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糸井 |
ご飯は、どうなさってるんですか? |
谷川 |
家にいるときは、適当に食べてますよ、
自分で作って。 |
糸井 |
お上手なんですか? |
谷川 |
(笑)いえ、ぜんぜん上手じゃないけど、
意識しなくても、自分の食事ぐらい作れる程度には。
それは上手と言えばいいのかわかんないけど、
まあ、慣れてますね。 |
糸井 |
それは、ずっと前から? |
谷川 |
ひとりになってから、とくに。
前から少しは作ってましたけど、
以前は「料理する」っていう意識があったんだけど、
今はほとんどその意識がないですね。
だから、普通の家庭の主婦に近づいてるんじゃない?
冷蔵庫をのぞいて、野菜の残りもんがあれば、
適当にこれをこうやって食おうかといって作れる程度の
境地にはなってる。 |
糸井 |
そういう意味ではひじょうに、
「全体的に」生きてらっしゃいますね。
体から、生活が出てる。 |
谷川 |
そうですよね、わりとね。
洗濯もするし。
満足してますね、自分の暮らし方に。 |
糸井 |
そのなかから「kiss」みたいなタイトルが
ポンと出てくるっていうのは
あんがい、あるのかもしれないですね。
「愛の暮らし」をしてしまうと、
プライオリティが愛にいちばんに、
なってしまいますから。 |
谷川 |
なりかねませんね。 |
糸井 |
それは決して、生活ではない。
「あなたを満足させる私」っていう、
機微になってしまうんで。
全体像は壊れますよね。 |
谷川 |
いや、それをバランス良く包み込む、
規則正しい生活とか平凡な生活もあり得ますよ。 |
糸井 |
そっかあ! |
谷川 |
うん。
年を取ってきたからってこともあるんだけど、
自分のなかの欲求が薄くなってきていて
いろんなことをバランスよく
配置できるようになったような気がします。 |
糸井 |
年を取られる前はきっと、さぞかし……。 |
谷川 |
マザコンに理由する不安とか、
そういうものに、
けっこう苦しんでたような気がします。 |
糸井 |
ぼくは、もし「愛の暮らし」だったら、
2人羽織のように生きていきたかったんですよ。
でも、それは迷惑ですよね。 |
谷川 |
そりゃ大変ですよね。 |
糸井 |
ワイ談のつもりはないんですけど、
挿入したまま1日じゅう生きていたかったんです。 |
谷川 |
こないだ、息子の賢作が作った歌で、
江國香織さんの詩にそういうのがありました。
ぼくはそれを読んだとき、
「これは男では書けない」と思ったんだけど、
糸井さんはそういうことを思えるんだ。
じゃあそうとうに、
糸井さんのなかに女性的な部分があるということですね。 |
糸井 |
はい。そうとう、ありますね。
野放しにしたら、ぼくは、
「超マイホーム主義」になるんです。 |
谷川 |
うん、うん。 |
糸井 |
受注産業体質だったり、仲間がいたりするから、
「狩り」に行ったりもする。
「狩り」がおもしろければ、
そんなこと考えなくてすみますから。
ほっといたらぼくは、阿部定になってる。 |
谷川 |
それは、糸井さんの
創造のエネルギー源ですね、きっと。 |
糸井 |
スケベですよー。 |
谷川 |
ねっ。 |
糸井 |
で、そのことを、秘密の宝箱に置いて、
「(そこに)あるのね」っていうかんじにしてる(笑)。
「あるのね」っていうことで、暮らせてます。 |
谷川 |
なるほど。 |
糸井 |
それがないと確かに、イヤですね。
谷川さんは、
そこまでのことではないんですね? |
谷川 |
ぼくはもうちょっと普通の男でね。
ずっと一生涯ベッドのなかでくっついて、
暮らすのはちょっと俺にはできない。
やっぱり、ひとりの時間が欲しい
っていう気持ちがあるんですよね。 |
糸井 |
そのぶん俺も、高卒の人だから、
そのイメージを大事にしながら(笑)、
実際は違いますもんね。 |
谷川 |
それで、何て言うのかしら、
女の人を好きになることと、
この冬の空を見て、木立を見て
いいなと思うことが、
すごく似てきますね。 |
糸井 |
うん、似てきますね。 |
谷川 |
女性のことを、
自然に属してる、
宇宙に属してるっていうふうに
だんだん、感じられるようになってきて。
それがやっぱり、いい気持ちですね。 |
糸井 |
うん、うん。 |
谷川 |
以前は、人間関係のことばっかり考えて、
嫉妬したり憎んだりとか、やってたわけでしょ?
もうちょっと広い文脈で、
なんか、命ってものを考えれるようになった。
それはもちろん女性に限らずなんだけど。
I LOVE YOU の I と YOU というのが、
なんか、自然とか、動物とか、芸術作品とか、
そういうものぜんぶになってきたなぁ
という感じではあるんですよ。 |
糸井 |
I と YOU が、
いつひっくり返ってもいいような。 |
谷川 |
そうそうそう。そうなんですよね。 |
糸井 |
クルックル、クルックル、
回ってるみたいな。 |
谷川 |
うん、うん。 |
糸井 |
それは……うれしいですね。 |
谷川 |
ねぇ? |
糸井 |
ええ。
欲が深くなったとも言えるんだけど。 |
谷川 |
そう、ある意味ではね、そうなんですよ。
どんどん欲深になってますねぇ。
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<これで、対談はおわりです。
ご愛読ありがとうございました。
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