糸井 | お店をつくろう、 と決めてから、時間、かかったね。 |
道歩さん | はい。 |
ほぼ日 | あれはカレー皿を道歩さんと つくりはじめるより、前でした。 |
道歩さん | カレー皿もね、 どういう反応があるのかなっていうのが すごく不安だったんですけど。 |
糸井 | 嬉しいでしょう、でも。 |
道歩さん | はい。使ってくださっているかたから メールをいただいて、 ブログのコメントでも、 やっと届いてすごく気に入りましたと 書いてくださるかたがおおぜいいらして。 |
糸井 | カレー皿については、 とにかく端が欠けないようにっていうことを ぼくからしっつこく言ったんでしたね。 |
道歩さん | はい。それで土の配合や釉薬の具合を変えて。 |
糸井 | つまり、生活雑器と、 福森雅武さんの作品との違い、 ということなんです。 |
ほぼ日 | 今回の「ごはん茶わんと湯のみの店」で 道歩さんに協力をお願いしたのも実はそこで、 自分たちだけだったら正直なところ、 有名作家から当たろう、 みたいなことになっちゃうと思うんです。 でも、カレー皿や土鍋の仕事を通じて 道歩さんの目利きぶり──というか、 「これいいですよ」 「これはここがちょっと」みたいなところの判断を、 速度で言えば、0コンマ何秒で、する。 |
道歩さん | えっ、そうなんですかね?! |
ほぼ日 | 「このおわん、いいですね」 なんて言うと、 「それだったらこっちのがいいですよ」 みたいなことが、 ものすごくはっきりしてるんですよ。 そういう道歩さんに 手伝っていただきたいと思いました。 |
糸井 | 内側から見てる感じがするんだ。 たとえば書なら書をやってる人が、 他の人の書を見て、 ええなあって言うのと、 まあまあ、これはええものだ、 っていうのとあるでしょう。 |
道歩さん | はい、ありますね。 |
糸井 | 「これは先生が書いたものだ」 と思って見たら、 全部いいと思わなきゃいけないと思うんだよ。 でも内側から観てる人は、 「どんなに高名な先生でも、 ああいうのも作っちゃうよね」 っていうことがわかっているし、 逆に「そういうよさもあるんだよね」 っていうのもあるよね。 |
道歩さん | 「あ、そこ、きましたか!」みたいこと、 ありますね。 |
糸井 | そう。手抜きに決まってるけど、 あの人、いいとこいったな、 っていうのもあるよね。 |
道歩さん | そうなんですよ! |
糸井 | 本職のときには 俺もそういう目で人の文章とか見るよ。 |
道歩さん | そうなんですね。 |
糸井 | 内側から見るっていうのはそういうことで、 でも、人に「じゃ、よくないんですか?」 って言われると、 「いや、よくないんじゃなくて、 たまたまできちゃったのがよかったんじゃない?」 っていうような言い方をしますね。 |
道歩さん | ああ! |
ほぼ日 | 道歩さんに、 「ほぼ日といっしょに ごはん茶わんと湯のみをつくってくださる 作家のかたを探したい」と お願いしてから最初の1年間は、 全国いろいろな土地に旅をしましたね。 |
糸井 | そこでした無駄話は、 絶対、重要ですよ。 |
ほぼ日 | そのなかで細川護光さんをたずねたんです。 護光さんというのは、 細川護煕さんの息子さんで 福森雅武さんのお弟子さんですよね。 |
道歩さん | そうですね、父の。 |
ほぼ日 | ということは道歩さんの兄弟子(あにでし)? |
道歩さん | 兄弟子です。 円(まどか)の 弟弟子(おとうとでし)になりますね。 なぜ護光さんに声をかけさせていただいたかというと、 もちろんご本人の作品がすばらしいということも あるんですけれど、 私が本当に現代の作家さんといわれる人のものを 知らなかったということが、あるんです。 やっぱり家(土楽)のものばっかり見てたもんで、 護光さんに「誰かご存知ないですか」 っていうふうに聞きました。 そしたら、こういう人がいるって、 いろんな人、教えてくれはったんですよ。 |
糸井 | 護光さんには、仲間がいるわけですね? |
道歩さん | 土を一緒に探したり、 教えてもらったり、 そういうなかで気が合う仲間とか、 フィーリングが合う仲間がいるらしく、 なら紹介してほしいって言って。 で、紹介していただいて。 |
ほぼ日 | 九州の作家のかたが多いんですけれど、 皆さんのところを、回って、 その中から、道歩さんと、 この方にぜひっていうかたに、 お願いさせていただくのに、 また歩いて。 |
糸井 | あの、ここは結構大事なんです。 いちばんいいという方を 上から選んだっていうことじゃなくって、 共感する仲間の作品を 集めたんだっていうことが。 この店は、そういうものなんですよ、 と、ぼくたちは思ってた方がいい。 |
道歩さん | はい、まさしくそうです。 |
糸井 | お客さんからすると、 「いいものを、目利きが集めたんですね」 と思うわけなんだけれど、 ぼくたちにしてみると、 このお店に共鳴してくれた人たちが 一所懸命作ったのがいいと思う、 ということなんです。 |
道歩さん | はい。 |
ほぼ日 | ほんとにその通りで、 細川さんに教えていただいた方の中には ものすごくもうお名前も有名な 年配の方もいらっしゃったんですけれども、 やっぱり今回、「ほぼ日」っていったときに 面白がってくれたりとか、 既にもう知っていてくださって 読んでくれていたとか、 そういうふうな方たちがメインになって。 年代も、道歩さんたちと そんなに変わらないくらいで。 |
道歩さん | そうですね。 |
糸井 | だから、キュレーターであるとか、 プロデューサーっていうことではなくて。 |
道歩さん | そんなん言われたら、 私もちっちゃくなっちゃいます。 |
糸井 | 土をいじって、 いいものをいいなあと思うひとりの人が そうやって仲間に声をかけたら、 こんなにいいのが集まった。 みんな、気持ちいいと思うんだ。 もしね、権威づけが必要ならば、 「代々伝わる土楽の、 将来を嘱望されている 福森道歩さんが 選びに選んだものを集めました」となる。 でもそれは、 だまっていい仕事してる人たちに対して 失礼な感じがするんだ。 |
道歩さん | うん、うん、そうですね。 |
糸井 | で、これからも 黙っていい仕事をしている、 共感できる人たちと会いたいからね。 |
ほぼ日 | 会いたいですね! |
糸井 | うん。 そこ、重要だと思っているんです。 みんな、キュレーター役をまかされると、 わからなくなっちゃうんだよね。 信頼できる人はね、 「わたしはすごい目を持った人だから」 なんてぜーったい言わずに、 黙ーって集めて商品にしている。 それはかっこいいよ。 だから、ぼくたちも、 「これ、気にいる人、いそうだなあ!」っていう、 ひとつの気持ちでやっていきましょう。 |
(つづきます) |
2011-02-09-WED |