その
2
どうせなら派手に。
手元が見えづらくなり、
読書や仕事の資料を読むのに支障をきたすようになって、
老眼鏡の必要性に迫られた、ぼく。
当時、40代半ば。
さあどんな老眼鏡をつくればいいんだろう?
老眼鏡は、近視のメガネのように
長い時間かけるわけじゃありません。
‥‥ということは、
そして「老眼鏡をしています」という、
ちょっと慣れない感じが、自分には、まだ、ある。
となると、「あきらかにわかりやすい老眼鏡」というか、
いつもはかけないような派手な印象のフレームで、
しかも、そんなに高くない
価格帯のものがいいんじゃないかなあ。
そういう結論を出しました。
いいフレームを、「どひゃ!」という価格を払って、
あつらえるべきなのかは、最後まで悩みました。
でも‥‥高いんですよ、メガネ。
じゃあ逆に、いっそ100均?
うーん。それもちょっと嫌だなあ‥‥。
そういうわけでぼくが選んだのは、
ターミナル駅周辺にかならずある系の、
「価格破壊系・でもオシャレ」なメガネ屋さんでした。
いま思えばその店にも「出来合い」の、
最初からレンズがセットになった老眼鏡を
安く売っていたはずなんです。
けれどもメガネ屋慣れをしていたぼくはそれに気付かず、
自分でフレームを選んで、検眼してもらい、
レンズを入れてもらう、という方式しか
頭に浮かびませんでした。
フレーム選びのポイントは、
考えた通り「ちょっと派手なもの」です。
老眼鏡だからこそちょっと遊んでもいいんじゃない?
そういうわけでつくったのがコレです。
近視のメガネと同じように、フレームを選んでから、
老眼用のレンズを入れてもらいました。
なお、これは、これからこのコンテンツに登場する
「JINS」さんのものではありません。
価格帯の似ている駅前系、ではありますけれど。
できあがって、かけて、本を読んだとき、
しょうじき、感動しましたよ!
なんとまあ、はっきり見える!
文庫本もスマホの画面もはっきり見える!
目のせいで減っていた読書量が
老眼鏡のおかげで復活するほどでした。
それでもぼくはやっぱり
「老眼」という名前だけは拒絶しておりました。
「あれ? 武井さん、あたらしいメガネ。
‥‥ひょっとしてそれ‥‥?」
と聞かれると。
「これ? これね、ちょっと近くを見るのに便利で」
「つまり老眼ってことでしょ?」
「そうじゃないわけじゃないかもしれないんだけどさ、
そう言いたくなくてさ。
RGKってどうかな。アールジーケー。
ロー・ガン・キョーの、頭文字」
「何を言っているんですか」
「ローガンって、カタカナにするのはどうかな。
横文字だったらLOGAN。
X-menぽくない? ウルヴァリン」
「‥‥」
こういうのを「わるあがき」と言います。
わかってますって。
いまとなっては「いいじゃん老眼鏡で」と、
思うようになっているのですけれど、
かけはじめのときには、
やっぱりちょっと抵抗をしたかった。
(ほんとにだんだんどうでもよくなりましたけど。)
あれ? そういえば英語では老眼鏡ってなんて言うだろう。
「リーディンググラス」?
調べてみたところ、こんなに言い方がありました。
・convex glasses
・far-sighted glasses
・a pair of spectacles for presbyopia
・reading glasses
・spectacles for presbyopia
convexは「凸」。なるほど凸レンズだからね。
presbyopiaは「老眼」って意味らしいけれど、
ネイティブじゃないからわからないんですが、
あんまり「老」というニュアンスは、なさそう。
なのに、なんで日本では「老」っていうんだろう?
そこにはちょっと面白いトリビアがあったのです。
農耕民族 = 老眼になる、って?
これから書くのは「一説」です。
ほんとうにそうなのかは、諸説あって、
はっきりわからないことなのですけれど、
「なるほどなあ」と思ったのでご紹介してみます。
老眼鏡。英語ではそのままの「老」のニュアンスがなく、
一般的に老眼鏡のことは「リーディンググラス」、
読書用のメガネ、と呼んだりする。
それはなぜ?
「それはですね、狩猟民族と農耕民族の
違いではないか、と言われているんですよ」
そう教えてくれたのは、あるメガネ屋さんでした。
なんと、祖先の話ですか?
「そうなんです。狩猟民族は遠くが見えないと、
獲物を狩るのに困っちゃいますよね。
つまり裸眼で遠くを見る必要があったから
遠くを見ることに特化した目になった、
と言われているんです。
逆に、農耕民族は、それこそ米粒を数えるじゃないけど、
近くが見えたほうが都合がいい暮らしでした。
だから近くを見るのに特化した目の特性になった。
つまり、われわれの目も、
それぞれの暮らし方に適応していったという、
そんな説があるんです」
えーっと、ということは、
一般的にもともとが狩猟民族だった人々っていうのは、
老眼にならないってことですか?
「いえ、もちろん、加齢によって
近くが見えづらくなる症状はあるはずです。
けれども、若い頃から近くが見えづらいということも、
そんなに珍しくないようなんです。
高校生が勉強をするときにメガネをかけるというシーンが、
欧米の映画やドラマでありますけれど、
あれは凸レンズ、つまり我々の言うところの
老眼鏡である場合も多く見られるんです。
そんなふうに若い人がかけることが不思議じゃないので、
『老眼鏡』ということばのもつ『老』のニュアンスは
もともとないんじゃないかな‥‥と考えられるんですよ。
だから『リーディンググラス』(読書用メガネ)、
という言い方がされているんでしょうね。
逆に、日本では、加齢によってその症状が出る人が
ほとんどなので、『老眼鏡』という呼び方が
一般的になっているんだと思いますよ」
な、なるほど。老眼鏡とリーディンググラスは
同じものだったのか。
こういうことって、人種や文化のちがいに
よるところが大きいのかもしれないですね。
このあたりのことを知り、いろいろ調べていくうちに、
ぼくは「老眼鏡」という言葉に
さらに慣れていくのでした。
(つづきます)
2017-10-26 THU