ほぼ日手帳2016 PRESENTS 手帳のことば展
似ているふたり、
初めてのことば。
松本隆×糸井重里スペシャルトーク


第6回 共通する、群馬のDNA
糸井
松本さんが若い頃からいろいろできたのは、
東京出身ということが関係してるんだと思うんです。
松本
そうですか。
糸井
たとえば、絵描きにアルバムのジャケットの
絵を直接頼んだっていう話だって、
学生が電話して絵を描いてくれる漫画家、
今だったらいないですよね。
でも当時なら、電話で通じたっていうだけで、
なんか隣組になれたようなことがあったんだと思います。
おそらくそれは、
松本さんが東京という地元で育ったんで、
それを早くにわかったんだと思うんです。
本人にはわかりにくいことなんだけど、
東京って、歩いて行ったら、
みんなの知ってる場所に着くんですよ。
松本
うん、うん。
糸井
つまり、霞町から新宿まで「うわぁ、遠いな」って
言いながらも、どうやって歩いていくかわかるんです。
松本
あ、あのね、僕、全然歩くの苦じゃなくて、
ものすごい歩いたりするの。
糸井
はぁ。
松本
だから、渋谷から青山なんて、本当に日常茶飯事。
父親が大蔵省に勤めていて、
虎の門から青山なんて、年柄年中だし。
糸井
その距離感に人が暮らしていたり、
人が文化を作っていたり、集まっていたりっていうのを
見える景色で捕まえていたから、
「あ、細野さんに連絡してみよう」
みたいなことも気軽にできるんですよ。
たとえば、仮に僕が北海道から出てきたとしたら、
その微妙な距離感は、なかなか掴めない。
他の地域からしたら、すべてが「遠い」んですよ。
松本
でもね、音楽やりだして感じたんですけど、
なんか九州勢に負けてるなぁって(笑)。
糸井
九州のパワーは、また別ですね。
松本
あの人たちはすごい、
腰が入ってるんですよね。
糸井
はぁ。
松本
チェッカーズもそうだし、
松田聖子もそうだし。
九州勢はすごいんですよね。
糸井
九州の人たちは、
芸能の星を持ってる民族かもね。
松本
あはは。違う民族なんだ(笑)。
糸井
やっぱりちょっとずつは違うはずなんで。
そういうのがあるかもしれないなとは思いますよね。
その距離感で、僕らは気圧されちゃうんですよ。
僕は群馬県から来てますから、
野球を見に来てる時とか、動物園に来ている時しか、
東京を知らないんですよ。
そうすると、自分が仕事するようになった時に、
「あれ買ってきて」って言われて
お使いするのにも考えなきゃ行けないんです。
「銀座で何々を買ってきて」って言ったら
それはものすごいハンディキャップで。
松本
あっ、「群馬」に反応しちゃいますけど。
父親は高崎で、母親は伊香保温泉の写真館ですよ。
糸井
伊香保に写真館があるんですか。
松本
あるんです。
糸井
今もある?
松本
3軒くらいありますね。
で、一番古いのがうちなんです。
糸井
てことは、DNAとしては、
松本さんは群馬から来ているんですか?
松本
うん。僕のDNAは、ほとんど群馬です。
糸井
コンコルドの話もそうだけど、
僕らを構成する成分って近いんですねえ。
ああ、どこかで道が違ったんだ。
観客
(笑)
糸井
僕ね、この間ちょっと耳にしたんですけど、
松本さんのお母さんが
ミス伊香保だったっていう話を聞いて。
松本
ミスかどうかはわかんないですけど、
国鉄のポスターにはなりましたね。
糸井
それは立派に、ミス伊香保ですよ。
松本
でもね、本当にぶっ飛んだ母親でした。
芸者の神輿に入っちゃうんですよ。
伊香保の祭りって、本当にすごい乱暴の神輿で、
石段をこう登ろうとする神輿を、上から蹴落とす。
糸井
はああ。
松本
ケガするんじゃないかなみたいな。
群馬もひょっとしたら、
もっとおとなしい神輿になってるかもしれないけど。
糸井
いやあ、それはすごいお母さんだ。
群馬っていう風土が持っている何かは、
僕はあんまり考えたことはないんですけど、
言葉を職業にする人は
実はけっこう多いっていうのは確かなんですよね。
松本
萩原朔太郎。
糸井
朔太郎とかもそうですね。
でも、「松本隆が」っていうのは、
ついこの間、聞いて「えぇっ?」と思った。
僕は西麻布の人と思ってましたから。
松本
お祖父ちゃんがカメラマンだったんですよ。
糸井
へぇ。
松本
徳富蘆花っていう人がいるでしょ?
糸井
はい。
松本
あの人が伊香保に来ると、お祖父ちゃんが
徳富蘆花に呼び出されたそうなんです。
「散歩するから、ついて来い」って。
だから蘆花の写真もいっぱい残ってるんです。
糸井
いっぱい残ってますよねえ。
松本
それをね、お祖父ちゃんが撮ったんです。
僕の中にも、そういう群馬のDNAが
少しは入ってるかもしれない。
糸井
ああ、本当に近いところにいたんだなあ。
この会場にいらっしゃる方はもう、
「はっぴいえんど」はだいぶ聴いてると思いますけど、
聴いていない人がいたら、聴かせてみたいですね。
この間のライブもよかったもん。
松本
ありがとうございます。
松本
糸井さんは何がよかったですか。
糸井
それは「はっぴいえんど」ですよ。
「よくやってたな、あの時代に」と思いましたよね。
ライブでは、見えない大滝さんが見えたり、それから、
「細野さんに若い時があったんだなぁ」と思ったり。
その、子どもみたいに見える時があるわけですよ。
松本
でも細野さん、
初対面からおじいさんでした。
観客
(笑)
松本
初めてコンコルドで会った時に思ったの、
「この人、なんかおじいさんみたい」って。
今はもう、本当のおじいさん。
糸井
ほんっとに、それぞれに扱いにくい人たち(笑)。
あの、今日初めて会って、こうして話してきましたけど、
ご迷惑でなかったらよろしいんですが、
おもしろかったですか?
松本
おもしろかったです。
糸井
初めての人と話すのって、
基本的にはちょっと辛いんですけど、
今日はおもしろかったなぁ。
松本
そうですね。
糸井
どこか僕の中に、
バンドのファンみたいな気持ちが残っていて、
それが混じってるのがおもしろかった。
松本
まぁ、「はっぴいえんど」はね、
いいバンドですから聴いてください(笑)。
糸井
本当、いいバンドです。
えー、この辺りで時間が経って終わるんですけど、
プツッと終わりましょうかね。
終わります!
ありがとうございました。
これで、松本隆さんと糸井重里のトークはおしまいです。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました!
2015-10-30-FRI