みんなでごはんを食べる、
楽しさ。
- ──
- 芹澤さんが
モバイルコンテンツの開発会社を辞めて
実家のセロン工業を継いだきっかけは、
何だったんでしょうか。
- 芹澤
- 直接的には、親父が倒れたからですね。
- ──
- 2代目が。
- 芹澤
- 危ないかもしれないと言われたんです。
エンタメ業界、IT業界の仕事は
本当に楽しかったので、
残念ではあったんですが‥‥。
決めてからは、もう四苦八苦しながら。
- ──
- それは「畑ちがい」だったから?
- 芹澤
- それもありましたけど、
「花の業界」を目の当たりにしたら、
まぁ‥‥厳しかったんです。
- ──
- 花が売れない?
- 芹澤
- はい。みんな、花、買わないんです。
営業からはじめたので、
地方の市場や大田市場をまわっても、
マーケットがシュリンクしてまして。
- ──
- そうでしたか。
- 芹澤
- 自分の会社の経営も厳しくて、
これは、花だけじゃ立ち行かないぞと
思っていたときに、
ふと、祖父のプランターに、
最先端のテクノロジーを載せたら‥‥
どうだろうと思ったんです。
2011年、2012年くらいのことです。
- ──
- いまでこそ「IoT」という言葉が
ありますけど‥‥。
- 芹澤
- 当時は、まだ、なかったと思いますね。
あったとしても、少なくとも、
いまほど有名じゃなかったと思います。
- ──
- そうですよね、きっと。
- 芹澤
- で、ちょうどそれくらいの時期に
花業界の方々から
「男性から女性に花を贈る
フラワーバレンタインという活動を
はじめるんだけど、
いっしょにやらない?」と誘われて。
もうクローズしてしまったんですけど
「花贈りnavi」といって、
いまいる場所から
近くの花屋がわかるアプリを開発して、
リリースしたんです。
- ──
- それが現在の展開へとつながる端緒に?
- 芹澤
- ええ、同じくらいの時期から、
いまのビジネスを構想しはじめました。
- ──
- 老舗プランター屋さんの三代目だけど、
もともとモバイルコンテンツの会社で、
「そっち側の人」だったんですものね。
- 芹澤
- さらに前は、ジャズミュージシャンを
目指していたんですけど(笑)。
- ──
- えっ?
- 芹澤
- ジャズサックスと
ジャズピアノを真剣にやってたんです。
- ──
- いろんな過去があるなあ(笑)。
- 芹澤
- わざわざ、東海大学のジャズ研‥‥
日本でいちばん
ジャズミュージシャンを輩出している
大学に入って、
年がら年中、音楽ばっかりやっていて、
ビジネスマンになるなんて、
1ビットも考えたことなかったんです。
- ──
- 単位が「ビット」(笑)。
でも、やってらした音楽自体は、
どっちかというと、アナログですよね。
サックスとピアノなら。
- 芹澤
- いえ、パソコンで音楽をつくる
デスクトップミュージックだったんです。
それで、大学卒業後は、
ケータイの着信メロディの制作会社に
入りまして、
サウンドディレクターをやってました。
- ──
- つまり、つねに音楽とコンピューターが
そばにある人生だったってことか。
そこまでの人生には、
プランターの「プ」の字も感じませんね。
- 芹澤
- 脳裏に存在しなかったです(笑)。
- ──
- そうなんでしょうね(笑)。
- 芹澤
- そもそも家業を継ぐなんて‥‥
そんな気なんか、まったくなかったです。
音楽が大好きで、
キッラキラしたITバブルの絶頂時に
業界にいたので、
思い返せば本当に申しわけないことに、
「あんなダッサイ業界に誰が行くか!」
とかって思ってました。
- ──
- 人生、わからないもんですねえ。
- 芹澤
- ほんとです(笑)。
- ──
- 芹澤さんの野菜の集まりに参加するのは、
どういう人なんでしょうね。
- 芹澤
- まずは、どなたでも、誰とは限らずに
参加していただけたら嬉しいですね。
ぼくらが構築する
「アーバンファーミングスポット」は
発信場所が都会だというだけで、
集まる人はどなたでも、
誰とでも楽しめたらいいなと思います。
- ──
- なるほど。
- 芹澤
- ただ、そういった中でも、
興味を持っていただけたら嬉しいのは、
F1層の女性ですね。
- ──
- なるほど。
- 芹澤
- たとえば、はたらく女性が、
お昼休みの時間に
好きなドレッシングを持ち寄って、
アーバンファーミングスポットで
待ち合わせをする。
収穫した野菜を、
サラダランチにして楽しんだり。
- ──
- という場面を、イメージされて。
- 芹澤
- ママさんであれば、
お子さんと一緒に野菜を育てて、
収穫した野菜を使ったお弁当作りの
ワークショップを開いたり。
女性のみなさんが発信するものには
影響力があるので、
ファーミングスポットは
おしゃれにしちゃおうと思ってます。
- ──
- おお、急に野心的な青年実業家風の
顔つきになられて(笑)。
- 芹澤
