糸井 |
2月5日にあたらしいCDを出されるんですね。
谷川さん、CDのキャンペーンなどは、
なさるんですか? |
谷川 |
詩集の場合は、出したからといって
キャンペーンをするわけでもないからね。
CD業界ってぜんぜん違うんだな、と戸惑ってます。 |
糸井 |
キャンペーンすること自体は、
谷川さんは、あんまりイヤじゃないんでしょう? |
谷川 |
……うーん(笑)。 |
糸井 |
疲れますか? |
谷川 |
疲れますね、やっぱりね(笑)。
だって、自分のことを宣伝しなきゃいけないわけでしょ?
人の話をするんだったらいいんだけど、
自分のことをいろいろ訊かれても、
よくわかんないみたいな感じだよ。 |
糸井 |
つらいですよねぇ。
自分のことを言わなくちゃいけないときには、
ぼくはもう、引いちゃいますね。 |
谷川 |
でしょう? |
糸井 |
でも、人のことになると、ぜーんぜん平気。 |
谷川 |
うんうん、そうなの。 |
糸井 |
谷川さんは、人の宣伝だけじゃなくて、
「これはいいよ」っていうのが、
とにかくとても得意な方なので。 |
谷川 |
うん、わりとぼく、
本のオビ書くのとか、好き(笑)。 |
糸井 |
ですよね(笑)。
いいとこを発見して、
それを伝えなきゃって思うような、
横丁のご隠居の、お手伝いみたいな。 |
谷川 |
いや、そうでもないんだけど(笑)、
糸井さんだってそういうことを、
すごいやってらっしゃるんですけどね! |
糸井 |
まあ、ぼくの場合は、
仕事だってこともありますし。 |
谷川 |
うん、仕事ね。
ま、もともとはそうかも知れないけど、
でも、嫌いじゃないでしょ? |
糸井 |
どう言ったらいいんだろう?
「こんなにいいのに、気づかないでいる人がいると、
もったいない」(笑)。 |
谷川 |
なるほど。 |
糸井 |
それがちょうど職業になっちゃったんで、
いいんですけどね。
ただ、危ないのは、
紹介することが上手になりすぎちゃうと、
思ってもいないことでも上手に伝えられたり
しはじめます。 |
谷川 |
ま、そりゃ、詩人も
それを商売にしてるとこありますね。
やっぱり、美辞麗句で商売しちゃうから。
どうしても
「思ってることとは違う言葉が出てきても平気」
みたいになっちゃいますよ。 |
糸井 |
ええ。だから、それを防ぐ方法はやっぱり、
自分で「これはぜひ勧めたい」というものと、
そうじゃないものを、
理由はもう、説明できないけども、区別しないと。 |
谷川 |
うん、うんうん。 |
糸井 |
理由を説明してると、そのあいだに
やるべきだって思っちゃうから。 |
谷川 |
ああ、そうね。
そうですよね、きっとね!
|
糸井 |
このCDもそうだけど、
詩を書く人とか、表現する人というのは、
たくさんに届きたいっていう気持ちがありますよね。 |
谷川 |
それはもう、絶対ありますね。
少なくとも、ぼくにはあります。
ま、現代詩人の何人かには、
「もう、読者はいなくていい」とかいう人も、
過去はいましたけど、今はちょっと、
そうは思ってないんじゃないかな、みんな。
やっぱり、読者はひとりは欲しい、
3人は欲しいとかって思ってんじゃない? |
糸井 |
うーん。3人っていうのもどうですかねぇ(笑)。
3人に手紙を出せばすんじゃいますし。 |
谷川 |
こないだある詩人と話をしたんですけどね、
その人がね、こんなことを言っていたんですよ。
えっと、
空き瓶に手紙入れて海に流すの、あるでしょ? |
糸井 |
はい。 |
谷川 |
「なんか自分はそういう感じで詩書いてる」
って言ってました。 |
糸井 |
はあ、はあ、はあ。 |
谷川 |
誰かに届くかわかんないんだけど、
とにかく詩は空き瓶に入れて流す、と。 |
糸井 |
それも、やっぱりポイントは、
知らない人が読むってことですね? |
谷川 |
そうですよ。
「恋人に読ませる」とかいうと
ちょっと違うものになっちゃいます。
やっぱり知らない人に読んで欲しいんですね。
♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪
|
糸井 |
谷川さんがこの前出された「クレー」のやつは、
思いもかけない人のところに届いた、
なんていう例はありましたか?
