THE OTHER SIDE OF SPACE SHUTTLES AND THE EARTH
 
 
 
見たことのないシャトル、 見たことのない地球。 瀧本幹也さんの最新作『LAND SPACE』がすごい。
写真家の瀧本幹也さんが 「スペースシャトルの写真集」を出しました。 これが、滅茶苦茶かっこいいのです。 え、スペースシャトルの写真なんて 何度も見たことあるけど?  ‥‥はい、たしかに、そうですよね。 でも「このシャトルは見たことなかった!」 そういう写真が並んでいるのです。 何度も何度もケネディ宇宙センターへ通っては 試行錯誤を重ねつつ、 シャトルの写真を撮りためた、瀧本さん。 この至近距離、このディテール、 この「解像度」の高さ‥‥クギ付けになります。 完全なるファン目線でまことに恐縮です。 ほぼ日・奥野が、なるべく冷静にお届けします。 瀧本幹也さんプロフィール
第3回 こんな地球も、見たことない。
── 今回の『LAND SPACE』には
タイトルのとおり、
スペースシャトルの写真だけじゃなくて
地球の風景も掲載されています。
瀧本 「SPACE」というシャトルのシリーズと
「LAND」という風景のシリーズを
同時並行で進めてたんですが、
あるとき、両方を組み合わせて表現したら
より「伝わる」というか‥‥
イメージが広がると思ったんです。
── 伝わるというのは、何がですか?
瀧本 スペースシャトルをはじめとする宇宙事業って、
「現代科学の結晶」ですよね。

つまり「人類文明の最先端のもの」というかな。
── はい。
瀧本 一方で、太古の昔から変わらない地球の風景は、
時間軸で見たら、その「対極」にあります。
── 地球の歴史の、あたまとしっぽ。
瀧本 そう、べつに時間軸で考えなくても
「文明」と「大自然」って
真逆のものだと思われていますよね、一般的に。
── ええ、ええ。
瀧本 でも、どこか似ているなあと思って。
── 似ている。
瀧本 たとえば
「アポロサターンVの噴射口」って
「火山の噴火口」と
似てるんですよ、写真で見ると‥‥不思議と。
── あ‥‥たしかに。
     
瀧本 あるいは、
「スペースシャトルの耐熱タイル」と
「アイスランドの苔の大地」も
どこか、類似性のようなものを感じるんです。
── はー‥‥ほんとですね。
     
瀧本 これは「ジェミニ9Aの耐熱タイル」ですが
ひとつ前のページの
「アイスランドの雪の大地」に何だか似てる。
     
── へぇ、おもしろーい!
そういう見かたもできる写真集なんですね。
瀧本 たとえば
「ジェミニ9Aの耐熱タイル」というのは、
大気圏に突入するとき
摩擦で高温に熱せられ、傷めつけられて
ああいう面様になっています。

かたや、火山の噴火口に転がっている溶岩も、
地中のマグマのエネルギーを受けて
そうなっているわけですよね。
── ええ、ええ。
瀧本 うまく表現できないんですけど、
最先端の科学文明の産物として生み出された
シャトルの耐熱タイルも、
火山の噴火口の溶岩も、苔の大地も、
「我々の地球が生きているということの結果」
なんじゃないかなと思って。
── なるほど‥‥。

そういうイメージが込められていたと知ると、
もう一回、
最初から見返してみたくなります。
瀧本 スペースシャトルをかっこよく撮影して
かっこよく並べて、かっこよくまとめよう‥‥
という方向性でつくれば
「かっこいい写真集」にはなるんです。
── はい。
瀧本 でも、それって「それだけ」と言いますか‥‥。

写真集を見た人が想像する「余白」は必要で、
そこに
自分なりのメッセージを入れたかったんです。
── ちなみに「苔の大地の写真」って
「顕微鏡で覗いた、生物の細胞の拡大写真」
みたいな感じにも見えますね。
瀧本 そうそう、「宇宙」のことを考え出すと、
そこへ行きつくような気もします、最終的には。
── そこというのは、「ミクロなところ」へ?
瀧本 イームズの『Powers of Ten』という本を
ご存知ですか?
── あ、このあいだ観た
『ふたりのイームズ』という映画のなかに
出てきたような気が。
瀧本 宇宙から地球へ向かって
カメラがずんずんズームアップしていくと
最終的には
公園に寝そべっている人の細胞のなかに
入っていく‥‥みたいな本なんですが。
── あ、それです。見ました。
瀧本 あれって、現代の最新テクノロジーが実現した
グーグルアースみたいなアイディアを
もう何十年もまえに
椅子で有名な
家具デザイナーのイームズが考えてたんですけど
イメージとして、
そのあたりにも繋がっていきそうな。
── そうか、宇宙のことを考えていると
不思議な気分になるのは、
「無限の宇宙という超マクロなもの」と
「生物の細胞という超ミクロなもの」とが
なんというか‥‥
あたまとおしりでくっついてそうな気が
するからかもしれませんね。
瀧本 うん、うん。
── 写真集のなかの「LAND」の写真も
どこか「地球じゃない」みたいですしね。
瀧本 カメラのフレームのなかに
敢えて「空」を入れないで撮っているのですが、
そうすることで
スケール感が曖昧になるし、
「別の惑星の風景」みたいにも見えますね。
── つまり「SPACE」の写真が
「見たことのないスペースシャトル」
であるのに対して
「LAND」の写真のほうは
「見たことのない地球の風景」なんですね。
瀧本 そうかもしれません。
── つまり『LAND SCAPE』の魅力って
全体的な「見たことない感」なのかも。
瀧本 そういう意味では、このスペースシャトルは、
かなり「見たことない」はずですよ。
 
