谷川 |
いまはそんなに、
社会と結びつきたいというふうに、
走り回ってるわけではないですね。
やっぱりいまはもう、
ぼくは遊び半分ですから。うん。
ぼくはひとりっ子だから、
あんまり人に会いたくなかったほうなんだけど、
だんだんおもしろくなってきて。
いろんな人に会って、新しいことをやるのを、
ぜんぜん無責任にやってますね(笑)。 |
糸井 |
「ひとりっ子で、人に会わない」っていうのと、
「外に出てったら、会いっぱなしになっちゃう」
っていうのは、
ぼくとまるでそっくりです。 |
谷川 |
あ、ほんと? |
糸井 |
ぼくも、自分ではそうだと思ってるんですよ。
人にはほんとは会いたくないんです。 |
谷川 |
うんうん。 |
糸井 |
休みのときに何してるかというと、
ぜったい家にいる。 |
谷川 |
あぁ、うん(深くうなずく)。 |
糸井 |
そういう人間なんだけど、
何か理由があって、人に会うと、
おもしろくてしょうがないんですね。 |
谷川 |
それは、わかるんだな。 |
糸井 |
あ、なんだかお風呂に似てる。
お風呂に入る前って、面倒くさくって……。 |
谷川 |
うん、面倒くさいね(笑)。 |
糸井 |
つまんないテレビを観てるときでも、
これ観終わったら入るだとか、
仕事がひと段落したら、とか言うけど、
入っちゃたら後悔することはないんですよ。 |
谷川 |
ハハハハ。 |
糸井 |
1歩目踏み出すのは、
ちょっと抵抗がある。 |
谷川 |
うん……そうね。
ぼくはもう、だいぶ前から、
「まったく受注産業です」って
言ってんですけどね。
自分からこれがやりたいからやるっていうこと、
ほとんどないんですよ。もう、皆無なの。
ぜんぶ受注に応じる、
いっしょうけんめいさで仕事してます、
っていう感じなのね(笑)。
ぼくは、受注したら
もうぜったい全力投球するほうだから、
人は、すごく熱心にやってる、
というふうに見てくれます。
だけど、実際はね、
「どうでもいいんだけど、
あんなに言ってくれんだから、やんなきゃなぁ」
と思って、やってるだけなんですよね。
でも、そういうきっかけでいいって、
ぼくは思うんです。
やっぱりそれは
社会とのつながりっていうことでしょう。
求められるっていうことは、すごい幸せなことだし、
運のいいことだから、
それはやっぱり感謝して、
受けなきゃっていう感じですね。 |
糸井 |
でも、最近ますますアクションが
多くなったような気がしますね。
CDにしても、
谷川さんがこういうかたちで、
本を読むっていうクセのある人以外のところに、
出かけて行って……。 |
谷川 |
だからそれも、誰かのアイデアで(笑)、
引っ張り出されて。
なんか、あれよあれよって言ってる間に、
こういうふうに、CDができる。
ぼくは、茫然自失しながら
仕事してるんですけど。ほんとに。
|
糸井 |
……変な言い方だけど、
もともと谷川さんって、
自我が薄いんじゃないですか? |
谷川 |
そう!
ほんと、よく見てますね、人のこと(笑)。
自我、薄いの。 |
糸井 |
自己主張はあるんだけど。 |
谷川 |
自己主張はね、
ギリギリまで詰められると、
猛然と!出てくるんです。
けど、そこにいくまではもう、自我が薄い。
そして、なんだか人を喜ばせたい。
これ、O型の特徴だそうですけども。 |
糸井 |
谷川さんには
「オレとは何か」なんていうテーマは、
あんまり……。 |
谷川 |
あんまり、ないです。 |
糸井 |
ねぇ? |
谷川 |
ないです、ないです。 |
糸井 |
周囲の人間については、
例えば親とかまでを含めて、
「〜とは何か」を、
さんっざん考えるんですけど。 |
谷川 |
そうね。 |
糸井 |
「オレ」っていうのは、いつも空間で。 |
谷川 |
そうなの。
なんか、中空なんだ、
「オレ」は。 |
糸井 |
ハハハハ! |
谷川 |
でもね、詩を書くには、
自我がないっていうことが、
ひとつの条件としてあるんだと、
ぼくは思ってます。
自分を空っぽにして
言葉を呼び込むのが
詩の書き方だというふうに思ってるの。
だから、自分は自我が薄いというのは、
詩に向いてるって思ってますね。
小説はぜんぜんそうじゃない。
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|
糸井 |
違いますね。小説はきっと、
谷川さんには向いてないかもしれませんね。 |
谷川 |
ぼく、ぜんぜん書けないですよ。 |
糸井 |
そうですよね。あれ、大きい意味で、
演説ですもんね。 |
谷川 |
ああ。なるほどね!
なんかぼくは、物語というものが
作れないんですよ。
詩の場合には、場面でいいんですよ、
物語の一場面で。
ぼくは一場面は作れるんです。
ねじめ正一に言わせると、
「谷川さんは生活にエピソードがない」
って、断定するんですよ。
ぼく、けっこういろいろあるはずなんですけど、
そのへんが、見えないんだって。 |
糸井 |
それを褒め言葉にすると、
「透明感」とかに
なるんでしょうけど。 |
谷川 |
やっぱり自我が薄いんだな。 |
糸井 |
前々から怪しいと思ってたんですよ(笑)。 |
谷川 |
ぼくはやっぱり、
詩人は巫女みたいなもんだっていう比喩は、
正しい思うんですよ。
巫女って自分の言葉は語らないでしょ?
人の言葉を語って、
みんなが寄ってっちゃう。 |
糸井 |
どうして自我の薄さを
谷川さんに感じたかというと、
自分が、とても似てるんですよ。 |
谷川 |
うん、たぶんそうだろうと思う。
うん(笑)。 |
糸井 |
「で、お前は何がやりたいんだ?」
っていうのが、ないままに生きてきた。
それこそ受注産業で(笑)。
そうやって来ちゃってたんですけど、
何か変化したな、っていう気分はあるんですよ。
ひとつは子どもなんです。 |
谷川 |
へぇぇ。 |
糸井 |
でも、子どもに対して、
「俺のように生きろ」っていうのは、
なかなか難しいんです。 |
谷川 |
うん、うん。 |
糸井 |
つまり、空っぽがいいぞ、っていうのを、
言うわけにいかない。 |
谷川 |
それは、いかないね。 |
糸井 |
ですよね? おそらく、谷川さんのところでも、
息子さんが、修練の必要な音楽というものに
入っていった。
あれは谷川さんじゃないですよね、もう。 |
谷川 |
ぜんぜん違いますね。 |
糸井 |
「俺のように」ではなく
育てたんですね。 |
谷川 |
(笑)べつに育てたつもりはないんだけど、
育っちゃったんですよね。
<つづきます。次をおたのしみに!> |