■ |
「クレーの天使」2002年3月に発売になった、
ピアニストでありご子息である谷川賢作さんとの
コラボレートCD第一弾。
詩画集『クレーの天使』(講談社刊)を自ら朗読した。 |
|
谷川 |
うーん、どうかなあ。
「クレーが好きな人」っていうのが、まず、いる。
それから「谷川俊太郎を愛読してます」って人がいて。
それらが一致する人がいる。
「谷川俊太郎って知らなかったけど、
クレーが好きだったから聴いてみた」
というのは、ちょっと嬉しいんですけどね。 |
糸井 |
ほんとは、ぜんぜん、
どっちも知らない人のところに届けたいなぁ。 |
谷川 |
ほんとはね。
そういう人も、
きっといるんじゃないかと思うんですよね、
「なんかよくわかんないけど、
買ってみたら良かった」とか。
でも、そういう愛読者カード的なものは
来てませんね(笑)、記憶では。 |
糸井 |
はぁぁ。
でも、この対談を読む人のなかには、
谷川俊太郎を知らない人が
まじっている可能性もある。 |
谷川 |
うん、うん、そうですね。 |
糸井 |
で、しかも、みなさんからのご意見は
すぐに来ますから。 |
谷川 |
そうね、それがすごいんですよね。 |
糸井 |
ええ。谷川さんとこに、ちゃんと
プリントして届けるようにします。 |
谷川 |
いえいえ、ちゃんと読みますよ(笑)。
プリントは、紙だのインクだの
たいへんだからね。
そういえばこないだ、関西の詩の同人雑誌が、
街頭調査をやったんですよ。
そのへんを通る人に
「谷川俊太郎、知ってる?」って訊いてみた。
そしたらね、意外だったんだけどね、
51%の確率で知られてましたよ、ぼくの名前。
でも、その数字は
「なんだっけ、その人。なんか聞いたことある」
みたいな反応も含めて、なんですけどね。 |
糸井 |
51はすごいですね! |
谷川 |
でも「これで詩集がなんで売れねぇんだ」(笑)。
CDなんか100万枚ぐらいいくんじゃないかな、って
一瞬思いましたけども(笑)。 |
糸井 |
思っちゃいますね!
ぼくは勝手にそう決めてるだけかも知れないですけども、
いままでで言うと、
谷川さんっていう人は、ぼくの頭のなかでは
売れる詩人なんですよ。 |
谷川 |
はい。相対的にはそうだと思います。
けど、相田みつをには及びませんけども。 |
糸井 |
やっぱり相田みつをがいちばんなのかぁ。 |
谷川 |
そりゃもう、ダントツですよ!、と思います。
べつに数字知らないけど。 |
糸井 |
あの、短さがいいんですねぇ。 |
谷川 |
それと、手書きの文字がいいんですね。 |
糸井 |
(笑)相田みつをっていう人を、
ボロクソに言う人がすごく多いので、
そんなに言うことないんじゃないか、
ってよく思っちゃうんです。 |
谷川 |
うんうん、わかります。 |
糸井 |
インターネットの影響もあるんですけども、
普通の人の言葉のなかに、
詩がまぎれこんじゃうっていう例が、
どんどん増えていってるでしょう。 |
谷川 |
うん、そうですよね。 |
糸井 |
例えば、赤ん坊がしゃべった言葉でも
何でもいいんだけども、
それを誰かが発見してピックアップして
無料で、ばらまかれていく。
無理矢理に作ったキレイな言葉よりも、
そういう野草のような言葉が、そのへんに
ばらまかれちゃう。
その意味では、職業として、ぼくは
上手だとか下手だとかいうレベルで
考えてるものっていうのは、
もう商品化できなくなってるなぁと思うんです。 |
谷川 |
あー、なるほどね! |
糸井 |
で、谷川さんは、もともとが、
野草探しが上手な方でした(笑)。 |
谷川 |
なにしろ、高校しか出てないからね(笑)。 |
糸井 |
(笑)いいな、それ!
<対談は明日に続きまーす。お楽しみに!> |