その
4

男子のためのセーター

まりこ

ハアーーーーーーーーーーー。

ハリネズミ店長

どうしたの、長いため息ついて。

まりこ

はい。
あの、男の人の気持ちがわからないんです。

ハリネズミ店長

あれま。
わたしになんでも訊いてごらんなさいな、
うさろうさんのハートをがっちり掴んで幾年月、
殿方のことならなーーんでも、
このマダム・ヘッジホッグにおまかせあれ。

まりこ

ああ、うさろうさんじゃあねえ。

ハリネズミ店長

なぁに、うさろうさんではお話にならないとでも？
あんなにジェントルで立派な方はどこにもいなくってよ。

うさろう氏

まりこ

ああ、その、うさろうさんのことを
悪くいうつもりはなかったんです。
ただ、うさろうさんは、服を着ていないでしょう？

ハリネズミ店長

それはそうよ、あんなに素敵な毛皮をお持ちですもの。

まりこ

ハアーーーーーー。

ハリネズミ店長

なぁに、服のことなの、まりこが知りたいのは。

まりこ

そうなんです。
男性が「着るもの」を、そして「着ること」を、
どう思っているのかが、よくわからないんです。

ハリネズミ店長

うさろうさんは言ってたわ。
「男子たるもの、服のことで心を煩わせるなど、全く不要なことじゃ」、と。

まりこ

だから、それは、うさろうさんには毛皮があるからですよね。

ハリネズミ店長

それはそうね。

まりこ

ロンドンで、すてきなフェアアイルのセーターを数枚、
買ったんです。
その中の２枚が、男性が着るくらいの大きめのサイズで。

ハリネズミ店長

きれいな色ね！

まりこ

そうでしょう。
でもその「きれいな色」ってところが、
男性に受け入れてもらえるかしら、と
ちょっと不安になっちゃった。

ハリネズミ店長

なるほどね。

まりこ

男の人って、着るものに対して警戒心が強いというか、
保守的というか。
女性よりもかっちりした
「自分にとっての安全枠」を決めている
ことが多いような気がするんです。

ハリネズミ店長

まりこのご主人と息子さんは割とそのタイプね。

まりこ

そうです。
何というか、無難なものを着てます。
朝服を着てしまったら、あとは一日中、
自分が何を着ているかなんて考えなくてもいい、
というふうにありたいんだろうなと思います。

ハリネズミ店長

ふんふん。

まりこ

別にそれはそれでいいと思うんですよ。
大事なのは服よりも、それを着て何をするか、
ということだとわたしも思いますから。
でもねえ‥‥。
服が手伝えることもあると思うんですよ。

ハリネズミ店長

たとえば？

まりこ

周りの人をいい気持ちにすることができる。
たとえばこんなきれいな色の編み込みのセーターを
着ている人がいたら、それだけでちょっと、
部屋の空気が変わる感じがしませんか？

ハリネズミ店長

ああ、そうね、わかる気がするわ。

まりこ

それって、自分の周りの環境を
整えることでもあると思うんです。
あと、関わる人との関係にも少し影響してきますよね。
ちょっと冷やかし気味に
「しゃれたセーター着てる」って言われた時に、
自分がどう反応するか、というような。
そういう一切が、楽しいと思えるか、面倒か、
っていうことなんですよね。
男性はいくつになっても、なんというか、心がふわふわで
傷つきやすい生き物でもあるから‥‥。

ハリネズミ店長

ハアア。

まりこ

ため息の理由がわかりましたでしょう？
でもね、わたしの個人的な意見としては、
男性は着ることをもっと、遊びとして捉えて
楽しんでもいいと思います。
かっこいい昆虫や、色のきれいな野の花には
皆、自然に寄っていくでしょう。
人間の世界もきっと同じで。
セーター一枚で変わることってあると思うんですよ。

ハリネズミ店長

そうね。

まりこ

さ、悩むのはもうおしまい。
セーターの説明をしますね。