本を読むように、 毎日、街を読んでいた。 平武朗さんのファッション・デザイン
第3回 自分が「よろこぶ」ことをする
糸井 それじゃ、洋服の専門学校で学んだことって、
今の仕事に活かされていると思いますか?
はい、洋服のパターンとか、基本的なことを
学ぶことができましたから。
糸井 それって、街を歩くことで学んだ以外のもの、
つまり「技術」や「ノウハウ」の部分ですよね。
ええ、でも、街を歩いているあいだに、
表面のデザインだけじゃなくて、
洋服のシルエットだとか、裏側のつくりだとか‥‥
そういう部分はずーっと、見てきてたんです。

だから学校で、パターンの構造を改めて学んだことで、
ぼくのアイディアをかたちにするとき、
パタンナーさんや
ニッターさん(ニットを編む職人さん)に
より的確に
やりたいことを伝えられるようになったとは思います。

糸井 「魅力をつくりだす」という仕事においては、
職人的に磨き上げられる部分って、
あるていど、技術とかノウハウで補えると思うんですね。
はい、そうですね。
糸井 でも、これからの時代のつくり手に問われるのは
やっぱり「街を歩いて、得てきたもの」じゃないかと
思うんですよ。
それが、糸井さんのいう「着る人の気持ち」ですね。
糸井 そう、このブランドのTシャツがかっこいいとか、
あの店で見たスカートがかわいかったとか‥‥。

そういうことを考えている時間のほうが
ぜんぜん長いし、楽しいでしょう、みんな。

そこが充実してる「つくり手」がたくさんいたら、
街に、もっと、すてきなものが増えるんだろうなぁ。
糸井 うん、そのとおりですよね。
でも、ファッションを仕事にしようと決めてから
気がついたことなんですけど、
ずーっと一日中、お店を回るのって、
夕方ぐらいになると、すごーく疲れるんですよ(笑)。
糸井 それは、そうでしょう!(笑)

ずーっと、ぐるぐる歩き回っているわけですから、
足が痛くなってくるとか、
肉体的な疲れも、もちろんあるんですけど‥‥。

なんかもっと、意識がぼーっとしてくるような(笑)。

糸井 だから、「消費のクリエイティブ」を
本気でやろうとしたら、
それだけ、たいへんだってことなんだと思います。

夕方になったら、意識が朦朧としてくるってくらいに。

仕事のことをぜんぜん考えなくてよかったら、
もっと楽だったのかも‥‥なんて(笑)。
糸井 でも、それじゃつまらないでしょう。
ええ、つまらないと思います。

なんかこう、
ずっと洋服屋を回ってきたその情報を
ひとつのデザインにまとめることが
たのしいんだと思うんです。

糸井 自分が「よろこぶ」んですよ。
はい。
糸井 「ほぼ日」がやろうとしてきたことも、そうなんです。

よろこんでいる自分たちと同じように、
よろこんでくれるお客さんを
ひとりでも増やしていきたいってことなんですよね。

お客さんに「買ってもらう」というよりも‥‥。
糸井 お客さんの笑顔を、ふやすこと。
そうか‥‥。
糸井 だからね、今日、お話ししながら思っていたのは、
平さんと「ほぼ日」が、何かいっしょにやったら、
おもしろそうなことができそうだなって。
ええ、ぜひ、何かやってみたいですね。
糸井 じつを言うとね、平さんのようなデザイナーを
ずーっと探してたんですよ、ぼく。

もう、ファッションの専門学校かなんかに
スカウトにいこうかと思っていたくらいで(笑)。

えっ、糸井さんご自身で?
糸井 うん、だから、平さんからメールをもらったとき、
正直いって「オレ、ついてるかも!」って(笑)。
ははは(笑)。

糸井 いっしょに何ができるかは、これからご相談ですけど、
街を歩いて、街で考えて、
街を読んできた平さんに手伝ってもらえたら‥‥
「ほぼ日」の読者にも、
もっともっと、よろこんでもらえるだろうなぁ。
そのお手伝いができたら、うれしいですね。
糸井 この先の平さん、楽しみにしてます。
はい、今よりもっと多くのお客さんが
よろこんでいる顔、見てみたいです。
糸井 うん、見えたらきっと‥‥うれしいよー!
これにて、平武朗さんとの対談は、終わりです。
ご愛読、ありがとうございました。

さて、お話の最後のほうにも出てきましたが、
平さんとのコラボレーション企画を、
さっそく、スタートいたします!

まずはお披露目として、来週4月9日(水)から
平さんのブランド「Desertic」の商品を、
期間限定で販売いたします。

ことし(2008年)の春夏ものとして
セレクトショップ等で販売されていた商品ですが、
取扱店では、ほぼ完売しているものを
今回、特別に増産していただけることになりました。

さらに、第2弾の企画も
現在、ちゃくちゃくと準備を進めていますよ。

どうぞ、いろいろ、おたのしみに!

 
Liquid Knit Series Polo
学生時代のメモを見返していたら、
「トラッドなものを流動的に捉える」と
書き付けてあり、
その文章から着想を得て
できあったのが、このポロシャツです。

ポロシャツって「トラッド感」や「清潔感」が
特徴だと思うんですが、
この「リキッドニット」のポロは
よく見ると、襟のかたちや前立ての部分が
溶けてしまったようなデザインになっています。

きっちり、優等生的に着れるアイテムを
あえて崩した「違和感」を
ファッションとして楽しんでほしい一着です。

 
Primitive Fragment Full hand knit Frame
学生のころ、
「歌詞のないハウスミュージック」っていうのに、
惹かれていた時期があるんです。
中身がなくて、容れ物だけが、きっちりとつくられている。
このシリーズは、それを洋服で表現したものです。

これは、絵画の「額ぶち」を手編みの糸でつくり、
それをボディ前面に縫い付けたTシャツです。

きっちりと装飾的につくられた、
クラシックな額ぶちのなかは、あえて「空っぽ」。

「重要な部分が抜けているからこそ、
 それを囲むワクが際立ってくる」
というアイディアです。

2008-04-04-FRI
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