糸井 |
谷川さんの詩集で、
いちばん売れたのは
『女に』なんでしょうか? |
谷川 |
ええっと、例えば『ことばあそびうた』みたいなのは、
もっと売れてるかもしれない。
まあ、ジワジワと何十年もかかってるけども。 |
糸井 |
そうか。小学館の『いちねんせい』でも、
谷川さんのはちゃーんと売れてますもんね。 |
谷川 |
あ、そうですね、あれね。
おかげさまで。
ホント助かりますよ(笑)、老後の安心ですよ。 |
糸井 |
あれは、古びないように書いてるっていうのが、
ほんとによくわかりますね。
ぼく、見習うべきだなと思うのは、
谷川さんの書くものは、
そのときの「流行」じゃないんですよ、いつも。 |
谷川 |
うーん。 |
糸井 |
流行を入れたほうが、
インパクトがあるのかもしれない。
でも、谷川さんは、ちゃんと、
ずっと読めるように書いてる。 |
谷川 |
それはぼく、
自分ではそんなに意識してないんだけど。 |
糸井 |
そうなんですか? |
谷川 |
うん。でも、例えば子どもなら
「ある、1999年の子ども」というふうには
考えなくて、全世界、昔から今までの
「子ども」を書きたいっていう気持ちはあります。
|
糸井 |
詩はみんなが書けると思ったりするものなんですよね。
それで、あんまり嬉しくないものを
読まされたりもします(笑)。
でも、もしかしたらそのなかに、
「あ、これは」っていうものが混じってる
というスケベ心も、あったりもしますし。 |
谷川 |
はい。します。 |
糸井 |
詩のジャンルというのは、
つきあい方がひじょうに難しいですね。 |
谷川 |
例えば原稿とかを送ってくる人が、
いっぱいいるわけですけど、
小説家にくらべれば幸運だと思うんですよ。
詩の場合は、短いから。
小説家はさ、300枚、500枚の長編が送られてきたら
どうするんだろうと思います。 |
糸井 |
あ、でもね、小説のほうが
もしかしたらいいかもしれませんよ。
小説って、かたちを要求しますから、
ちょっと読んで、やめようって
思いやすいような気がするんですよ。 |
谷川 |
判断できますかね。
はじめをチョロッと読めば。 |
糸井 |
でも詩だと「もしや?」っていう気持ちで、
次のページをめくっちゃったり(笑)。 |
谷川 |
それはあるんですよね。
最初が「なんだこりゃあ」って思いつつも、
もしかしたら何かがあるのかもしれないな、
というようなことが、確かに、ありますね。 |
糸井 |
しかも想像力を巡らせる仕事だから、
労力はかかるんです。 |
谷川 |
エネルギーがいりますね。 |
糸井 |
いるんですよ、詩を読むときのほうが。
「捨てることはできないな」という程度のものって、
けっこういっぱいあるんです。
だけど「さあ、あなた、これで食えますよ」
となると、もうゼロに。 |
谷川 |
もう、ゼロですね。 |
糸井 |
以前、谷川さんは宇多田さんのことを
おっしゃってたことがありますけど
詩の形式としてはだめかもしれないけど、
いっそ、歌をうたう女の子たちが自分で書いた詩は
ちゃんと拾うことができるんですよ。 |
谷川 |
うん、そうだね。 |
糸井 |
その違いって、何だろう?
ものすごく興味深いんです。
きっと、読み手が見えているというか、
そのあたりにあるのかなぁと思うんですけど。 |
谷川 |
「詩のようなものを書く人たちには
読み手が見えてない」
ということは、すごくありますよね。
|
糸井 |
作曲もするし歌もうたうっていう人が、
例えば、浜崎あゆみみたいな人が、詩を書いてる。
どういうときに書くかというと、
歌作んなきゃいけないから書くらしいんですよ。
つまり、詩というものに対する妙な幻想がなくって
「さぁ作んなきゃ」と思って
一生懸命に書くんです。 |
谷川 |
そうですね。うん。 |
糸井 |
それが、ちゃんと、
「ある理由がわかるわ」
っていう詩になってる。
考えてみるとやっぱりあれは、
大きい意味での人間関係そのものに
熟達してるから書けるのかもしれないですね。 |
谷川 |
そうですよ、もちろん。 |
糸井 |
言葉の使い方の上手下手じゃなくて、
人間認識とか人間関係を、体で持ってるっていう、
あの違いですね。
谷川さん、最近の歌はどう思ってますか?
いいのはいっぱいありますか? |
谷川 |
いや、ぼくはそんなにもう、
聴く根気がないからね、
ほとんど知りませんけど。
浜崎あゆみさんは、
ぼくは歌はほとんど聴いてないんだけど、
いちど彼女が作詞したものをコピーで、
ぜんぶ読んだことがありますよ。
♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪ |
糸井 |
ええ。 |
谷川 |
あの人は、トラウマのようなものを
もっているのがすごくよくわかって。
なんか、強さっていうのかな?
それは感じましたね。 |
糸井 |
ぼくはコンサートに行って驚いたんですけど、
形式・様式を上手に踏んだものを、
修練積んでステージやって。
最後に普段着に近いかたちで出てきて、
「ありがとう」っていう言葉を
100回ぐらい言うんですよ。 |
谷川 |
へぇー! |
糸井 |
ここにも自我のない人がまたいたよ、と(笑)。 |
谷川 |
なるほどね。 |
糸井 |
ちぎれんばかりに手を振って、
あらゆる客席のあらゆる場所に向かって、
視線を送って、
叫ぶように「ありがとう」って言って、
終わるんですよ。
これ、やられちゃったらもう、まいっちゃうな。
「私の詩の中にはねぇ」なんていう子には、
あのスタイルは出せないと思って。 |
谷川 |
そうね。
いわゆる詩らしきものを書いてくる人たちって、
すごく自分ってものに
こだわっちゃってるんですね。
それで、他人に通じないとこがありますね。 |
糸井 |
でも、なおせっていっても、
なおんないですね(笑)。 |
谷川 |
なおんないですよ。
短歌や俳句だったら添削きくけどね。
<つづきます。次回をおたのしみに!> |