谷川俊太郎、詩人の命がけ。 谷川俊太郎+糸井重里ひさしぶり対談 祝 谷川俊太郎さん、80歳!
 

第6回 主人公は誰だ。

糸井 谷川さんはいつでも
追っかけられる言葉を使ってるから
助かるんです。
谷川 「追っかけられる」ですか。
糸井 ものすごく簡単に言ってしまえば、
絵が描けるといいますか、
人体と対応している感じがあるんですよ。

谷川さんのことを
ポピュラーソングの人たちの中に
入れても大丈夫だし、
落語の世界に入れても大丈夫。
それは、谷川さんの詩がどこかで
ふつうに生きている人がわかるように
つくられているから。
谷川 それはそうです。
ずっとぼく、そればっかり
考えてきた人間ですから。
糸井 ああ、谷川さんは、そこに
命がけかもしれないですね。
谷川 そうですね。
そこは命がけかもしれない。
ときどき、これは詩人向け、
みたいなこと書くこともあるんだけどね。
糸井 それは「詩人友達に向けて」という
感じですよね。
谷川 まぁ、そうですね、
読者の中にもそういう人たちがいますから。
だけどぼくは基本的に
自分の実生活から離れないように
書いてきました。
自分の生活を、
ふつうの人間的なイメージで
ずっととらえるようにしてきています。
そこはまぁ、詩人の命を
かけているともいえるでしょう。

しかし、現代詩というのは、
詩人が、実生活に根をおろしていないものが
多いんですよ。
糸井 そうじゃないほうに行きかけたことは
あるんですか。
谷川 あります。
まぁ、ぼくはいろんなものを書いてるから、
「全体的にそっちに行っちゃった」
ということはないと思うんですけどね。
でも、生活に根差したものを書いてると、
ちょっとかっこいい
抽象的なものをやってみたいな、
という気持ちになることはありました。
もうあんまり興味なくなりましたけどね。

もうちょっと現代詩を
かっこいいものにしようとか、
誰もやったことないものをやろうとかいう
意識があってやったことはあります。
糸井 木彫をやってたら、
ジュラルミンが使いたくなってきた、
みたいなことですね。
それは谷川さんがたえず
たくさんの仕事をやってこられたから、
バランスが取れて、守ることができたんですね。
谷川 そうだと思います。
糸井 「ある時期ジュラルミンでした」
なんてことがあったら、
帰ってくるのも大変になりますよね。
谷川 行きっぱなしだとまずいね。
だからぼくは、どちらかというと
「歴史的に」ではなく
「地理的に」仕事してます。
糸井 地理的に?
谷川 詩が「ちょっとそっちへ旅をする」という具合に
地理的にちらばってるんですよ。
けれども、詩人の成長というものは、
たいてい歴史的なんですよ。
糸井 うん、時間軸なんですね。
谷川 垂直的に、だんだん成熟していく感じ。
ぼくはわりあい
平面的地理的な仕事をしてると思っています。
糸井 地理的であるのは、もしかしたら
ぼくにも言えることですね。
でも、谷川さんにはやっぱり
時間の縦軸もあります。
谷川 あります、はい。
糸井 両方あって、3次元的に歩いてきたんだなぁ、
という感じがしています。

谷川俊太郎さんという人を
幼稚園の子が知ってたり、
学生が知ってたり、
会社員もお年寄りも知ってる。
同時に、詩を専門にしている方々が知ってる。
この範囲の広さゆえに、
「広いこと」にみんな気を取られちゃうんだけど、
実は、誰がこんなことをできるだろうって
ぼくなんかはすごく思います。

「ふつうに生きていく人たちに伝わるように」
そこに詩人の命を
かけてきたからだと思うんですが、
そうとう何かを律してくるか、
信念や約束を守り続けてきたぞ、
みたいなところがないと
できないことですよ。
谷川 それにぼく、締め切りは
すごく守りますからね。
糸井 それもそうですね。
それかぁ(笑)!
谷川 今日も、締め切りがないのに
糸井さんに原稿渡しちゃったんだもんね。
糸井 そうなんです。
先日、あまりにもあいまいなことを
谷川さんに頼んで、
そのままにしていたことを、
すぐに原稿にしてくださって。
谷川 それは、新鮮だったからですよ。
人からの刺激って、
じつは言語にはすごくあるんです。
あのとき、糸井さんと話したことは、
何かを与えてくれました。
そういうときは「産直」で
新鮮なときに書いちゃったほうがいいし、
少なくとも、書き出したほうがいい。
糸井 そうなんですか、すごい。
谷川 それでね、それはたのしいんですよ、やっぱり。
糸井 いやぁ、ぼくはまだ、
その原稿を読んでないんですけど、
たのしみです。
なんていうか、谷川さんには、
難しいことしかやってほしくないもんですから。
谷川 はい。
ぼく、難しいことしかしたくない
っていうとこ、あるんですよ。
糸井 そうですよね(笑)、谷川さんは
ほんとにそうだと思います。
  (つづきます)

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2012-04-10-TUE