ほぼ日手帳2016 PRESENTS 手帳のことば展
似ているふたり、
初めてのことば。
松本隆×糸井重里スペシャルトーク


第2回 憧れと嫉妬心
松本
いきなり歌詞が世に出ても
本人も、周りもワケがわからない。
でも、ちょうど『ポケットいっぱいの秘密』の
バッキングのスタジオミュージシャンが、
細野さんの「キャラメル・ママ」。
のちの「ティン・パン・アレー」ですね。
糸井
あぁ。
松本
最近知ったんだけど、
キーボードで矢野顕子さんも入っていて。
糸井
はいはいはい。
松本
それなのに、なんで糸井さんは
僕だけを羨ましいって言うんだろう(笑)。
糸井
いやいや。もうさすがに今ではね、
恨みも憧れもしないように人間が大きくなりましたが、
若くて飯が食えるか食えないかわからない頃って、
似たような年代の人の動きって、気になるんですよ。
松本さんに目が行く前の段階では、
横尾忠則さんとか、唐十郎さんとか、
ああいう人が何やってるかっていうのを
観に行っては落ち込んでたんです。
松本
はあー。唐さんには憧れてましたよ。
あと、人形作家の四谷シモンとか麿赤兒とかね。
あの人たちがよく新宿の喫茶店にいたんですよ。
で、遠くのテーブルにいたのを見たことあるんです。
糸井
野武士がその辺を歩いてるみたいだったでしょう?
松本
そうそうそう。
豊臣秀吉と織田信長がお茶飲んでるみたいな(笑)。
それを遠くから見て「あぁ、素敵だなぁ」と思ってて。
糸井
今考えてみれば、若い人が伸びてきてる
盛りみたいな存在だったはずなんだけど、
あの人たちの主観としては、
天下を取ったような顔してましたよね。
その自信がうらやましかったんだと思うんですよ。
松本
今でもね僕、Twitterでフォローしてるんですけど、
四谷さんカッコいいですよね。
糸井
あんなふうに自信たっぷりに生きてるっていうのは、
僕の若さと、僕のそれまで生きてきた道のりからしたら、
やっぱりあり得ないんです。
年上の人だからしょうがないかってところもあったけど、
いい映画を観ては落ち込んでいました。
たとえば「状況劇場」を観に行ったら、
唐さんが途中からパッと出てくると満場のファンが、
「唐ぁっ!」って叫ぶわけですよ。
松本
僕もね、唐組の「紅テント」観に行ったんですよ。
一番後ろの席で、テントだから角度が45度になる。
だから僕はずっと中腰で、背中にテントがあるわけ。
糸井
わかる、わかる(笑)。
松本
前の人がぎっしりいる中で
なんで俺、こんな窮屈な姿勢で
芝居観なくちゃならないんだろうって。
糸井
あぁ。それをみんなが平気で我慢してたし、
棒を持ったクマちゃん(篠原勝之)がさ、
「そこの地面がちょっと見えてるぞ!」
「もっと詰めろ!」って言うと、客がみんなで詰めて。
観客
(笑)
糸井
「もう無理だと思っても、まだ詰まるんだ!」
って言うと、お客さんがまた詰めて。
45度の人なんて、いいほうですよね。
お客さんは水もかぶったりするし。
それを平気でやっていられたんだよね。
松本
あれは、70年代のアングラっていう文化ですよね。
糸井
主観的な強さを持った人が、やっぱり強いんです。
松本さんは「はっぴいえんど」で
バンドマンだった時から、
みんなが聴く音楽を作る作詞家として入ってますよね。
バンドマンとして自分がしたいことをちゃんとやれて、
一方では、人が喜んでくれることをできていた。
僕の主観からすると、
自分に全然力がないと思っているから、
「いやぁ、すごいもんだなぁ」っていう。
松本
「はっぴいえんど」は観ましたか?
