── |
(偶然、横を岡本敏子さんが通りすぎる)
あ、敏子さん! |
田島 |
うわ! |
敏子 |
あら、インタビューって今日だったのね、
いらしてたの、まぁ〜。 |
田島 |
お会いできて、めっちゃうれしいです。 |
敏子 |
ちょっとワインを飲んできちゃったから、
ごきげんなのよ。ごめんなさいね。 |
田島 |
いえ、いえ。
あの、田島といいます。
岡本太郎さんの、
「マイナスに賭けろ」とか、もう大好きで。 |
敏子 |
ああ、そう!
「マイナスに賭けろ」はもう、
岡本太郎の哲学なのよ。 |
田島 |
雑誌で座右の銘を訊かれたりすると
そう答えているんですよ。 |
敏子 |
そう、うれしいわ!
あのね、あれは、簡単なことじゃないのよ。
ずっとずっとずっとやってると、
ちょっと気を弱くして、
「こっちのほうがいいかなぁ〜?」って
なっちゃうときがあるの。
気弱になっちゃって、
楽なほうにヒュッて行っちゃうと、
いままでのことは
ぜんぶダメになっちゃうのよね。
だから、マイナスに賭け通す。
それがあの人の、ほんとうの、覚悟なの。
むずかしいことなのよ。 |
田島 |
たいへんですよね。
それまでやってきたことが、
ぜんぶひっくり返って
自分に戻ってきちゃうからね。 |
敏子 |
それは、太郎さんの、ほんとうの、覚悟なの。 |
田島 |
はい! |
敏子 |
‥‥わかっていらっしゃるわ、この人!
「うれしい! わかってらしゃる!」「いや〜ハハハ!」 |
田島 |
いやいやいやいや!
とんでもないです。 |
敏子 |
日常生活のどんなささいなことでも
マイナスに賭けるのよ。
つまんない、瑣末なことがすべてを決定するの。
すごい大きな岐路に立った、
決戦みたいなときは
だれでもみごとな決断をできますよ。
でも、こまかいことは、
みんないいかげんになっちゃうの。 |
── |
TAROは、徹底してますね。 |
敏子 |
そう。それがあの人のおもしろいところなの。
どんなささいなことでも、
弱気なものが自分のなかにおこるのは
いやなのね。
みんな「岡本太郎だった」と思ってるけど、
そうじゃない、
あの人は、自分で覚悟して
岡本太郎に「なった」んだから! |
田島 |
なあーるほどね! |
敏子 |
岡本太郎になるぞ!って言って。 |
田島 |
ずーっと、ずーっと、
なるぞ!だったんですね。 |
敏子 |
そう。あの人、覚悟した確信犯だから、
なにがあってもぜんぜん動じないの。
才能ある人とか、
そのままヒョッと地位についた人というのは
ふつうは、グラグラグラグラしてますよ。 |
田島 |
そうですよねえ。
どんなときでも、
どんな人と接するときでも
岡本太郎さんは、動じないですから。 |
敏子 |
それがみごとなのよ!
かっこいいぞー! |
田島 |
へへへ。かっこいいですよね。 |
敏子 |
ほんとに、かっこいいんだよ。
あたくし、小説出したのよ。
|
田島 |
そうなんですか。 |
敏子 |
それが、エロティックな小説なのよ! |
田島 |
ハハハハ! まじですか!
かっこいいですね! |
敏子 |
ほんとよ。
11月26日に出たの。
新人作家デビューなのよ。 |
田島 |
それはすてきだわ。 |
敏子 |
いちおうフィクションの形を
とってるんだけどね。 |
── |
TAROを思わせる人は、でも、
小説の途中で、
亡くなっちゃうんですよ。 |
敏子 |
そう、じつはわりとすぐに亡くなっちゃうの。
‥‥だってね、
亡くならないのよ、死なないのよ、ってことを
書いてるんだから。 |
田島 |
なるほどね!
へええ。 |
敏子 |
わたくしはね、一瞬たりとも
太郎さんが亡くなったなんて、
思ったことないんだから。
死なないと話がはじまらないのよ。 |
田島 |
岡本太郎さんが
お書きになった言葉というのは、
亡くなった、昔の人の言葉ではなくて、
いま、そこで、
自分に対して言ってくれているような
そんなかんじがします。 |
敏子 |
そうでしょう。
言葉だけじゃなくて、絵もいいのよ〜。
そうだ! メキシコで発見された壁画の
下絵がそこに展示されているから、
帰りにみていってよ。
あれをどうしても持ってきて、
みんなに大きな壁画をみせたい。
いいよ! |
田島 |
どんな絵なんですか? |
敏子 |
原爆の絵なのよ。
まんなかに、
ガイコツが燃え上がっているの。 |
── |
そうなんです。
「超マイナスの状況」で
燃え上がっている。 |
田島 |
はー! |
敏子 |
しかも誇り高くね。
「こんなひどい目に遭ってかわいそうでしょう」
という、悲しくみじめで
縮こまった絵じゃないのよ。
そんなことばかり言ってたらね、
いまの人類は
ここまできませんよ。
だって、火山も爆発したし、津波もあったし
ペストも流行ったし、いろいろあったよね。
それに負けずにピシャッと、誇り高く、
みんなここまで生きてきたんだもの。
すごいことよ。 |
田島 |
ひゃー、そうか、そうですね。
ガイコツが燃えてるんだ。すっごいな! |
敏子 |
いい絵なのよ。
わたくし、惚れ直したのよ。
原爆という、まったくまがまがしい力が
炸裂した瞬間に、人間の誇りがね、
それに負けずにバーッと燃え上がったんだぞ、
ていう絵なんだよ。
岡本太郎じゃなければ、
そんなの、できない絵なの。
いいぞぉー! |
── |
キノコ雲なんかも、悪者なはずなのに、
かわいく描いてあるんです。 |
敏子 |
ニョキニョキ新しいキノコ雲が生まれて、
あかちゃんのキノコ雲は
舌をぺロっと出したりしてかわいいのよ。 |
田島 |
タハハハハ! 善も悪もないんだ。
究極の、太郎さんだ。
とんでもない絵だな。 |
敏子 |
いまあるのは下絵だけど、
ねえ、みてってね。 |
田島 |
最高傑作なんでしょうね。太郎さんらしいな。
善も悪もなく、パワーで生きる、
そこがいちばん大事なんだってこと、
太郎さんは、そういうことをずっと
言ってきたような人って気がしますね。
「サインしますよ。田島さんね。
タカって、どういう字?」
愛読書『自分の中に毒を持て』に、
敏子さんのサインをもらいました。
「もう、ほんとにお守りになっちゃった」
|