── たしかに‥‥どこがどうとは言えませんが
なんだか、見たことない感じ‥‥。
瀧本 この写真の状態、つまり
機体から、カバーやキャップが外されて
シャトルが
「ただ立っているだけの状態」というのは、
打ち上げ直前の姿なんです。

この時点では、周囲5キロは立入禁止だし、
無線でシャッターも切れない。
── つまり‥‥発射直前に、
ここで、誰かが
瀧本さんのカメラのシャッターを押した!?
瀧本 うん。
── そ、それは!? ‥‥って、ドキドキします。
瀧本 いやあ‥‥すみません、
あのー、まあ、犯人はぼくなんですけどね。
── 一応「ずるっ」とズッコケておきます(笑)。
瀧本 これは、まさに「打ち上げ直前」の段階で
「延期」になったときの写真なんです。

つまり、シャトルが、
キャップもカバーも外された状態のときに
延期が決まり、
「カメラマンのみなさん、
 いったん、
 無人カメラを引き上げてください」と。
── その、ほとんど瞬間的なタイミングで。
瀧本 たまたま撮ることのできた姿なんです。
── たまにはいいことあるんですね、延期も。
瀧本 しかも、空には雲ひとつなかったりして‥‥
撮影条件もこの上なく最高でした。
── ちなみに、表紙の写真も見たことないです。
こんなにも
シャトルの機体が噴煙で隠れている姿って。
 
瀧本 このアングルは、打ち上げのときに
爆風で石が飛んでくる方向なんです。
── なぜそんなキケンな方向に、わざわざ‥‥。
瀧本 その方向って、
噴煙でシャトルが隠れてしまう方向でも
あるんですけど、
そこには誰もカメラを置かないんですよ。
── 石でカメラが壊れちゃいますもんね。
瀧本 それもありますし、
ふつうは
煙に邪魔されない方向から狙いますから。
── そうか、報道的な写真として撮るなら。
瀧本 だから、現地で
「みんな、そんなところには
 カメラ置かないよ」って聞いたので、
わざわざ置いてみたんです。
── な、なるほど。ちなみに、カメラは‥‥。
瀧本 無事でした。
── 最後、ひとつお聞きしたいんですけど、
ラストのページの写真って、「海」ですか?
瀧本 はい。8×10(エイトバイテン)という
フィルム自体の大きさが
この写真集くらいあるカメラで撮りました。
── はじめ、なんだかわからなかったんです。

「海かなあ、なんか絵みたいだなあ、
 でも、やっぱり海だよなあ。
 海って、こんなふうに撮れるんだなあ」
みたいな。
瀧本 これは、500メートルくらいの丘の上から
撮っているんですけど、
海面に光が差し込む「入射角」と「反射角」が
等しくなった瞬間に
海のキラキラが、こんなふうにフラットになる。
── へぇー‥‥。
瀧本 約30分くらいの時間なんですけど
その間、海が「空の色と同じになる」んですよ。
── つまり「宇宙の端っこの色」に。
瀧本 ああ、そうそう‥‥そうですね。

この写真集、「海で終わらせたかった」のは
そういう理由も、あるかもしれない。
── 瀧本さんは、宇宙へ行ってみたいですか。
瀧本 ‥‥行ってみたいですねぇ。
── 絶対カメラを持って行くんでしょうね。
瀧本 ‥‥4×5(シノゴ)ですかね。
── おお、宇宙でもやっぱり
よっこらしょっと担ぐ系のカメラを(笑)。
瀧本 宇宙空間にプカプカと浮かびながら
蛇腹でピント合わせたり
黒い「かぶり」を被ったりとかして。
── おもしろいです(笑)。
瀧本 かぶり浮いちゃったりとかして。
無重力で。
── 4×5(シノゴ)で撮った地球の写真、
見られる日を、楽しみにしてますね!(笑)
瀧本 あはは、がんばります(笑)。
 
<終わります>
2013-09-19-THU
 
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