谷川 |
やっぱり、詩というものに対する
一種の先入観みたいなものはありますよね。
「詩はこうでないといけない」みたいなことが、
どっかに頭にある。
それに合わせようとしちゃうから、
つまんないのかもしれない。 |
糸井 |
うーん。 |
谷川 |
もっと普通の、
「友だちが欲しい」とか
「恋人が欲しい」とか、
そういういうものが、
ハッキリ言葉になってるほうがずっといい。
そういう「野生の言葉」に対して
けっこう気取っちゃうからね、みんな。 |
糸井 |
気取らないことを身につけるのは
難しいんですかね? |
谷川 |
子どもはみんなそれを持ってる。
だから、子どもの詩が
けっこうおもしろいんですよ。 |
糸井 |
そうですよねぇ。 |
谷川 |
どのへんから気取らなきゃいけないように
なるのかね(笑)?
やっぱり小学生ぐらいからかな? |
糸井 |
「詩って、何だ?」って習った憶えは
ないわけですよね。
詩は何でもいいのだけれども、
でも、先生の頭のなかに、
すでに予定されたものがあったんでしょうね。 |
谷川 |
それは当然ありますね。 |
糸井 |
ぼく自身は、作詞からはじまったんですけど、
詩を習った憶えがなくて、
今でも書けてるんだか
書けてないんだかわかんないんですよ。
ただ、基準にしてるのは、
俺が自分でもう1回読んだときに、
気持ちいいかどうか。 |
谷川 |
うんうん。それはあるね。 |
糸井 |
正直言うと、
読む人の姿も見えてないんです。
だけど、ぼくは
自分が平凡な人間だっていう意識が
すごく強いんです。
その平凡な自分が読み直して
「いいじゃん」って言ってくれる。
それだけを頼りに書いてるんですよ。 |
谷川 |
それはぼくも、
ほとんど同じですね(笑)。 |
糸井 |
そうですか。 |
谷川 |
自分をすごく常識的な人間だと
思ってるんですよ。
だから、自作に対する批評眼で
書いてるところがありますよ。
♪ココをクリックすると、音声を聴くことができます♪
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糸井 |
そんな谷川さんが、よその現代詩の、
たとえば吉増剛造さんとかの詩を読むときは、
どんな気持ちで読むんですか?
■ |
吉増剛造
詩人。1939年生まれ。
第一詩集『出発』(64年)以来、
先鋭的な現代詩人として、
国内外でパフォーマンスなど多彩な活動を行なう。
「黄金詩編」で第1回高見順賞受賞。 |
|
谷川 |
いやぁ、
いろいろあって
おもしれぇな、と。 |
糸井 |
はぁ! |
谷川 |
現代詩といっても、
まあ、植物もいろいろある、
お魚もいろいろいるのとおんなじように、
いろいろあるなぁ。
彼が声に出して読んでると、
「なんか、なんかあるなぁ!」みたいなさ(笑)。 |
糸井 |
そうですね。
吉増さんの詩って
わかんないままに、なんか、つかまるんですよね。 |
谷川 |
そう。ああいう性質が言語にあるっていうことを、
ぼくはすごく大事だと思ってます。 |
糸井 |
あの、美しいとかっていう言葉をつい、
思い出させちゃうみたいな。 |
谷川 |
そう、そう。
意味だけじゃないんだな、言語っていうのは。
体に結びついてるし、声に結びついてるし。
音楽とも共通の
調べとかリズムのような力があるということを、
思い出させてくれる。 |
糸井 |
うん、うん。
ほかに、ご自分で
意識なさってる詩はありますか? |
谷川 |
ぼくのところへ送られてくるものもあるし、
エネルギーがいるから
あんまり読まないんだけどね。
人の評判を聞いて読んだりするんですが、
例えば『世界中年会議』っていう
おもしろい題の詩を出してる四元さんって
詩人がいるんです。
彼は、出自が全く現代詩の世界ではないんです。
ミュンヘン駐在の、ある製薬会社の重役なの。
前はアメリカにいて、海外にほとんどずーっといて、
結婚して子どもも現地で育ててる。
自分のビジネスマンとしてのリアリティ、
それから自分の家庭のリアイティみたいなものを、
詩に書いてる人なんですよ。
いわゆる現代詩の人たちとぜんぜん違うところから
書いてるから、すごくおもしろいの。
■ |
四元(よつもと)康佑
1959年8月21日大阪府生まれ。
1991年、第一詩集『笑うバグ』を発表。
ビジネスを主題にした作品群が
大きな注目をあつめる。
現在ドイツのミュンヘン在住。
『世界中年会議』は第二詩集。 |
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糸井 |
ほおぉ。 |
谷川 |
それから、こないだ、あとがきを書いたんだけど、
覚和歌子さんって人がいます。
『千と千尋』のテーマを作詞した人。
あの人は、プロの作詞家でもあるんですけど
まったくの現代詩の世界ではない。
あの人、なんだかとにかく、
まず歌からはじまってるんですね。
それで、歌と拮抗するような詩を読みたいといってる。
声の発想なんですよ。活字じゃないの。
それがすごい新鮮なんです。
■ |
覚(かく)和歌子
早稲田大学卒業と同時に作詞家に。
小泉今日子、SMAPなどに作品を提供。
落語とのバトルライブ「噺家の会」をはじめ、
自作詩朗読パフォーマンス競演を展開している。
映画「千と千尋の神隠し」主題歌「いつも何度でも」作詞。
昨年、第一作品集『ゼロになるからだ』を刊行。 |
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糸井 |
ぼくも、おもしろいなと思いますよ。
覚さんは、人が注目する
1行の両脇にある言葉が上手なんですよね。 |
谷川 |
うーん、なるほどね。 |
糸井 |
「ゼロになるからだ」という言葉で、
みんながあの詩を憶えるんだけど、
それを立てるためには、
まわりがほんとにいい景色もってないと、
あの言葉は絶対に浮いちゃう。
「この人は、この1行のために書いてるんだ。
だけど、その周囲を上手につくれるから、
成り立ってるんだなぁ」と思う。 |
谷川 |
そうなんです。覚さんのような、
現代詩の世界からじゃない人のほうが、
今はけっこうおもしろいって、
どうしても思っちゃいますね。
<つづきます。次回をおたのしみに!> |