糸井 |
相手の欠点を探してあげて
上手に口に出すようにする。
いまうかがった感情は、
谷川さんとぼくはそっくりですね。 |
谷川 |
困りましたね。 |
糸井 |
困りました。でも、
もしかしたら練習をするとできるようになるのかな?
っていう気持ちもあって、
ぼくはいちおう練習をしてるんですよ。
それはおそらく、演技の問題かな、と思うんです。 |
谷川 |
うん。 |
糸井 |
まず、思ったことを
そのまま生で口に出すのは、
それはあまりにも「子ども」だと思う。 |
谷川 |
うん。 |
糸井 |
状況のなかで、
こういうことは必要だとか、
いまは言えないけども、あさって言うだとか。
こうやって大人になっていく(笑)。 |
谷川 |
それはほんとにそうだと思います。
そうやって大人になってくんでしょう。 |
糸井 |
そして、男同士だと、
ひじょうに使いやすいテクニックがあるんです。
過剰に相手が悪いと、
あえて言ってしまう、ということ。 |
谷川 |
あ、なるほどね。 |
糸井 |
男は「バーカヤロウ!」って言っちゃうと、
「いや、そうでもないんだよ」という話が
すぐできるんだけど。
でも、女性って、インパクトに弱いんですよ。
もしそれだけで「ダメ」って言われちゃったら、
次はないですからね。 |
谷川 |
うーん。 |
糸井 |
ぼくは、バカヤロウとどなったり
人をぶったりはしないんですけど、
ぶったほうがほんとうは効率的なんだ、
ということがあるかもしれない。 |
谷川 |
効率的だし、
相手が喜ぶ場合もあるんですよね。 |
糸井 |
あるんですよ。
ぼくと谷川さん、
どうも、この弱さが似てるんだ(笑)。 |
谷川 |
暴力が振るえない俺の情けなさ、
みたいなものを感じます。
♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪ |
糸井 |
暴力は、ねぇ(しみじみ)。
表現としての暴力は、あるんですよね。 |
谷川 |
ありますよ! |
糸井 |
考えてみると、恋愛関係が成り立つときに、
暴力は一度あるんですよ。
「私は、ぜひあなたと寝たい」って、
ニコニコして言う人は、
ひとりもいないから。
なんとなくお互いがだましあってる、
っていうところで成立するもんですからね。 |
谷川 |
なるほど。 |
糸井 |
ぼくは、女の人とふたりだけになったときに
ドアの鍵を掛けない自分が、
ちょっと弱いと思うんですよ。
平気でガチャンと掛けるのって、
暴力ですよね。 |
谷川 |
そうだよね。 |
糸井 |
男らしい友だちに訊いてみると、やっぱり、
バーリバリ鍵を掛けているんですよ(笑)。 |
谷川 |
ぼく、ゲイの友だちに、
鍵掛けられたことがあったけどねぇ。
ぼくはすぐに鍵を開けるんです。
で、また彼が、カチャ。
で、ぼくがまた、カチャ。 |
糸井 |
暴力の応酬ですね。 |
谷川 |
ボクシングみたいなもんですよ(笑)。 |
糸井 |
バチャッと鍵を掛けるような、
見てはいけない部分を目にするということ自体が、
すごい暴力のはずなんです。
恋愛成立のときに一度はその暴力を
お互いに経験してるんだったら、
そこんところを誠実にやり続ければいい。
ぼくは、それが
言葉でもできうるんじゃないか、
と思うんです。
だから、「もしよろしければどうぞ」
っていう言い方しかできないのは、マズイ。
これは、自分の世界観の軸になってる弱さだと
思うんです。 |
谷川 |
なるほどね。 |
糸井 |
だけど、ぼくはこの、「kiss」ってタイトルが、
暴力を含んでると思います。 |
谷川 |
そうですね。そう思いますよ。 |
糸井 |
だから、いいなと思ったんです。
いままでの、例えば谷川さんの『女に』でしたっけ?
あれなんかも、暴力の手前まで行っていますね。
いちおう演説をしているかたちになってました(笑)。
■ |
『女に』
マガジンハウスから1991年に刊行された
谷川さんの詩集。 |
|
谷川 |
うん(笑)。 |
糸井 |
あれはひじょうに売れたということを
聞いたことがありますけど。 |
谷川 |
うん。10万ちょっとくらいでしょう。
時間はかかってますけどね。 |
糸井 |
『女に』は、
「隣りに並んで、ひっそりと『できちゃった』」
というのではない。
相手に責任を押しつけるんじゃなくて、
「俺が責任を持ってやったことは、俺が責任取るぜ」
みたいなかんじがありました。
そしてついにここで「kiss」ときたか、と。
谷川さん、ほんとにいま、活発だ(笑)。 |
谷川 |
ハハハ、活発かな? |
糸井 |
活性が上がってきました(笑)。
そのタイトルだけで、そうとうに、
整理できてる印象があるんですよ。
kissって言葉は、詩のなかの言葉ですか? |
谷川 |
詩のタイトルです。 |
糸井 |
もうすでに出版されているものなんですか?
何に入ってるやつなの? |
谷川 |
憶えてないけどねぇ。 |
糸井 |
え、憶えてないの? |
谷川 |
憶えてませんよ、そんな。
けっこう若書きです。うん。 |
糸井 |
はぁぁ。それがこのCDに入っているわけですね。
見せていただけますか?
ふぅん、若書きですか。
いまkissって書いてたとしたら、おもしろいな。 |
谷川 |
いま?
ご注文があれば、書きますけど(笑)。 |
糸井 |
また受注ぐせがはじまった!
(CDについているブックレットをめくって読む)
あ、タイトルだけがkissなんだ。
|
谷川 |
これ、20代のはじめのときに書いているものですね。 |
糸井 |
どうしてタイトルにkissって、つけたんだろう?
ぜんぜんkissじゃないよ(笑)。 |
谷川 |
えー? ほんと? |
糸井 |
この、何て言うんだろう?
単語をポンと置いただけのタイトル。
なんか、接ぎ木みたいにkissって言葉が
ポンと入ってる。 |
谷川 |
このころ実際に、女の人とkissをしてるんだけど、
詩としては、
そういう具体的なものとはちがうところで、
kissを定義しようなんてところがありましたね、
たぶん。 |
糸井 |
ううーん。このCD、お買い得だな。
おもしろいな。
そういえば谷川さん、もともと
「単語ひとつ」っていうのは、
お好きなかたちですもんね。 |
谷川 |
はい。ええっとね、
言葉が「もの」みたいになるの、
好きなんですよ。
<つづきます。次回をおたのしみに!> |