糸井 |
でも……言葉で、ほんとに
どこまで口説けてるんでしょうか? |
谷川 |
日本人というのはやっぱり、
言葉を重視しませんよね。
言葉の作りだしてくるものをそんなに、
重大に、倫理的に、受け取らないとこがある。
「プラクティス」っていう
アメリカの弁護士事務所のドラマがあるんですけど、
それは、弁護士と検事のあいだの弁論や
裁判の有罪無罪の駆け引きがあったり、
陪審員をどのように説得するかがあったり、
もう「言葉、言葉、言葉」だらけなのね。
「言葉」というものが、
ほんとに人間関係を動かすんですよ。
■ |
ザ・プラクティス(The Practice)
アメリカABCネットワーク放映の裁判ドラマ。
1997年より放送開始。
制作 David E. Kelly Production |
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糸井 |
うん、うん。 |
谷川 |
でも、日本語はね、
政治の世界なんかを見てると、
言葉で動いてる関係は、
ほとんどない。
ま、「金で動く」というのは、
もしかするとどこの国でも同じかもしれないけど。
日本語の場合には、
言葉の重みというものが、
英語やなんかとは違うところにいっちゃってる
という気が、すごくするんです。
論理的な、散文的言語の力っていうのは
あんまり信用していないんですね。
言葉で約束しても、
「ま、あんときはああいうふうに言ったけどさ」
というように(笑)、
行動のほうで裏切っても平気。
だから、人を口説くときにも、
日本語に‘I LOVE YOU’って言葉は
ないわけでしょう。
つまり、「私はあなたを愛します」っていう言葉は、
あり得ないわけ。 |
糸井 |
ええ、そうですね。 |
谷川 |
だけれども、詩歌の言葉の力に関しては、
日本人は、わりと敏感だと思う。
I も YOU もなしで、
「惚れてるぜ」とか「好きだよ」とか
言ってるわけだから、
そういう訴え方って、ぜんぜん論理ではない。
ムードというか、
ほとんど詩の訴え方なんですよね。 |
糸井 |
うん、うん。 |
谷川 |
そこんところの違いは、
すごくおもしろいなと思います。
言葉は確かに人を口説くわけだけども、
口説き方にもいろいろあって、
たぶん日本人は、恋愛のときは、
詩的言語で口説いてんだろうな、と思います。
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糸井 |
人がどんなふうに口説いてるかは、
バラエティ番組でタレントが言ってること
くらいしか聞こえてこない。
けど、世の中で、
口説いてないってことはないわけで。 |
谷川 |
そうだよね。 |
糸井 |
カップルがあんだけ
できてるわけですから。 |
谷川 |
うんうん。 |
糸井 |
婚姻に関わる分は「結婚しよう」だと思うんだけど、
ほかは、何なんだろう?
誰が何て言ってるんでしょうね?
ナゾなんですよ(笑)。 |
谷川 |
いや、土下座かもしれないじゃないか(笑)。
言葉のない土下座かもしんないし。 |
糸井 |
ハハハハ。
ぼくらの若いころだと、
「1回寝ちゃう」ことが、
言葉のない言葉で「約束したぜ」という、
ハンコを押す仕事でしたよね。 |
谷川 |
そうそう、そうですよね。 |
糸井 |
でもいまは、
ハンコはベタベタ押していいんだ。 |
谷川 |
うんうん。 |
糸井 |
押された側も「次のハンコもあるし」と思ってる。
あのゆとりは、なんか
世の中を大きく変えてるような気がするんですよ。 |
谷川 |
たぶんそうだと思いますよ。 |
糸井 |
だから、愛の言葉というものが
どこにどうあるんだろう?
と、思うんです。見えないんですよ。 |
谷川 |
日本人の場合には
ま、携帯のメールぐらいの言葉は
使うかもしれないけど、
それでもう合意が成立してしまうみたいな
感じがしますよね。だから、ほんとに、
「私は、あなたのことを、
愛しているから、寝ましょう」
みたいなのは、ぜったい言語化されてないと思う。 |
糸井 |
されてないですね。 |
谷川 |
やっぱ行動で、
以心伝心みたいにして、
ホテル入っちゃうんじゃないですか?
きっと。 |
糸井 |
若い子の間では
「告る」っていう言葉がいま
あるようです。 |
谷川 |
コクル? |
糸井 |
ええ。
「告白する」っていう意味です。 |
谷川 |
はぁぁ。 |
糸井 |
「もう告ったの?」とかね、
言うんですよ。
つまり「I TELL YOU.」っていうやつです。 |
谷川 |
でも、どういうふうに告ってるんでしょう?
好きだよ、とか、言うのかなぁ。 |
糸井 |
ドラマとか見てる感じでは、
「つきあってくれ」という言い方は
よくしているみたいですね。 |
谷川 |
うん、そうだね。それはあるね。 |
糸井 |
「つきあう」というのは、
英語で何と言うんだか知らないんですけど(笑)、
ま、「交際してくれ」ってことですね。
そのやり取りがされると、
いちおうお約束が成り立つらしいんですよ。
「告る」の中には、そういう
ステディな関係を結ぼうっていう、
約束があるんじゃないでしょうかね。
♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪
|
谷川 |
ほんと? |
糸井 |
ええ。ステディな関係のときには、
ほかの子と何かあった場合には、
フタマタって言われて批難される。 |
谷川 |
批難されるんですか? |
糸井 |
ええ、されるんです。
だから、ほかの子のことは、
内緒なんですね。 |
谷川 |
ふむ。 |
糸井 |
実際やってたとしても内緒なんだから、
倫理としては、
一婦一夫制の形態を。 |
谷川 |
まだ、残ってんだ。 |
糸井 |
残ってますね。 |
谷川 |
ふーん。 |
糸井 |
私はたくさんつきあってるわよ、
あなたもそのうちのひとりよ、
っていうかたちにはなっていないみたいですね。 |
谷川 |
なるほどね。
<つづきます。次をおたのしみに!> |