恵美子 |
っていうか、私、こんなにしゃべってて
いいんでしょうか?
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糸井 |
いや、いまさら。
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田口 |
いまさらなにを。
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糸井 |
せっかくだから、どうぞそのまま。
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恵美子 |
いえいえ、私はもう、ほんとに‥‥。
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田口 |
ひと言もしゃべるなと言うたのに‥‥。
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糸井 |
家でも、とにかく、
田口さんは野球なんですね?
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恵美子 |
もーー、野球のことしか考えてません!
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田口 |
あの、だから‥‥。
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恵美子 |
24時間、野球の話をしてるんですよ。
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糸井 |
24時間。
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恵美子 |
はい。朝も、昼も、夜も。
夜、ベッドとか入って暗くして、
ちょっといいムード、とかないんですよ。
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糸井 |
「ちょっといいムード」(笑)。
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恵美子 |
彼にとっての「ベッドでいいムード」っていうと、
「明日は打てる気がする!」
「なんかまたやる気が湧いてきた!」
っていう野球のムードなんです。
そんなことを、私は、ベッドで聞きたくない。
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糸井 |
はははははは。
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恵美子 |
なんで、私は、ベッドのなかで、
今日の打席を1球目から
細かく細かく振り返らなきゃいけないのか、と!
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一同 |
(笑)
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糸井 |
それはもう、球種からコースから、
体感する速度までわかる振り返り方で。
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恵美子 |
ええ。
ものすごく贅沢な解説を聞かされるんです。
シーズン中は、ほぼ毎日。
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糸井 |
はははははは、
どうなんですか、田口さん。
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田口 |
‥‥ベッドの中は、
イメージトレーニングに最高の場所なんです。
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一同 |
(笑)
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恵美子 |
わたしはイメトレが終わってから
ベッドに入ってきてほしい!
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一同 |
(爆笑)
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恵美子 |
いや、誤解をまねくような発言でしたが、
つまりは野球を捨てて、ひとりの夫として
ベッドに入ってきてほしいんですけど
もう、いわばユニフォーム着たまま、
ずかずか入ってきて。脱がんかい! と。
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田口 |
「脱がんかい!」のほうが
誤解をまねくんとちゃうか。
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恵美子 |
あ!
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糸井 |
ははははは。
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田口 |
いや、ほんと、ベッドの中は、
イメージトレーニングに最高なんです。
目をつぶりながら、いろいろこう、考える。
そうすると、打席のいいイメージが、こう‥‥。
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恵美子 |
ベッドはそういう場所じゃありません!
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糸井 |
おもしろいですねぇー。
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恵美子 |
そういう感じで、ずっと野球なんです。
もう、いろんなところまで、細かく、野球。
だから、私、渡米してすぐのころ、
この人は2、3年でダメになって
日本に帰るんじゃないかなと思ってたんです。
というのは、けっこう神経質というか、
細かすぎるところがあるから。
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糸井 |
あー、なるほど。
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恵美子 |
ところが、アメリカに行ったら、
逆に、そこがはじけてしまって!
アメリカのおおらかさを
思いっきり吸収しちゃったんですね。
で、のびのびする楽しさを覚えたときに
日本に帰って来ちゃったから、
またそのギャップに苦しんで。
その点では、ほんとにかわいそうというか、
いらん苦労をずっとしてるというか‥‥。
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田口 |
キミ、しゃべりすぎちゃうかな?
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糸井 |
もともとは田口さんって、神経質なんですか。
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恵美子 |
というか、日本にいたとき、
神経質にならざるを得ない
環境の中にいたんだと思います。
いつもキャプテンだったり
選手会長だったり、優等生だったから。
こうしなきゃいけないっていう。
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糸井 |
ははぁー、なるほど。
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永田 |
あ、すいません、そこで質問があります。
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糸井 |
どうぞ。
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永田 |
田口さん、プロに入られたとき、
イップス(精神的な原因により、運動選手が
思い通りのプレーがまったくできなるなる現象)
になられてますよね?
それが、いまの田口さんの個性と
なんだか合わないような気がしていたんですが、
そのころの田口さんはやっぱり、
いまよりも追い詰められていたというか、
ナーバスな状態だったんでしょうか。
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田口 |
あ、そうですね。
それは、いまならわかるんですけど、
ぼく、野球をね、まともに習ったことがなくて
プロに入ってるんですよ。
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糸井 |
え?
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永田 |
え?
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田口 |
たとえば、中学のときはまぁ、
普通に学校の先生が野球部の監督ですよね。
高校は日体大の器械体操部出身の先生が
野球部の監督をやってたんですよ。
「俺は大車輪できる」って豪語する野球部監督。
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糸井 |
(笑)
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田口 |
中学も高校も、野球と関係ない人が監督で。
で、大学に入ったら、
理論はすごく持ってらっしゃる
監督さんだったんですけども、
すごく仕事が忙しい人で、
もう、週に1回2回ぐらいしか
練習に出てこれない状態だったんですよ。
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糸井 |
ほぅ。
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田口 |
だから、練習はこれとこれをやっとけ、
っていう感じの監督だったんです。
あとは自分で考えろ、みたいな。
そういう状態でぼくプロに入ったんで、
ぼく、入ったときに、なんかを言われると、
ぜんぶやらないといけないと思っちゃったんです。
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糸井 |
ああー。
「自分はなんにも知らなかったんだ!」
と思っちゃったんですね。
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田口 |
そうなんです。
あ、こうなんだ、ああ、こうなんだ
これはこうなんだ、って思ってしまって
それから、一回おかしくなったんですよ。
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糸井 |
ということは、プロに入るまでは、
ひとりでぜんぶ、できてたってことですか。
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田口 |
はい。
自分の体の動きとか、つくりとか、
そういう特徴を自分なりに考えて、
自分の感覚だけで、自分の野球をやってたんです。
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糸井 |
はーー、それはそれですごい。
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田口 |
ですから、ポンとプロに入ったときに
バッティングの専門のコーチがいて
守備の専門のコーチがいて‥‥
もう、なんだこのすごい人たちは、って。
これ、ぜんぶ聞かなあかんのか、って。
で、こんなことして、大丈夫かなっていう
不安や疑問もありつつ、
でも聞かないといけないなっていう感じで。
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糸井 |
素直って言えば、素直ですよね。
そういう意味でいうと、
ほんとに新しい場所で、いいものをきちんと
ぜんぶ吸い込んじゃう人なんですね。
思えば、メジャーのすばらしさも
そうやって吸収してきたわけじゃないですか。
カージナルスのトニー・ラルーサ監督のよさも、
フィリーズのマニエル監督のよさも。
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田口 |
はい。そうですね。
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糸井 |
いいところは、ぜんぶ、すなおに。
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恵美子 |
ただし、野球に関してのみ、です!
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一同 |
(笑)
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糸井 |
野球以外は吸い込まない?
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恵美子 |
いっさい!
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糸井 |
ははははははは。
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田口 |
あの、ちょっと、キミ。 |
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(つづきます) |