- 松本
- 大学でバンドをやっていた頃には、
踊らせる音を出していました。
軽井沢の三笠会館っていう立派な館で、
毎週土曜日にダンスパーティで演奏していたんです。
- 糸井
- そこでも音楽の種類はR&Bですか。
- 松本
- そうですね、やっぱりR&Bが僕らの基礎ですから。
「はっぴいえんど」でもドラムとベースはR&Bで、
その上にフォークが乗ってるんですね。
- 糸井
- たしかに、そういう構造ですよね。
上に乗っているフォークは、
わりと社会に蔓延していた学生ものの言語ですよね。
ただ、下を支えている下半身は
女の子を口説きに行くような場所で
官能的なものをかきたてる音楽だったと。
- 松本
- うん。グルーヴはけっこう官能的だった。
この間、東京国際フォーラムで演奏した時も、
『花いちもんめ』あたりかな。
演奏してる途中で、自分が乗ってきちゃってね(笑)。
このグルーヴはちょっといいかも、って思った。
- 糸井
- こんなバンドが「はっぴいえんど」だった、
っていうのを思い出すこともあるでしょうね。
R&Bの骨格が出てきちゃったりして。
- 松本
- 解散後には、なかなか集まらないですからね。
もう全然時間がなくて。
やりながら
「あ、これが『はっぴいえんど』だな」と思う。
だいたいね、僕がドラムやるって、
本当にリカバーしなくちゃいけないんです。
40年間のブランクがあるんですから。
- 糸井
- 本当にドラム叩いてなかったんですか?
- 松本
- 全然やってないんです、マジに。
だって、ドラムって1人じゃできないんですよ。
やっぱり、仲間がいないとね。
- 糸井
- 1人草野球ってないもんね。
- 松本
- 石原裕次郎みたいに、
♪おいらはドラマーって
言ってもつまんないし(笑)。
やっぱり、仲間がいないと。
- 糸井
- バンドごっこもしなかったんですね。
- 松本
- 年とったらしたいですけどね。
何の話してるんだか(笑)。
- 糸井
- いやあ、松本さんの根っこに
バンドマンがあるんだっていうのが、
なにしろおもしろいです。
- 松本
- やっぱり、根っこにはありますね。
- 糸井
- で、そこから「お前、詞だな」って
言われたっていう話もまたいい。
- 松本
- それで、すぐその気になっちゃって、
詞ばっかり書いたっていうね(笑)。
- 糸井
- それは楽しかったわけですか?
- 松本
- うん。詞は楽しいですね。
- 糸井
- やっぱり、あの時代に流行っていたものって、
読んでた本なんかに自然に影響されるから、
シュールレアリズムだとか、
それこそ唐十郎さんがやることっていうのは、
順番に言葉を辿っていけば、
誰でもわかるようなことは書いてないわけですよね。
- 松本
- でもね、『風をあつめて』を作った時は、
みんなから、難解だってものすごく言われた。
僕は全然そう思ってないんだけど。
- 糸井
- もっと難解なのを、山ほど作ってますよね。
- 松本
- 全然難解じゃなくて、
ライブの時だって、みんなで合唱したじゃないですか。
あの詞って、すごくシンプルなことを言ってるんです。
「風をあつめて飛びたい」って、それだけなので。
その瞬間の、心の浮遊する感じが
みんなに受けたんだと思うんです。
- 糸井
- たぶん「何が、何して、なんとやら」っていうふうに
わからないと、難解だっていう人はいるので。
作文のように書いてないと難解で、
飛躍はダメっていう人たちはいますから。
- 松本
- まぁ「惚れた腫れた」は全然書いてないから、
それがないとつまらないと思う人もいると思うね。
- 糸井
- 「風って、どうやってあつめるんだよ!」みたいな、
そういうタイプの人がいるから、
しょうがないんですよね。
だから、『風をあつめて』というのは、
松本さんの中では「歌ってればわかるよ」って
言いたくなるような詞ですよね。
- 松本
- 全然やさしい歌だと思うんですけどね。
それでも、わかんないものですね。
- 糸井
- そういえば、レコードジャケットに
松本隆の手書きの作詞が‥‥。
- 松本
- はい、『風をあつめて』は僕の字です。
- 糸井
- ですよね。ああいうの見てると、
やっぱり若い人に特有の漢字の使い方とか、
こういうのやってみたいなぁ、
みたいな気持ちが表れてますね。
- 松本
- もうね、異常に変な漢字でね。
- 糸井
- あの遊びが、とっても楽しかったんでしょうね。
- 松本
- あれは若気の至りです(笑)。
あの時ね、ちょうど
ゴシックロマンスっていうのが流行っていて。
- 糸井
- 『黒死館殺人事件』とか。
- 松本
- むずかしい漢字がいっぱいあって
あれは好きだったんですよ。
- 糸井
- ああいう本を読むと、
「俺もやってみたいな、できるかな」
っていう気持ちになるんですよね。
松本さんの『風をあつめて』も
歌詞が字幕で出るんだけど、
ステージにいる若い女性の歌手とかは
読めないっていうか、知らないの。
当て字で書いてあったり、難しい字で読ませるから。
そんな遊びを、若い人たちが
暴走族のようにやってたんですよね。
あれって、小さなエリート意識なんでしょうかね。
- 松本
- いやぁ。若い頃にはあったねえ。