糸井
「はっぴいえんど」は生では観てないです。
松本
「はっぴいえんど」はね、
いいバンドだったんです。
観客
(笑)
糸井
そういえば「ガロ」の宮谷一彦さんが
『風街ろまん』のジャケットの絵を描いてましたよね。
僕には、漫画家になりたい時代があって、
「ガロ」の人たちには思い入れがあったんです。
松本
あれ、頼みに行ったんですよ。
最初のアルバム(1stアルバム『はっぴいえんど』)の
林静一さんの時にも直に頼んだんです。
糸井
「ゆでめん」って書いてあるやつ。
松本
あれは新宿の「青蛾」っていう喫茶店でした。
ものすごく小っちゃな2階建ての喫茶店で、
コーヒーをおじいさんが入れてね。
メチャクチャ怖いんですよ。
話ししてると、怒られるんです。
糸井
はぁ。
松本
林静一さんに呼び出されました。
「青蛾まで(原稿を)取りに来てくれ」って。
糸井
「はっぴいえんど」の中では、
依頼するのは松本さんの仕事なんですか?
松本
そうそう。
僕、『風街ろまん』で
クビになってますけど(笑)。
糸井
あらまぁ。
松本
まぁ最初は、うまくいっていたんです。
矢吹申彦さんが全体のデザインをして、
他のメンバーもいなかったから
イラストを頼みに行ったのは僕で。
糸井
なにかと面倒くさいことは、
お前やれよ的なところにいたんですか?
松本
パシリですかね。
観客
(笑)
糸井
ドラムってけっこう、偉そうじゃない?
松本
年齢的には3番目なんですよ。
糸井
細野さんが1番ですね。
松本
細野さんが2個上で、大滝さんが1個上。
そして僕で、2個下が茂(鈴木茂)で。
糸井
あぁ。
松本
茂だけ呼び捨てなんです。
ものすごく年功序列ですね。
糸井
昔の人って、意外と年功序列でしたよね。
松本
それを植えつけてるのは細野さんですけどね。
糸井
あとね、細野さんは声が低い。
松本
やたら貫禄がありますよね。
この間もライブで僕がドラムを叩いたでしょ?
ちょっとミスるでしょ?
するとね、細野さんがかばうような目つきで
僕のほうを振り向くの、心配そうに。
観客
(笑)
松本
それ、たまらなく嫌だった。
過保護のオヤジって感じで。
「ほっといてくれ」と思ったけど(笑)。
糸井
ああ、そうだ。
よくステージの上から、
「よく頑張っている」って言い方を
されてましたよね。
松本
そう、なんかね。
糸井
「ドラム、松本隆。よく頑張ってます」って。
観客
(笑)
松本
細野さんは、とにかく過保護だと思う。
守ろうとするんです。ありがたいですけどね。
本当、足向けて眠れないくらい。
糸井
でも、細野さん自身は、
そんな兄貴分っぽい人じゃないじゃないですか。
松本
いや、隠れオヤジですよ。
糸井
隠れオヤジですか。
僕の知ってる細野さんは
もうちょっと甘えん坊ですよ。
松本
甘えん坊だし、ある意味クールだし。
冷酷なところもあるし、残酷なところもあるし。
でも、僕に対しては、すごい過保護ですね。
糸井
ドラムやってる人って基本的には、
「じゃあ、俺がやるよ」って責任を持ったように
思えるケースが多いんですけど。
昔はドラマーがバンドのリーダーでしたよね?
ジャッキー吉川とか田邊昭知の時代があった後は、
「バンドやろうぜ!」ってなった時に、
「俺、ギター!」「俺、ギター!」「俺、ボーカル!」
「俺、じゃあしょうがない。ベース!」
「誰がドラムやる?」ってなってから、
「じゃあ、俺がやるよ」って決まり方になりましたよね?
松本
僕の場合は最初から、
「縁の下の力持ち」になるのが好きだったんです。
糸井
それは好みだったんだ。
松本
自分が目立つよりも好みですね。
だから、作詞家は向いてたなと思って。天職かも。

(続きます)
2015-10-26-MON