岡本太郎という芸術家は、
日本の各世代の、いろんな職業の人びとの心に
いろんなものを残しているようです。
あちこちで息づく太郎の遺伝子を、
このコーナーで、ご紹介してきました。
最後に登場する遺伝子は、ジミー大西さんです。

ジミー大西さんプロフィール




「ひと目みて心を奪われる」といわれる、
色彩あふれる絵を描くジミー大西さんは、
数年前までは「お笑い」のタレントさんでした。
2002年12月より日本全国を巡回している展覧会に
足を運んだ人の数は
いまや、ゆうに30万人を超えるといいます。
ジミー大西さんが
タレントから画家に転向したきっかけには、
晩年のTAROがかかわっていたとか。
darlingがお話をうかがいましたよ。


第1回
キャンバスを、はみ出せ。


糸井 大西さんは、
岡本太郎さんとお会いになったことは
あるんですか?
大西 いえ、お会いしたことは、じつは、ないんです。
僕が画家になろうと思ったときは
ご存命中だったんですけれども‥‥。
でも僕は、太郎先生から、
手紙をいただいたことがあって。
糸井 うん。
大西 10年以上前になりますけども、
あるテレビ番組で、絵を描いたんですよ。
それは、僕にとっては、
学校の授業以外で、
大人になってから
はじめて描いた絵だったんです。
糸井 まだ本職じゃなかったときに
番組で絵を描いたんですね。
大西 はい。芸能人が何人かで
絵を描く企画だったんです。
タレントさんとか、芸人さんとか、
絵がうまい方が多いので。
なかでも僕のは、
ただの「お笑い」としての、
「オチ」で使う絵でした。
糸井 うん、うん。
大西 「オチ」で使うつもりの絵を描いたのに、
番組では意外と評判がよかったんですよ。
それだけでも驚いていたのに、
そしたらなんと、
番組をみた太郎先生が、
手紙をくれたんです。
僕の絵のことを、
「いいよ」って、書いてあった。
糸井 「まさか」と思ったでしょう!
大西 びっくりしましたよ。
テレビ番組といえども、
太郎先生がみてくれてるなんて、
まず、思てないし。
僕の絵は、番組の構成では
誰かにつき返されて終わりやろな、
ぐらいなもんですよ。
でも、それでも当たり前ですよね、
芸術家でもなんでもないし。
糸井 そもそも「オチ」なんだし(笑)。
大西 もう、世のなかが喜んでくれたらええわ、って
いうだけのもんですから。
誰かの目にとまったり、
気に入ってくれる人がいるなんて
意識してなかったので。
糸井 それを、太郎さんがみて。
大西 そう、手紙をくれて‥‥。
「絵、いいよ。
 キャンバスからはみ出しなさい」

って、書いてあった。
糸井 ああ、太郎さんの声が
聞こえるようだねぇ。
大西 もう、それから
「キャンバスをはみ出せ」という言葉が
すごい、気になり出したんですよ。
なんやろう「はみ出せ」って、なんやろう。

糸井 はああ、すごい言葉だね。
そこで岡本太郎に「いいよ」と言われる前に、
誰かに絵を褒められたことは、あったんですか?
大西 ええっと、そうですね。
小学校6年のときに、
写生大会がありまして。
ま、写生大会いうても、
校舎の屋上からみえるものを、
つまり、まあ、ビルを描いたり
するんですけれども。
そこで僕は、なんやしらんけど、
ゾウを描いたんですよ。
糸井 写生大会なのに(笑)。
大西 ビル描かずに(笑)。
「まーた大西、アホなことしてるぞ!」
「先生、ちゃうことしてるわ、大西!」
って、みんなから言われたんです。
そしたら先生が、僕の絵をみに来て、
「あ、いい、いい。
 あの、そのまま、
 気にしないで描いたらいいから
って、言ってくれた。
糸井 へええ!
ほんとは、ゾウは、いないけど(笑)。
大西 写生だけども(笑)。
気にしなくていい、
そのまま描いたらいい、
どんなんができるか楽しみや、って。
糸井 いいね。
大西 で、ホームルームのときに、
「大西君はこんなんができました」
って、僕の絵だけを、
みんなの前でみせてくれたんです。
先生に褒められたことって
それ1回だけですね。
糸井 うれしかっただろうね。
大西 うれしかってね。
糸井 そのときから
自分は絵が得意なのかもしれない、
という意識が芽生えたんですか?
大西 得意とかいうよりも、
先生に褒められたことが、
自分にとって、ものすごいことで‥‥。
糸井 絵だけではなく、
先生から褒められることそのものが
はじめての経験だったんだ?
大西 そうなんです。
でも、そっから自分の
勘違いがはじまってしまうんですけど(笑)。
「人とちゃうことしたら褒められんねや」思て。
糸井 なにしろ、ビルをみてゾウを描いたんだからね!
そのやり方で、
褒められるところへいけた?
大西 「人と違うことしたら褒められる、褒められる」
思たら‥‥これがまた、違うたんですわ。
人とちゃうことしたら、
どんどん怒られていく、
どんどんどんどん自分のドツボにはまっていく。
それからは、そういう失敗を
繰り返していくんですけども。
糸井 いつも、
褒められたかったんだよね。
大西 褒められたかったですよ、先生に、
常に。

(つづきます!)

2004-02-03-TUE

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