糸井 |
谷川さんはいつでも
追っかけられる言葉を使ってるから
助かるんです。
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谷川 |
「追っかけられる」ですか。
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糸井 |
ものすごく簡単に言ってしまえば、
絵が描けるといいますか、
人体と対応している感じがあるんですよ。
谷川さんのことを
ポピュラーソングの人たちの中に
入れても大丈夫だし、
落語の世界に入れても大丈夫。
それは、谷川さんの詩がどこかで
ふつうに生きている人がわかるように
つくられているから。
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谷川 |
それはそうです。
ずっとぼく、そればっかり
考えてきた人間ですから。
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糸井 |
ああ、谷川さんは、そこに
命がけかもしれないですね。
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谷川 |
そうですね。
そこは命がけかもしれない。
ときどき、これは詩人向け、
みたいなこと書くこともあるんだけどね。
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糸井 |
それは「詩人友達に向けて」という
感じですよね。
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谷川 |
まぁ、そうですね、
読者の中にもそういう人たちがいますから。
だけどぼくは基本的に
自分の実生活から離れないように
書いてきました。
自分の生活を、
ふつうの人間的なイメージで
ずっととらえるようにしてきています。
そこはまぁ、詩人の命を
かけているともいえるでしょう。
しかし、現代詩というのは、
詩人が、実生活に根をおろしていないものが
多いんですよ。
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糸井 |
そうじゃないほうに行きかけたことは
あるんですか。
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谷川 |
あります。
まぁ、ぼくはいろんなものを書いてるから、
「全体的にそっちに行っちゃった」
ということはないと思うんですけどね。
でも、生活に根差したものを書いてると、
ちょっとかっこいい
抽象的なものをやってみたいな、
という気持ちになることはありました。
もうあんまり興味なくなりましたけどね。
もうちょっと現代詩を
かっこいいものにしようとか、
誰もやったことないものをやろうとかいう
意識があってやったことはあります。
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糸井 |
木彫をやってたら、
ジュラルミンが使いたくなってきた、
みたいなことですね。
それは谷川さんがたえず
たくさんの仕事をやってこられたから、
バランスが取れて、守ることができたんですね。
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谷川 |
そうだと思います。
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糸井 |
「ある時期ジュラルミンでした」
なんてことがあったら、
帰ってくるのも大変になりますよね。
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谷川 |
行きっぱなしだとまずいね。
だからぼくは、どちらかというと
「歴史的に」ではなく
「地理的に」仕事してます。
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糸井 |
地理的に?
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谷川 |
詩が「ちょっとそっちへ旅をする」という具合に
地理的にちらばってるんですよ。
けれども、詩人の成長というものは、
たいてい歴史的なんですよ。
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糸井 |
うん、時間軸なんですね。
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谷川 |
垂直的に、だんだん成熟していく感じ。
ぼくはわりあい
平面的地理的な仕事をしてると思っています。
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糸井 |
地理的であるのは、もしかしたら
ぼくにも言えることですね。
でも、谷川さんにはやっぱり
時間の縦軸もあります。
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谷川 |
あります、はい。
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糸井 |
両方あって、3次元的に歩いてきたんだなぁ、
という感じがしています。
谷川俊太郎さんという人を
幼稚園の子が知ってたり、
学生が知ってたり、
会社員もお年寄りも知ってる。
同時に、詩を専門にしている方々が知ってる。
この範囲の広さゆえに、
「広いこと」にみんな気を取られちゃうんだけど、
実は、誰がこんなことをできるだろうって
ぼくなんかはすごく思います。
「ふつうに生きていく人たちに伝わるように」
そこに詩人の命を
かけてきたからだと思うんですが、
そうとう何かを律してくるか、
信念や約束を守り続けてきたぞ、
みたいなところがないと
できないことですよ。
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谷川 |
それにぼく、締め切りは
すごく守りますからね。
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糸井 |
それもそうですね。
それかぁ(笑)!
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谷川 |
今日も、締め切りがないのに
糸井さんに原稿渡しちゃったんだもんね。
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糸井 |
そうなんです。
先日、あまりにもあいまいなことを
谷川さんに頼んで、
そのままにしていたことを、
すぐに原稿にしてくださって。
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谷川 |
それは、新鮮だったからですよ。
人からの刺激って、
じつは言語にはすごくあるんです。
あのとき、糸井さんと話したことは、
何かを与えてくれました。
そういうときは「産直」で
新鮮なときに書いちゃったほうがいいし、
少なくとも、書き出したほうがいい。
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糸井 |
そうなんですか、すごい。
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谷川 |
それでね、それはたのしいんですよ、やっぱり。
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糸井 |
いやぁ、ぼくはまだ、
その原稿を読んでないんですけど、
たのしみです。
なんていうか、谷川さんには、
難しいことしかやってほしくないもんですから。
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谷川 |
はい。
ぼく、難しいことしかしたくない
っていうとこ、あるんですよ。
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糸井 |
そうですよね(笑)、谷川さんは
ほんとにそうだと思います。 |
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(つづきます) |