谷川 |
それで、糸井さんは
詩人になろうと思ってるわけで。
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糸井 |
はい、ぼくは詩人になろって思ってね(笑)。
5年に1編できるだけでもいいでしょうし。
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谷川 |
もちろんそうですよ、悪くはない。
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糸井 |
商品としての詩じゃなくてもいいわけです。
メモしとくだけの詩人も、
ぼくはいると思うんですよ。
宮沢賢治の「雨ニモマケズ」だって
メモですからねぇ。
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谷川 |
死んだあと「燃せ」なんて
言ってたわけですからねぇ。
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糸井 |
あの詩、なくなってたかもしれない。
天に捧げるとか、
そういうもののような気がする。
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谷川 |
詩というものは本来、
そういうもんなんです。
神に捧げるところからきているはずなんですよ。
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糸井 |
きっとそうですよねぇ。
空間の中に消えてしまっても
かまわない。
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谷川 |
ほんと。
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糸井 |
言葉がふわーっと、
噴霧器みたいになってくといい。
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谷川 |
噴霧器(笑)。
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糸井 |
谷川さんは、ずーっと
それをおやりになってきました。
こんなに長いこと、
みずみずしさや
心と心が通い合う部分を失わない。
これまでこうしてちゃんと
詩人として生きてこられたのは、
なかなかに難しい綱渡りが
あったと思うのですが。
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谷川 |
自分ではよくわかんないけど、
ぼくは、詩人としては
ちょっとリアリストの面が
あるかもしれません。
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糸井 |
はい、ありますね。
ときどき、それで詩を書いたりしてますよね。
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谷川 |
まぁ、そうかもね。
ぼくは最初から
原稿料をもらったということで、
自分というものの位置を
社会の中で決めた人間です。
自分が若い頃に書いたものが
お金に変わったことは
そうとうショックでした。
それからは、自分が人のために
何かをしなきゃいけないんだ、
というように思えました。
それが出発点だから、どうしても
詩作品とふつうの人間の関わりを
考えないと書けないのです。
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糸井 |
そのスタートは運かもしれないですね。
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谷川 |
運かもしれませんね。
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糸井 |
リアリズムを取り入れながら
こうして長いこと歩いてきて、
詩についてはいま、
どう思っていらっしゃるんですか。
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谷川 |
詩のエネルギーって、
ぼくはすごく
微細なエネルギーだと思っています。
ほとんど素粒子レベルで
力を及ぼしていくもんだと思う。
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糸井 |
力の及ぼし方も
じわじわすぎてよくわからないんだけど、
なんていうんだろう‥‥つまり、
「何かをわかっても、
詩を上手く書ける方法はない」
とぼくは思うんです。
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谷川 |
ああ、ないですね。
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糸井 |
詩以外の力には、けっこうみんなある。
「ここにてこを使って、
ここは摩擦をなくして」
というようにして、
力を増やせるのが前提です。
でも、詩人がやることは、
「ここまで俺はわかったから、
いくらでも俺の詩はパワーを持つぞ」
ということにはなんないですよ。
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谷川 |
歳取ってきて
詩がよく書けるようになったのは
そのあたりが理由かもしれません。
いま、書くのがすごく楽なんです。
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糸井 |
谷川さんの「するっと書いてらっしゃる感」は、
いまのほうが、ございますね。
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谷川 |
そうですか。
とてもうれしいです、それは。
でも「するっ」と書いてないんですよ。
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糸井 |
じゃあ「するっ」に見せられるようにしてます?
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谷川 |
ぼくは(小声で)できるだけ苦労を
見せないように、見せないように
書いてるわけですよ。
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糸井 |
そうかぁ。
いま書いてらっしゃる長編詩も、
歩いていくように
書いていらっしゃるように思えます。
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谷川 |
うん。
そういうふうに読んでもらいたいです。
やっぱり、自然に書けたんだね、というように
読んでもらえるのが、うれしいです。
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糸井 |
えっと‥‥訊いてよさそうな気がするんで、
今日は訊いちゃいますけど。
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谷川 |
なんでも聞いてください。
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糸井 |
書く速度と、読む速度は、
どのくらいの開きがありますか。
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谷川 |
何十倍とあります。
ぼくは、最初はわりと言葉が
すーっと出てきたりするんですけど、
そこから先、平均して1か月以上
毎日パソコンを開けて
手直し、推敲してます。
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糸井 |
きゃあ。
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谷川 |
ええ、どうして?
糸井さん、しないの?
コピーはわりと書きっぱなし?
ぜんぜん直さない?
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糸井 |
はい(笑)。えーと、
なぜかっていうと、直せないんです。
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谷川 |
自分に厳しすぎて?
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糸井 |
じゃなくて、ここなあぁぁぁ(笑)、
言うんですか?
もうほんとに、
今日はふたりともずいぶん秘密を語ってますね。
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谷川 |
はい(笑)。 |
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(つづきます) |