- はい(笑)、
自分たちで育て、自分たちで食べる。
そんなライフスタイルが
「かっこいい」と思われるような文化を
つくれたらいいなと思ってます。
- ──
- 自分も少しやってたからわかるけど、
野菜を育てるのって楽しいし、
何だか‥‥充実感があるんですよね。
- 芹澤
- わかります。
- ──
- 知り合いが西荻でやっているんですが、
会費を払って会員になれば、
好きなときに使えるキッチンがあって、
そこでは、たとえば、
夕方になると会員が集まってきて、
みんなでごはんつくって食べるんです。
オープンキッチン、っていうのかなあ。
- 芹澤
- ええ。
- ──
- 自分は「純粋な参加者」というより
取材する人という立場で、
何度か参加したことがあるんですが、
楽しかったんです、とっても。
- 芹澤
- そうでしょうね、きっと。
- ──
- 思い返しても「いい時間だった」と
思えるんですよ。
ほとんど知らない人と
ごはんをつくって食べたんですけど、
何を楽しいと思ったのか‥‥。
- 芹澤
- ええ。
- ──
- ひとつには「みんなで料理をつくる」
ということが、大きかったと思って。
- 芹澤
- ああ、そうですよ。それ。
- ──
- みんなでワイワイやりながら、
知らない人と、
おいしいもの目指して力を合わせる感じが、
心地よかったというか。
- 芹澤
- やっぱり、デジタルで便利な時代でも、
人と人とが会って話してはじめて
感じられる楽しさだとか、
得られる心の平穏って、ありますよね。
- ──
- 少し前に、郡山の野菜づくりのプロの畑に
きれいなテーブルをしつらえて、
地元のシェフが、
地元の素材を使ってつくった料理を食べる、
そういうツアーを開催したんです。
あれも、何だか、ものすごくよかったです。
ぜんぜん知らない人同士が、
おいしいごはんを前に仲良くなったりして。
- 芹澤
- いわゆる「Farm to table」ですね。
- ──
- あ、そういう言葉があるんですか。
- 芹澤
- ええ、海外で根付いているカルチャーで、
地元でとれた素材を、
新鮮なうちにおいしく食べるというのが、
もともとの考えだと思いますけど。
- ──
- じゃ、芹澤さんがやろうとしているのは、
その「都会版」ってことですね。
- 芹澤
- そう、都会の真ん中で、やりたいんです。
たとえば多くの企業が入っているビルの
「タテ・ヨコの交流」って、
これまであまりなかったと思いますが、
「食」を真ん中に置けば、
すごく自然に
コミュニケーションできる気がしません?
- ──
- 屋上で焼き芋焼いてるよー、みたいな?
- 芹澤
- そうそう。
- ──
- そこへ集まってくる人の「肩の力」が
抜けてる感じでイメージできるのは、
そこが、ごはんの場だからでしょうか。
- 芹澤
- そうだと思います。
みんなで育てて収穫して食べる‥‥って、
人間の本来的な営みですから。
- ──
- そうか。そもそもね。
- 芹澤
- 自分みたいに東京で生まれ育った人間は、
「うまれつき
緑から遠ざけられてる感じ」が、
どうしても、してしまっていたんですね。
だからこそ、
みんなで野菜を育てて、みんなで食べる、
楽しく育てて楽しく食べるという場所が、
都市にもほしいとずっと思ってたんです。
- ──
- みんなで食べるって、何なんでしょうね。
ほぼ日にも「給食の日」があるけど、
あれも、ただ「食べる」ってこと以上の
「いい時間」に、なってるもんなあ。
- 芹澤
- 食べる時間をいっしょに過ごす。
単純に、ビジネス的なことで言っても、
ランチミーティングでは
リラックスしながら交わす会話から
いいアイディアが生まれたり、
共通の趣味がわかって仲が深まるとか。
- ──
- ええ。
- 芹澤
- ぼくたちも、将来的には、
会社の真ん中にレストランをつくりたい。
ランチタイムをコアタイムにして、
その時間には、できるだけ全員集まって、
いっしょに、ごはんを食べるんです。
- ──
- で、あとは、好きにはたらいてよし?
- 芹澤
- そう。ワーキングエニウェア、
リビングエニウェアって言われますが、
ぼくたちは、
「食べること」を中心に置きながら、
そのことを、力まずに
実現できたらいいなあと思っています。
- ──
- 最先端のテクノロジーを用いてるけど、
やりたいことは
「みんなで楽しく、ごはんを食べる」。
- 芹澤
- はい。
- ──
- で、そういう「横文字の言葉」より前に
「おじいさんのプランターがあった」
というのが、
あらためておもしろいなあと思いました。
- 芹澤
- そうですね。60年後の孫に、
インスピレーションを与えてくれるって、
うちのおじいちゃん、
やっぱりすごいなあって思います。
<終わります>
2018-12-07-FRI
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN