野球の人。  〜田口壮、21年目の選択〜
 


恵美子 っていうか、私、こんなにしゃべってて
いいんでしょうか?
糸井 いや、いまさら。
田口 いまさらなにを。
糸井 せっかくだから、どうぞそのまま。
恵美子 いえいえ、私はもう、ほんとに‥‥。
田口 ひと言もしゃべるなと言うたのに‥‥。
糸井 家でも、とにかく、
田口さんは野球なんですね?
恵美子 もーー、野球のことしか考えてません!
田口 あの、だから‥‥。
恵美子 24時間、野球の話をしてるんですよ。
糸井 24時間。
恵美子 はい。朝も、昼も、夜も。
夜、ベッドとか入って暗くして、
ちょっといいムード、とかないんですよ。
糸井 「ちょっといいムード」(笑)。
恵美子 彼にとっての「ベッドでいいムード」っていうと、
「明日は打てる気がする!」
「なんかまたやる気が湧いてきた!」
っていう野球のムードなんです。
そんなことを、私は、ベッドで聞きたくない。
糸井 はははははは。
恵美子 なんで、私は、ベッドのなかで、
今日の打席を1球目から
細かく細かく振り返らなきゃいけないのか、と!
一同 (笑)
糸井 それはもう、球種からコースから、
体感する速度までわかる振り返り方で。
恵美子 ええ。
ものすごく贅沢な解説を聞かされるんです。
シーズン中は、ほぼ毎日。
糸井 はははははは、
どうなんですか、田口さん。
田口 ‥‥ベッドの中は、
イメージトレーニングに最高の場所なんです。
一同 (笑)
恵美子 わたしはイメトレが終わってから
ベッドに入ってきてほしい!
一同 (爆笑)
恵美子 いや、誤解をまねくような発言でしたが、
つまりは野球を捨てて、ひとりの夫として
ベッドに入ってきてほしいんですけど
もう、いわばユニフォーム着たまま、
ずかずか入ってきて。脱がんかい! と。
田口 「脱がんかい!」のほうが
誤解をまねくんとちゃうか。
恵美子 あ!
糸井 ははははは。
田口 いや、ほんと、ベッドの中は、
イメージトレーニングに最高なんです。
目をつぶりながら、いろいろこう、考える。
そうすると、打席のいいイメージが、こう‥‥。
恵美子 ベッドはそういう場所じゃありません!
糸井 おもしろいですねぇー。
恵美子 そういう感じで、ずっと野球なんです。
もう、いろんなところまで、細かく、野球。
だから、私、渡米してすぐのころ、
この人は2、3年でダメになって
日本に帰るんじゃないかなと思ってたんです。
というのは、けっこう神経質というか、
細かすぎるところがあるから。
糸井 あー、なるほど。
恵美子 ところが、アメリカに行ったら、
逆に、そこがはじけてしまって!
アメリカのおおらかさを
思いっきり吸収しちゃったんですね。
で、のびのびする楽しさを覚えたときに
日本に帰って来ちゃったから、
またそのギャップに苦しんで。
その点では、ほんとにかわいそうというか、
いらん苦労をずっとしてるというか‥‥。
田口 キミ、しゃべりすぎちゃうかな?
糸井 もともとは田口さんって、神経質なんですか。
恵美子 というか、日本にいたとき、
神経質にならざるを得ない
環境の中にいたんだと思います。
いつもキャプテンだったり
選手会長だったり、優等生だったから。
こうしなきゃいけないっていう。
糸井 ははぁー、なるほど。
永田 あ、すいません、そこで質問があります。
糸井 どうぞ。
永田 田口さん、プロに入られたとき、
イップス(精神的な原因により、運動選手が
思い通りのプレーがまったくできなるなる現象)
になられてますよね?
それが、いまの田口さんの個性と
なんだか合わないような気がしていたんですが、
そのころの田口さんはやっぱり、
いまよりも追い詰められていたというか、
ナーバスな状態だったんでしょうか。
田口 あ、そうですね。
それは、いまならわかるんですけど、
ぼく、野球をね、まともに習ったことがなくて
プロに入ってるんですよ。
糸井 え?
永田 え?
田口 たとえば、中学のときはまぁ、
普通に学校の先生が野球部の監督ですよね。
高校は日体大の器械体操部出身の先生が
野球部の監督をやってたんですよ。
「俺は大車輪できる」って豪語する野球部監督。
糸井 (笑)
田口 中学も高校も、野球と関係ない人が監督で。
で、大学に入ったら、
理論はすごく持ってらっしゃる
監督さんだったんですけども、
すごく仕事が忙しい人で、
もう、週に1回2回ぐらいしか
練習に出てこれない状態だったんですよ。
糸井 ほぅ。
田口 だから、練習はこれとこれをやっとけ、
っていう感じの監督だったんです。
あとは自分で考えろ、みたいな。
そういう状態でぼくプロに入ったんで、
ぼく、入ったときに、なんかを言われると、
ぜんぶやらないといけないと思っちゃったんです。
糸井 ああー。
「自分はなんにも知らなかったんだ!」
と思っちゃったんですね。
田口 そうなんです。
あ、こうなんだ、ああ、こうなんだ
これはこうなんだ、って思ってしまって
それから、一回おかしくなったんですよ。
糸井 ということは、プロに入るまでは、
ひとりでぜんぶ、できてたってことですか。
田口 はい。
自分の体の動きとか、つくりとか、
そういう特徴を自分なりに考えて、
自分の感覚だけで、自分の野球をやってたんです。
糸井 はーー、それはそれですごい。
田口 ですから、ポンとプロに入ったときに
バッティングの専門のコーチがいて
守備の専門のコーチがいて‥‥
もう、なんだこのすごい人たちは、って。
これ、ぜんぶ聞かなあかんのか、って。
で、こんなことして、大丈夫かなっていう
不安や疑問もありつつ、
でも聞かないといけないなっていう感じで。
糸井 素直って言えば、素直ですよね。
そういう意味でいうと、
ほんとに新しい場所で、いいものをきちんと
ぜんぶ吸い込んじゃう人なんですね。
思えば、メジャーのすばらしさも
そうやって吸収してきたわけじゃないですか。
カージナルスのトニー・ラルーサ監督のよさも、
フィリーズのマニエル監督のよさも。
田口 はい。そうですね。
糸井 いいところは、ぜんぶ、すなおに。
恵美子 ただし、野球に関してのみ、です!
一同 (笑)
糸井 野球以外は吸い込まない?
恵美子 いっさい!
糸井 ははははははは。
田口 あの、ちょっと、キミ。
  (つづきます)

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2012-04-23-MON

 
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