谷川俊太郎、kissなどを語る。
しかも、新作『kiss』を、「ほぼ日」で
1000枚限定特典付きで発売します。

第10回
暴力が振るえない情けなさ


糸井 相手の欠点を探してあげて
上手に口に出すようにする。
いまうかがった感情は、
谷川さんとぼくはそっくりですね。
谷川 困りましたね。
糸井 困りました。でも、
もしかしたら練習をするとできるようになるのかな?
っていう気持ちもあって、
ぼくはいちおう練習をしてるんですよ。
それはおそらく、演技の問題かな、と思うんです。
谷川 うん。
糸井 まず、思ったことを
そのまま生で口に出すのは、
それはあまりにも「子ども」だと思う。
谷川 うん。
糸井 状況のなかで、
こういうことは必要だとか、
いまは言えないけども、あさって言うだとか。
こうやって大人になっていく(笑)。
谷川 それはほんとにそうだと思います。
そうやって大人になってくんでしょう。
糸井 そして、男同士だと、
ひじょうに使いやすいテクニックがあるんです。
過剰に相手が悪いと、
あえて言ってしまう、ということ。
谷川 あ、なるほどね。
糸井 男は「バーカヤロウ!」って言っちゃうと、
「いや、そうでもないんだよ」という話が
すぐできるんだけど。
でも、女性って、インパクトに弱いんですよ。
もしそれだけで「ダメ」って言われちゃったら、
次はないですからね。
谷川 うーん。
糸井 ぼくは、バカヤロウとどなったり
人をぶったりはしないんですけど、
ぶったほうがほんとうは効率的なんだ、
ということがあるかもしれない。
谷川 効率的だし、
相手が喜ぶ場合もあるんですよね。
糸井 あるんですよ。
ぼくと谷川さん、
どうも、この弱さが似てるんだ(笑)。
谷川 暴力が振るえない俺の情けなさ
みたいなものを感じます。


♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪
糸井 暴力は、ねぇ(しみじみ)。
表現としての暴力は、あるんですよね。
谷川 ありますよ!
糸井 考えてみると、恋愛関係が成り立つときに、
暴力は一度あるんですよ。
「私は、ぜひあなたと寝たい」って、
ニコニコして言う人は、
ひとりもいないから。
なんとなくお互いがだましあってる、
っていうところで成立するもんですからね。
谷川 なるほど。
糸井 ぼくは、女の人とふたりだけになったときに
ドアの鍵を掛けない自分が、
ちょっと弱いと思うんですよ。
平気でガチャンと掛けるのって、
暴力ですよね。
谷川 そうだよね。
糸井 男らしい友だちに訊いてみると、やっぱり、
バーリバリ鍵を掛けているんですよ(笑)。
谷川 ぼく、ゲイの友だちに、
鍵掛けられたことがあったけどねぇ。
ぼくはすぐに鍵を開けるんです。
で、また彼が、カチャ
で、ぼくがまた、カチャ
糸井 暴力の応酬ですね。
谷川 ボクシングみたいなもんですよ(笑)。
糸井 バチャッと鍵を掛けるような、
見てはいけない部分を目にするということ自体が、
すごい暴力のはずなんです。
恋愛成立のときに一度はその暴力を
お互いに経験してるんだったら、
そこんところを誠実にやり続ければいい。
ぼくは、それが
言葉でもできうるんじゃないか、
と思うんです。
だから、「もしよろしければどうぞ」
っていう言い方しかできないのは、マズイ。
これは、自分の世界観の軸になってる弱さだと
思うんです。
谷川 なるほどね。
糸井 だけど、ぼくはこの、「kiss」ってタイトルが、
暴力を含んでると思います。
谷川 そうですね。そう思いますよ。
糸井 だから、いいなと思ったんです。
いままでの、例えば谷川さんの『女に』でしたっけ?
あれなんかも、暴力の手前まで行っていますね。
いちおう演説をしているかたちになってました(笑)。

『女に』
マガジンハウスから1991年に刊行された
谷川さんの詩集。
谷川 うん(笑)。
糸井 あれはひじょうに売れたということを
聞いたことがありますけど。
谷川 うん。10万ちょっとくらいでしょう。
時間はかかってますけどね。
糸井 『女に』は、
「隣りに並んで、ひっそりと『できちゃった』」
というのではない。
相手に責任を押しつけるんじゃなくて、
「俺が責任を持ってやったことは、俺が責任取るぜ」
みたいなかんじがありました。
そしてついにここで「kiss」ときたか、と。
谷川さん、ほんとにいま、活発だ(笑)。
谷川 ハハハ、活発かな?
糸井 活性が上がってきました(笑)。
そのタイトルだけで、そうとうに、
整理できてる印象があるんですよ。
kissって言葉は、詩のなかの言葉ですか?
谷川 詩のタイトルです。
糸井 もうすでに出版されているものなんですか?
何に入ってるやつなの?
谷川 憶えてないけどねぇ。
糸井 え、憶えてないの?
谷川 憶えてませんよ、そんな。
けっこう若書きです。うん。
糸井 はぁぁ。それがこのCDに入っているわけですね。
見せていただけますか?
ふぅん、若書きですか。
いまkissって書いてたとしたら、おもしろいな。
谷川 いま?
ご注文があれば、書きますけど(笑)。
糸井 また受注ぐせがはじまった!
(CDについているブックレットをめくって読む)
あ、タイトルだけがkissなんだ。

谷川 これ、20代のはじめのときに書いているものですね。
糸井 どうしてタイトルにkissって、つけたんだろう?
ぜんぜんkissじゃないよ(笑)。
谷川 えー? ほんと?
糸井 この、何て言うんだろう?
単語をポンと置いただけのタイトル。
なんか、接ぎ木みたいにkissって言葉が
ポンと入ってる。
谷川 このころ実際に、女の人とkissをしてるんだけど、
詩としては、
そういう具体的なものとはちがうところで、
kissを定義しようなんてところがありましたね、
たぶん。
糸井 ううーん。このCD、お買い得だな。
おもしろいな。
そういえば谷川さん、もともと
「単語ひとつ」っていうのは、
お好きなかたちですもんね。
谷川 はい。ええっとね、
言葉が「もの」みたいになるの、
好きなんですよ。


<つづきます。次回をおたのしみに!>

●●●●谷川俊太郎さんの、詩の世界●●●●

ここ

どっかに行こうと私が言う
どこ行こうかとあなたが言う
ここもいいなと私が言う
ここでもいいねとあなたが言う
言ってるうちに日が暮れて
ここがどこかになっていく

      『女に』(マガジンハウス)より

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谷川さんの「kiss」について

「ほぼ日」から販売していましたCD「kiss」は
完売いたしました
たくさんのご注文、ありがとうございました。
なお、CDショップなどでは、
2月5日より発売されています。
ショップにない場合は、
店頭にてご注文くださるか(商品番号PSCR-6105)、
インターネットの各ショッピングサイトにて
お買い求めくださいませ。

CD「kiss」のポリスターの
スペシャル・コンテンツはこちらです。

2003-02-04-TUE


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