであって、
彼がいなければ、
「何を馬鹿なことを言ってるんだ」
という話になるものなのかもしれません。
でも、ぼくは、もしも宮さんが
お客さんが入る入らないということを心配しないで
作っていいんだよという環境を与えられた時に、
どういう映画を作るのかに、興味があるんですよ。 |
糸井 |
つまんなくなる可能性もありますし。 |
鈴木 |
ええ、あるんですよ。
だって、どこかでは、それが励みになって
作ってきているわけですから。
でも一方では、名作かどうかはどうであれ、
ソビエトは、『戦争と平和』なんていう、おそらく
世界の映画の中でも、史上最高のお金をかけた映画、
そういうものを、確かに生み出していますよ。
国家規模じゃないと作れない映画が、あった。
ぼくは、そう思うんです。 |
糸井 |
なるほどね。
でも、例えば推理小説とかは、
NPOに作らせたくないですね‥‥。
どっかのところで、すごい競争原理の中でしか
生まれてこないジャンルだから。 |
鈴木 |
ただ、やっぱりNPO の求めている人材も、
糸井さんみたいに、
「企業の中にいても成功できる人」なんですよ? |
糸井 |
そうか。
違うNPOとの競争ですもんね。
企業とは違う競争原理で動くんだ‥‥。
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