オリジナル・ラヴの田島貴男といえば、
泣く子も黙る、サウンドのクオリティと歌唱力。
そんな「こわいものなし」にみえる田島さんが、
TAROの文庫本をボロボロになるまで
読み込んでいるという噂を聞きました。
以前ケーキづくりが趣味だったという田島さんに、
岡本太郎記念館の庭にあるカフェ
a Piece of Cake
お話をうかがうことにしましたよ。


第4回
わ〜、敏子さんだ!


── (偶然、横を岡本敏子さんが通りすぎる)
あ、敏子さん!
田島 うわ!
敏子 あら、インタビューって今日だったのね、
いらしてたの、まぁ〜。
田島 お会いできて、めっちゃうれしいです。
敏子 ちょっとワインを飲んできちゃったから、
ごきげんなのよ。ごめんなさいね。
田島 いえ、いえ。
あの、田島といいます。
岡本太郎さんの、
「マイナスに賭けろ」とか、もう大好きで。
敏子 ああ、そう!
「マイナスに賭けろ」はもう、
岡本太郎の哲学なのよ。
田島 雑誌で座右の銘を訊かれたりすると
そう答えているんですよ。
敏子 そう、うれしいわ!
あのね、あれは、簡単なことじゃないのよ。
ずっとずっとずっとやってると、
ちょっと気を弱くして、
「こっちのほうがいいかなぁ〜?」って
なっちゃうときがあるの。
気弱になっちゃって、
楽なほうにヒュッて行っちゃうと、
いままでのことは
ぜんぶダメになっちゃうのよね。
だから、マイナスに賭け通す。
それがあの人の、ほんとうの、覚悟なの。
むずかしいことなのよ。
田島 たいへんですよね。
それまでやってきたことが、
ぜんぶひっくり返って
自分に戻ってきちゃうからね。
敏子 それは、太郎さんの、ほんとうの、覚悟なの。
田島 はい!
敏子 ‥‥わかっていらっしゃるわ、この人!


「うれしい! わかってらしゃる!」「いや〜ハハハ!」
田島 いやいやいやいや!
とんでもないです。
敏子 日常生活のどんなささいなことでも
マイナスに賭けるのよ。
つまんない、瑣末なことがすべてを決定するの。
すごい大きな岐路に立った、
決戦みたいなときは
だれでもみごとな決断をできますよ。
でも、こまかいことは、
みんないいかげんになっちゃうの。
── TAROは、徹底してますね。
敏子 そう。それがあの人のおもしろいところなの。
どんなささいなことでも、
弱気なものが自分のなかにおこるのは
いやなのね。
みんな「岡本太郎だった」と思ってるけど、
そうじゃない、
あの人は、自分で覚悟して
岡本太郎に「なった」んだから!
田島 なあーるほどね!
敏子 岡本太郎になるぞ!って言って。
田島 ずーっと、ずーっと、
なるぞ!だったんですね。
敏子 そう。あの人、覚悟した確信犯だから、
なにがあってもぜんぜん動じないの。
才能ある人とか、
そのままヒョッと地位についた人というのは
ふつうは、グラグラグラグラしてますよ。
田島 そうですよねえ。
どんなときでも、
どんな人と接するときでも
岡本太郎さんは、動じないですから。
敏子 それがみごとなのよ!
かっこいいぞー!
田島 へへへ。かっこいいですよね。
敏子 ほんとに、かっこいいんだよ。
あたくし、小説出したのよ。
田島 そうなんですか。
敏子 それが、エロティックな小説なのよ!
田島 ハハハハ! まじですか!
かっこいいですね!
敏子 ほんとよ。
11月26日に出たの。
新人作家デビューなのよ。
田島 それはすてきだわ。
敏子 いちおうフィクションの形を
とってるんだけどね。
── TAROを思わせる人は、でも、
小説の途中で、
亡くなっちゃうんですよ。
敏子 そう、じつはわりとすぐに亡くなっちゃうの。
‥‥だってね、
亡くならないのよ、死なないのよ、ってことを
書いてるんだから。
田島 なるほどね!
へええ。
敏子 わたくしはね、一瞬たりとも
太郎さんが亡くなったなんて、
思ったことないんだから。
死なないと話がはじまらないのよ。
田島 岡本太郎さんが
お書きになった言葉というのは、
亡くなった、昔の人の言葉ではなくて、
いま、そこで、
自分に対して言ってくれているような
そんなかんじがします。
敏子 そうでしょう。
言葉だけじゃなくて、絵もいいのよ〜。
そうだ! メキシコで発見された壁画の
下絵がそこに展示されているから、
帰りにみていってよ。
あれをどうしても持ってきて、
みんなに大きな壁画をみせたい。
いいよ!
田島 どんな絵なんですか?
敏子 原爆の絵なのよ。
まんなかに、
ガイコツが燃え上がっているの。
── そうなんです。
「超マイナスの状況」で
燃え上がっている。
田島 はー!
敏子 しかも誇り高くね。
「こんなひどい目に遭ってかわいそうでしょう」
という、悲しくみじめで
縮こまった絵じゃないのよ。
そんなことばかり言ってたらね、
いまの人類は
ここまできませんよ。

だって、火山も爆発したし、津波もあったし
ペストも流行ったし、いろいろあったよね。
それに負けずにピシャッと、誇り高く、
みんなここまで生きてきたんだもの。
すごいことよ。
田島 ひゃー、そうか、そうですね。
ガイコツが燃えてるんだ。すっごいな!
敏子 いい絵なのよ。
わたくし、惚れ直したのよ。
原爆という、まったくまがまがしい力が
炸裂した瞬間に、人間の誇りがね、
それに負けずにバーッと燃え上がったんだぞ、
ていう絵なんだよ。
岡本太郎じゃなければ、
そんなの、できない絵なの。
いいぞぉー!
── キノコ雲なんかも、悪者なはずなのに、
かわいく描いてあるんです。
敏子 ニョキニョキ新しいキノコ雲が生まれて、
あかちゃんのキノコ雲は
舌をぺロっと出したりしてかわいいのよ。
田島 タハハハハ! 善も悪もないんだ。
究極の、太郎さんだ。
とんでもない絵だな。
敏子 いまあるのは下絵だけど、
ねえ、みてってね。
田島 最高傑作なんでしょうね。太郎さんらしいな。
善も悪もなく、パワーで生きる、
そこがいちばん大事なんだってこと、
太郎さんは、そういうことをずっと
言ってきたような人って気がしますね。


「サインしますよ。田島さんね。
 タカって、どういう字?」



愛読書『自分の中に毒を持て』に、
敏子さんのサインをもらいました。
「もう、ほんとにお守りになっちゃった」

a Piece of Cake
おすすめののみもの

マンゴジュース(インド産)
800円

a Piece of Cake

岡本太郎記念館の庭に面したカフェです。
庭にあるTARO作品を眺めながら
おいしいお茶やケーキをたのしめます。
※記念館に入館しなくても、カフェに入れますよ。
 お散歩がてら、気軽に入ってくださいね。

2003-12-19-FRI

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