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kissレコーディングのときのようすです。 |
糸井 |
つい最近、石川啄木のラブ・レターが
発見されましたよね。 |
谷川 |
うん。
それで、相手は男だったって(笑)。 |
糸井 |
あれ、おかしかったですね。 |
谷川 |
おかしかったね。 |
糸井 |
でも、石川啄木の、
あれだけのだまされやすさというか、
あの素直さが、詩人の資質だと思う。 |
谷川 |
うん、ほんとそうです。 |
糸井 |
さすがだな、とぼくは思った。
で、我慢して悪びれずに、
「いや、いいですよ」みたいにしてる。
谷川さんもやっぱり、
だまされやすいほうでしょうか? |
谷川 |
ああ、もう絶対に
だまされやすいと思いますね。 |
糸井 |
ですよね、きっと。
だまされるときのきっかけは、
何ですかね? |
谷川 |
簡単に言っちゃえば、
世間知らずってことでしょう(笑)。
ほんと、単純に答えて悪いけど。
人間にしつこく関心を持てないという部分が、
詩人には、あるような気もするんですけど。
ま、そうは言いきれないかもしれないけど、
人やものごとの「裏の裏」を読むようなことが
苦手な人が多いんじゃないかな? |
糸井 |
その「裏の裏」に
想像力が及ばないとは
言わないけれども。 |
谷川 |
書くときには、そのぐらい書けるんです。
でも、実際のつきあいのなかで、
なかなかそういうふうに気持ちが動かない。
もっと素直、というか、
もっと幼稚、といえばいいか、
そういうふうにしたい。
要するに、詩人っていうのは
美しい感情を持ちたいんですね、きっと。 |
糸井 |
そのほうが自分が生きやすいから。 |
谷川 |
そうなの、楽だから。
ものすごい憎んだり、
ものすごい疑ったりとかいう感情を
持ちたくないから、
いいほういいほうに
自分を駆り立てちゃうんじゃないかしら、
……というような気がします。 |
糸井 |
それは、ありますね。
想像力が及んでいないのではないんだけど、
そっちを考えると、自分が辛くなる。 |
谷川 |
そうだね、「世界観が傷つけられる」と
いえばいいかな。
詩人というのは、わりと
そんなにねじ曲った世界観を
持ってない人が多いような気がするの。
たとえそういう表現を取ってても、ね。
一種、理想主義的な世界観を持っていて
それと相反することはしたくない、
というところが、どっか、あるような気がしますね。 |
糸井 |
それは、詩人になっちゃうことで、
ますます増幅されていくんでしょうね。 |
谷川 |
うん、そうなんです。
どんなに人を傷つけるような憎しみに満ちた詩でも、
作品として見たときに
美しくないといけないわけでしょう?
そういうものをめざしてると、やっぱり、
日常での感情生活に影響を与えますね。
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糸井 |
うーん。いまのは、大っきいことですね。
政治家は政治家の世界観というものがあって、
「だましだまされ」してる。
それぞれの楽しみの世界があるっていうことは、
ぼくらは知ってるんですよ。
あの……ぼくは、
詐欺師の物語を読むのが、すごい好きで。 |
谷川 |
あー! |
糸井 |
詐欺師って
善悪以外では、すばらしい表現者なんです。 |
谷川 |
そうですよ。ほんと、ほんと。 |
糸井 |
運も絡むし、
共犯とか、世の中の動きとかが
全部が絡んでいて、
よくこんなことができたよなっていう、
大作品を作りますよね。
あれを大好きな自分っていうのがいるんだけど、
違うがゆえに好きだっていうこともある。
その部分まで全部呑み込んで
なおかつ表現がしたい、というか。 |
谷川 |
うんうん、そうね。 |
糸井 |
そういうのが夢なんですけどね。
谷川さんの世界観は、詩人をやってることで、
増幅されちゃってるんだ。 |
谷川 |
自分では、
詩を書いてることが
実生活に影響を与えてるなんて、
ずーっと長いあいだ思ってなかったんですよ。
だけど、年を取ってくるにつれて、
だんだんそういうことに
気がつくようになってきたんだね。
やっぱり俺は、
詩書いてたから
こういうことになったんじゃねえか、と。 |
糸井 |
樽を作っている職人さんが、
樽を作るのに便利な形に
タコができていったり……。 |
谷川 |
心にタコができちゃってる
のかもしれないし(笑)。 |
糸井 |
ちょっと聞いた話なんですけど、
江戸時代の座り仕事をしていた職人さんたちは、
ぜんぶ骨が歪んじゃってたらしいですよ。 |
谷川 |
あ、そうなんだね。
骨がね……。
<つづきます。次をおたのしみに!> |