谷川俊太郎、kissなどを語る。
しかも、新作『kiss』を、「ほぼ日」で
1000枚限定特典付きで発売します。

第8回
心に詩ダコができる。


 
kissレコーディングのときのようすです。
糸井 つい最近、石川啄木のラブ・レターが
発見されましたよね。
谷川 うん。
それで、相手は男だったって(笑)。
糸井 あれ、おかしかったですね。
谷川 おかしかったね。
糸井 でも、石川啄木の、
あれだけのだまされやすさというか、
あの素直さが、詩人の資質だと思う。
谷川 うん、ほんとそうです。
糸井 さすがだな、とぼくは思った。
で、我慢して悪びれずに、
「いや、いいですよ」みたいにしてる。
谷川さんもやっぱり、
だまされやすいほうでしょうか?
谷川 ああ、もう絶対に
だまされやすいと思いますね。
糸井 ですよね、きっと。
だまされるときのきっかけは、
何ですかね?
谷川 簡単に言っちゃえば、
世間知らずってことでしょう(笑)。
ほんと、単純に答えて悪いけど。
人間にしつこく関心を持てないという部分が、
詩人には、あるような気もするんですけど。
ま、そうは言いきれないかもしれないけど、
人やものごとの「裏の裏」を読むようなことが
苦手な人が多いんじゃないかな?
糸井 その「裏の裏」に
想像力が及ばないとは
言わないけれども。
谷川 書くときには、そのぐらい書けるんです。
でも、実際のつきあいのなかで、
なかなかそういうふうに気持ちが動かない。
もっと素直、というか、
もっと幼稚、といえばいいか、
そういうふうにしたい。
要するに、詩人っていうのは
美しい感情を持ちたいんですね、きっと。
糸井 そのほうが自分が生きやすいから。
谷川 そうなの、楽だから。
ものすごい憎んだり、
ものすごい疑ったりとかいう感情を
持ちたくないから、
いいほういいほうに
自分を駆り立てちゃうんじゃないかしら、
……というような気がします。
糸井 それは、ありますね。
想像力が及んでいないのではないんだけど、
そっちを考えると、自分が辛くなる。
谷川 そうだね、「世界観が傷つけられる」と
いえばいいかな。
詩人というのは、わりと
そんなにねじ曲った世界観を
持ってない人が多いような気がするの。
たとえそういう表現を取ってても、ね。
一種、理想主義的な世界観を持っていて
それと相反することはしたくない、
というところが、どっか、あるような気がしますね。
糸井 それは、詩人になっちゃうことで、
ますます増幅されていくんでしょうね。
谷川

うん、そうなんです。
どんなに人を傷つけるような憎しみに満ちた詩でも、
作品として見たときに
美しくないといけないわけでしょう?
そういうものをめざしてると、やっぱり、
日常での感情生活に影響を与えますね。


♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪

糸井 うーん。いまのは、大っきいことですね。
政治家は政治家の世界観というものがあって、
「だましだまされ」してる。
それぞれの楽しみの世界があるっていうことは、
ぼくらは知ってるんですよ。
あの……ぼくは、
詐欺師の物語を読むのが、すごい好きで。
谷川 あー!
糸井 詐欺師って
善悪以外では、すばらしい表現者なんです。
谷川 そうですよ。ほんと、ほんと。
糸井 運も絡むし、
共犯とか、世の中の動きとかが
全部が絡んでいて、
よくこんなことができたよなっていう、
大作品を作りますよね。
あれを大好きな自分っていうのがいるんだけど、
違うがゆえに好きだっていうこともある。
その部分まで全部呑み込んで
なおかつ表現がしたい、というか。
谷川 うんうん、そうね。
糸井 そういうのが夢なんですけどね。
谷川さんの世界観は、詩人をやってることで、
増幅されちゃってるんだ。
谷川 自分では、
詩を書いてることが
実生活に影響を与えてるなんて、
ずーっと長いあいだ思ってなかったんですよ。
だけど、年を取ってくるにつれて、
だんだんそういうことに
気がつくようになってきたんだね。
やっぱり俺は、
詩書いてたから
こういうことになったんじゃねえか
、と。
糸井 樽を作っている職人さんが、
樽を作るのに便利な形に
タコができていったり……。
谷川 心にタコができちゃってる
のかもしれないし(笑)。
糸井 ちょっと聞いた話なんですけど、
江戸時代の座り仕事をしていた職人さんたちは、
ぜんぶ骨が歪んじゃってたらしいですよ。
谷川 あ、そうなんだね。
骨がね……。


<つづきます。次をおたのしみに!>

●●●●●●●谷川俊太郎さんの、詩の世界●●●●●●●

世間知ラズ

自分のつまさきがいやに遠くに見える
五本の指が五人の見ず知らずの他人のように
よそよそしく寄り添っている

ベッドの横には電話があってそれは世間とつながっているが
話したい相手はいない
我が人生は物心ついてからなんだかいつも用事ばかり
世間話のしかたを父親も母親も教えてくれなかった

行分けだけを頼りに書きつづけて四十年
おまえはいったい誰なんだと問われたら詩人と答えるのがい
 ちばん安心
というのも妙なものだ
女を捨てたとき私は詩人だったのか
好きな焼き芋を食ってる私は詩人なのか
頭が薄くなった私も詩人だろうか
そんな中年男は詩人でなくともゴマンといる

私はただかっこいい言葉の蝶々を追っかけただけの
世間知らずの子ども
その三つ児の魂は
人を傷つけたことにも気づかぬほど無邪気なまま
百へとむかう

詩は
滑稽だ

          『世間知ラズ』(思潮社)より

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「kiss」はCDショップで、明日発売です

「ほぼ日」から販売していましたCD「kiss」は
完売いたしました
たくさんのご注文、ありがとうございました。
なお、CDショップなどでは、
明日2月5日より店頭に並びます。
ショップにない場合は、
店頭にてご注文くださるか(商品番号PSCR-6105)、
インターネットの各ショッピングサイトにて
お買い求めくださいませ。

CD「kiss」のポリスターの
スペシャル・コンテンツはこちらです。


谷川さんの詩のコラボレーション・ライブがあります●

2月16日に、世田谷パブリックシアターにて、
谷川俊太郎さん、岸田今日子さんの朗読とお話、
アンサンブル・コンソナンツの木管三重奏がたのしめる
ライブがあります。

 詩的に音楽会 in さんちゃ
 2月16日(日) 午後5時開演(4時30分開場)
 世田谷パブリックシアター
 チケット料金:S席(1-2階)\4000
        A席(3階)  \3000
 チケット取扱:チケットぴあ0570-02-9990
        (クラシック専用)
  くりっくチケットセンター03-5432-1515
 お問い合わせ:コレクタ03-3239-5491
 アンサンブル・コンソナンツのホームページ
 http://home.catv.ne.jp/dd/ekons/kusakarif.html

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2003-02-04-TUE


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