本を読むように、 毎日、街を読んでいた。 平武朗さんのファッション・デザイン
第2回 10年間、毎日、洋服屋をめぐってきた
糸井 平さんが、デザイナーとしてたいせつにしている
「着る人の気持ち」って、
どうやって磨かれてきたと思いますか、ご自身では?

それは、自然にやってきたことだと思うんです。

もともと、洋服や古着が大好きで、
いろんなお店を回るのが、
ここ10年くらいの、毎日の習慣になってて‥‥。

糸井 ‥‥「10年間、毎日」、ですか!?
ええ、主要な洋服屋さんを
毎日、ぜんぶ見るぐらいの感覚でしたね。
糸井 ぜんぶって‥‥いいますけど(笑)、
渋谷とか原宿だけに
お店が集まってるわけじゃないでしょう?
もちろん、代官山や中目黒、恵比寿のほうにも
たくさんありますよ。

そのあたりにある洋服屋さんを、
ぐるーっと、歩いてひと回りする感じですね。

糸井 それは、ファッションのプロとなった今でも?
さすがに、むかしほどではないですけれど、
今も時間を見つけて、お店は見ています。
糸井 じゃあ、まだ「ひとりのお客さん」として、
洋服屋さんを回ってたときって、
いずれ、ファッションを仕事にしようとは‥‥?
ぜんぜん、思っていませんでした。

18歳の時に友人に誘われて
ファッションショーを見に行ったんです。
その時に、ショーの演出とか音楽(BGM)に
すごく興味を持ったんですね。

それからDJをやるようになって
そのまま音楽でやっていけたらいいなと思っていました。

洋服については、ほんとに大好きだったんですけど、
ただただ見る側、買う側にいたんですよね。

糸井 でも、その後、ファッションの専門学校に。
ええ、人よりだいぶ遅いんですけれど‥‥。

23歳くらいのときに、
やっぱり、ファッションでやっていきたいと思って、
文化服装学院に入学したんです。

糸井 今が、28歳‥‥くらいでしたっけ?
そうです。
糸井 なるほど、それだけ徹底的にやってきたから、
そのスピードなんだ‥‥。

いや、つまりね、23歳で専門学校に入るまえには、
いわゆる「洋服の勉強」は、
やったことなかったわけですよね?

ええ、基本はDJでしたから。
レコードと洋服が好きで好きで、
日々それらを探しまわっていました。
糸井 ただファッション好きのお客さんとして
洋服屋さんを回ってたんですよね?
ええ、もう、ひっきりなしに。
お店に行かないと、不安になるんです(笑)。
糸井 起きたら「さあ、出かけるか!」みたいな?
顔を洗って歯を磨いたら、その次にやることというか‥‥。
毎日、欠かさずやってる「日課」でした。
糸井 雨が降ろうが、槍が降ろうが。
あ、雨の日は、お店にお客さんが少ないから、
洋服が見やすくて、いいんですよ(笑)。
糸井 はー‥‥(笑)。
だいたい、DJの仕事って
夕方から深夜すぎまであるんです。

でも、洋服屋さんに行かないでいると
不安になってくるので(笑)、
朝方の5時ぐらいに寝たら、午前中には起き出して、
お昼にはもう、どこかのお店にいましたね。

当時は、代官山あたりに住んでいたので、
代官山から渋谷、明治通りを原宿まできて、
千駄ヶ谷まで足を伸ばして‥‥。

そこから、表参道まで戻ってきて、
骨董通りをそのまま西麻布のほうに抜けたら、
恵比寿、中目黒を回って、代官山に帰ると。

糸井 いや、おどろいたなぁ(笑)。
主要な洋服屋さんが集まっているところは
だいたい、毎日ウロウロしていました。

アパレル会社でバイトしていたこともあるんですけど、
そのときも、お昼休みに抜け出して、
近くにあるショップを、見て回っていましたね。

糸井 しかも、必ずしも買いものしてるわけじゃ、
ないんでしょう?
はい、まだ若かったので‥‥。
糸井 そんなにお金ないですもんね。
だから‥‥なんと言ったらいいんでしょうね、
あのお店、今日はどうなってるだろう、
明日はどうなるんだろうって、
毎日毎日、見て回っていたという感じです。
糸井 本を読むように、街を読んでたわけだ。

うわぁ、その表現、ピッタリかもしれません。

糸井 一流として通用するような人っていうのは
そういうふうになってくんだよって、
ぼくも、理念としては言うんですけど‥‥。

じっさい、本当にこれだけやっている人には、
会ったことがなかったです。

そんなことやっていくうちに、街を歩いていても、
あ、あの服はあの店で2年前くらいに買ったんだなとか、
あのブランド、デザイナー変わったなとか‥‥
なんか、そういうことが
もうパッとわかるようには、なっていました。

自分でも
「オレ、タウンページみたいだなぁ」なんて(笑)。

糸井 いや、さらっと言いますけどね、
ほんとに、すごいことだと思うんですよ。

ハタチになるまえからずっと、
毎日毎日、足を棒のようにして街を見続けて、
睡眠時間を削ってまで
洋服屋さんをめぐってきた経験って、
今、すごく財産になっているでしょうね。

はい、それは。
糸井 本が一冊、書けちゃうくらいの経験だと思いますよ。
ええと、そうなんでしょうか(笑)。
糸井 いや、それだけ街を歩いて、店を見て回るのって、
受け手として
完全にプロフェッショナルじゃないですか。

ぼくがよく言うことばでいえば、
平さんは「消費のクリエイティブ」ということを
無意識のうちに、しかも徹底的に
やりこんできた人なんだと思うんですよね。

消費のクリエイティブ。
糸井 うん、「消費する」ということが
平さんのクリエイティブに直結してるんです。

ぼくは、そういうふうに、
「受け手のプロであるつくり手」が、
次の時代を担っていくって、ずっと思ってたんですよ。

  <つづきます>
 
Military is Extremely
軍用の作業服や、ユニフォームというのは、
たとえば、すごくたくさん、いたるところに
ファスナーやポケットがついていたり、
防寒性や耐久性など機能面でも、
すごく徹底的につくりこまれています。

そんな衣服としての「極端さ」「非日常感」に
触発されたシリーズが
この「Military is Extremely」です。

このケースでは、
「戦中にいったい何が起こったのか」をイメージして、
限界までボロボロに加工したミリタリーニットを
スキャンして、プリントしています。
「未知の激しさ」っていうのが、
極端さの表現になっているわけです。

Desertic のなかでも、
とくに「激しい」デザインのシリーズです。

 
Out of Control Broken hand intarsia
シリーズ名の「Out of Control」とは
「制御不能」という意味。

「ニットを編む機械が壊れてしまって
 制御不能になってしまい、
 でたらめに、勝手に洋服を編みはじめた‥‥」
あるいは、
「まったく言葉の通じないニッターさんに頼んだら、
 こんなニットができあがってきちゃった」

そんなストーリーを背景にしたシリーズなので、
コットンやウール、麻など、
いろんな種類の糸が、いっしょくたに編まれていたり、
それまでとちがう編みかたが、
突然、一箇所だけ入ってきたり、
編み地じたいが壊れてしまっていたり‥‥と、
デザインやつくりかたの面で、
かなり、実験的な手法を用いています。

2008-04-03-THU
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