- 糸井
- アグネス・チャンには、
あんなことしてないですもんね。
- 松本
- アグネスの時には、とにかくやさしく。
誰でもわかるように。
- 糸井
- でも、自分が作りたいものじゃなくて、
みんなが喜んでくれるものを作るところに、
どうやってポンッと行けたんですか。
- 松本
- それはね、ライブの2日目に言ったんですけど、
僕には病弱な妹がいたんです。
だから、学校に行く時に妹の分まで
ランドセルを持っていってあげた。
肩に2個持ちですよ。
- 糸井
- 小学生だと自分も小さいから、
2つ持つって、けっこうなもんですよね。
- 松本
- 重さはまだいいんですけど、
赤いランドセルを持ってると、
友達にからかわれるのが、ちょっと嫌でね。
- 糸井
- あぁ、なるほど、なるほど。
- 松本
- 「なんで俺はこんなことしてるんだろう」と思うんだけど
結局、そういう妹と一緒に育っていくわけですから。
普通の人よりも、生と死の境界線みたいなものが、
日常の中で畳の目のようにあるわけです。
そういうのを感じやすくなっていたんですよね。
- 糸井
- うん、うん。
- 松本
- 僕には、妹が持てないランドセルまで
持ってあげることが身に染みついているから、
歌手のために何かするっていうのも自然なことでしたね。
だから、これが天職だったんだと思います。
- 糸井
- 何かをしてあげるっていうことが、
身に備わってるっていう感じなんですかね。
- 松本
- そう。もう1つは生き方として、
誰でも、自分が得したいわけじゃないですか。
でも、自分が得する時に、
周りにいる2、3人にも、できれば得してほしい。
これはきっと、糸井さんもあると思う。
- 糸井
- ありますね、それは。
- 松本
- 自分だけじゃだめで、一緒に得できるような
ちょっとしたハンドリングがあるわけですよ。
それがたぶん、僕にできたんだと思うし、
糸井さんも今も実践してるはず。
- 糸井
- あぁ。だから、楽しいってことですね。
- 松本
- うん、そうです。
ライブにお客さん1万人が集まって、
裏方のスタッフもいてくれて、
ステージの上の人たちも集まってくれる。
まぁ別にさ、そういうもののために
やっていたわけじゃないんだけど。
- 糸井
- うん、うん。よくわかる。
- 松本
- いつか、こういうことがあればなという理想ですね。
妹は26歳で死んじゃうんですけど、
生まれた時には「1年もたないだろう」って
言われていたのが26歳までもったわけで。
彼女なりに人生を全うできたと思うし、
兄としてもよかったと思う。
そんなことだろうと思うんですよ、人生って。
それなら、終わってもいいんじゃないかな。
だから、この間のライブで
もう人生終わってもいいような気がする。
- 糸井
- 確かにあのライブは、素晴らしいものでした。
もう本当に集大成っていうか。
- 松本
- 僕がライブの後で、
「この45年‥‥生きて、幸せでした」
とか言ったらしいんだけど。
もうね、頭が何言ったか覚えてないんです。
なんで、キャンディーズみたいなこと言ったんだか。
- 観客
- (笑)
- 糸井
- いや、僕は本当にね、
ライブで何も用意していない言葉を絶えず
しゃべっていた松本さんに、
とても好感を持っているんです。
- 松本
- そんな、お恥ずかしいです。
- 糸井
- いやあ、よかったですよ!
人間って、存在自体に価値があるわけですけど、
そこに何かを付加したいと思うから
考えていることをしゃべったりするんです。
自分が主役なのに、何にも考えてないぞ、と思って。
それが松本隆に見えたから、いいですね。
- 松本
- 僕がメインでやってるからしゃべれなんてさ、
明石家さんまみたいにしゃべったら、
みんなから引かれると思うんだ。
- 糸井
- 「さぁ皆さん、ようこそいらっしゃいました!
松本隆でございます!」
- 観客
- (笑)
- 糸井
- それは、また逆に見てみたいけど。
- 松本
- キャラじゃないからね。
ライブの時には、ドラム叩くのにもう精一杯で。
命ギリギリって、こういうことだなって(笑)。
間違えると、細野さんが振り向くし。
- 糸井
- 思いやりの目で見たりするし。
- 松本
- なんかさ、慈しみの目で見てきたりして。
ああ、すごく嫌だなーと思って‥‥。
とにかくドラムを間違えずに叩いて、
『はいからはくち』の途中で止まらないように。
確率的には、3割くらいひっかかったと思うんだけど。
フィギュアスケートで4回転とかやるじゃないですか、
ずっとあんな気持ちでした。
- 糸井
- あぁー。
- 松本
- 失敗する確率は3割ぐらいあったと思うけど、
その7割で無事通過。
1日目の演奏、2日目も無事に通過。
もうね、終わったあとに何しゃべるとか、
そんな余裕ないの。
- 糸井
- あの舞台のおもしろさっていうのは、
まずお客さんが喜んでいて、
それから、ステージに立つ歌手の人たちも、
「さぁ、歌うぞ!」ってうれしそうにしてたんだよ。
(続きます)
2015-10-28-WED
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN