その
7
年代物の編みものこもの
まりこ
今回、特筆に値すると思っているのが、
年代物の手編みの「こもの」たちを見つけられたことです。
こういうの、日本のヴィンテージショップでは
まず、出会えない。
ハリネズミ店長
どれも繊細で、やさしげね。
まりこ
はい。
昔の手編みのものは、
細い糸で編まれたデリケートなものが多く、
使っているうちに擦れたり、穴が開いたり、
ダメージを受けやすかったのだと思います。
100%ウールで、虫も食いやすいですしね。
それで「売れる」状態のものが
なかなか後世まで残らないのだと思います。
だから今回、かなりコンディションのいい手袋と、
レース編みのスカーフやショールが
見つかったのは、とてもラッキーでした。
ハリネズミ店長
これが手編みだなんてねえ。
ちょっと前の世代の人たちは、すごかったわね。
「手の能力」をできる限り生かしていた、という感じがする。
まりこ
そうですね。
この手袋は、指の先が10本とも全部、
丁寧に三角に「減らし目」して編まれています。
工程を省略して、もっと簡単にもできるんですけれど、
この編み手さんにとっては、
このやり方がスタンダードなんですね。
ラクをしようとか、多分、思っていない。
10時間かかるところを9時間で編もう、
とかいうつもりはないんだろうと思います。
シェットランドヤーンが使われていますし、
シェットランド諸島の主婦が、家計の足しにするために、
家事の合間に編んだものかな、という気がします。
だとすると、この指先の減らし目も、
売るために大事なアピールポイントに
なっていたのかもしれませんね。
柄も色も、とてもオーソドックスで
チャーミングなフェアアイルです。
まりこ
これは短めのレースのスカーフ。
半折りにして首のところに引っ掛けて、
両端がウエスト辺りまで来る長さです。
このタイプのものを今回は4本見つけました。
ハリネズミ店長
縞模様がうねうねしていて、
透かし柄になっているわね。
まりこ
はい。
この技法はシェットランドレースのものだけど、糸はとても
柔らかくて、ラムズウールかもしれません。
色糸の切り替えに、編み手の好みが表れていますね。
どうやったら感じがいいか、
自分の手持ちのブラウスやジャケットに合うか、
真剣に悩んで色を足していっただろうと思います。
ハリネズミ店長
なるほどね。
まりこ
これは「こもの」というにはやや、大作です。
幅58センチ、長さ 160センチの
シェットランドレースのストール。
今回、ずいぶんたくさんのシェットランドレースの
ショールを見ることができて、
そしてその多くを買ってきたんですが、
これは、わたしが一目で恋に落ちた一枚です。
ハリネズミ店長
あの、まりこはもしかして、惚れっぽい?
まりこ
そんなことはないですよ。
恋に落ちるような出会いなんて、
そうそうは、ありません。
シェットランドレース一枚とってみても、
技巧の限りを尽くしたものから
素朴なものまで、いろいろあった中で、この一枚に、
出会った瞬間に「打たれた」んです。
ハリネズミ店長
大げさねえ。
まりこ
ごめんなさい。
でもこれ、わたし、いくらでも見ていられるんです。
本当にきれい。
時が止まる。
限りある人間の二本の手が生み出したものが、
「永遠」に繋がってるというような、不思議な感覚。
ハリネズミ店長
これについて説明しだしたら長くなりそうね。
まりこ
これについては、素晴らしさを表現しようにも
わたしの言葉が追いつかない、
という確信があるので、説明しません。
「生活のたのしみ展」のお店に立って、
幸運な誰かがこのショールに出会い、
恋に落ちる瞬間を見守ろうと思います。
(つづきます)
2017-11-07 TUE