糸井 |
大西さんは、
岡本太郎さんとお会いになったことは
あるんですか? |
大西 |
いえ、お会いしたことは、じつは、ないんです。
僕が画家になろうと思ったときは
ご存命中だったんですけれども‥‥。
でも僕は、太郎先生から、
手紙をいただいたことがあって。 |
糸井 |
うん。 |
大西 |
10年以上前になりますけども、
あるテレビ番組で、絵を描いたんですよ。
それは、僕にとっては、
学校の授業以外で、
大人になってから
はじめて描いた絵だったんです。 |
糸井 |
まだ本職じゃなかったときに
番組で絵を描いたんですね。 |
大西 |
はい。芸能人が何人かで
絵を描く企画だったんです。
タレントさんとか、芸人さんとか、
絵がうまい方が多いので。
なかでも僕のは、
ただの「お笑い」としての、
「オチ」で使う絵でした。 |
糸井 |
うん、うん。 |
大西 |
「オチ」で使うつもりの絵を描いたのに、
番組では意外と評判がよかったんですよ。
それだけでも驚いていたのに、
そしたらなんと、
番組をみた太郎先生が、
手紙をくれたんです。
僕の絵のことを、
「いいよ」って、書いてあった。 |
糸井 |
「まさか」と思ったでしょう! |
大西 |
びっくりしましたよ。
テレビ番組といえども、
太郎先生がみてくれてるなんて、
まず、思てないし。
僕の絵は、番組の構成では
誰かにつき返されて終わりやろな、
ぐらいなもんですよ。
でも、それでも当たり前ですよね、
芸術家でもなんでもないし。 |
糸井 |
そもそも「オチ」なんだし(笑)。 |
大西 |
もう、世のなかが喜んでくれたらええわ、って
いうだけのもんですから。
誰かの目にとまったり、
気に入ってくれる人がいるなんて
意識してなかったので。 |
糸井 |
それを、太郎さんがみて。 |
大西 |
そう、手紙をくれて‥‥。
「絵、いいよ。
キャンバスからはみ出しなさい」
って、書いてあった。 |
糸井 |
ああ、太郎さんの声が
聞こえるようだねぇ。 |
大西 |
もう、それから
「キャンバスをはみ出せ」という言葉が
すごい、気になり出したんですよ。
なんやろう「はみ出せ」って、なんやろう。
|
糸井 |
はああ、すごい言葉だね。
そこで岡本太郎に「いいよ」と言われる前に、
誰かに絵を褒められたことは、あったんですか? |
大西 |
ええっと、そうですね。
小学校6年のときに、
写生大会がありまして。
ま、写生大会いうても、
校舎の屋上からみえるものを、
つまり、まあ、ビルを描いたり
するんですけれども。
そこで僕は、なんやしらんけど、
ゾウを描いたんですよ。 |
糸井 |
写生大会なのに(笑)。 |
大西 |
ビル描かずに(笑)。
「まーた大西、アホなことしてるぞ!」
「先生、ちゃうことしてるわ、大西!」
って、みんなから言われたんです。
そしたら先生が、僕の絵をみに来て、
「あ、いい、いい。
あの、そのまま、
気にしないで描いたらいいから」
って、言ってくれた。 |
糸井 |
へええ!
ほんとは、ゾウは、いないけど(笑)。 |
大西 |
写生だけども(笑)。
気にしなくていい、
そのまま描いたらいい、
どんなんができるか楽しみや、って。 |
糸井 |
いいね。 |
大西 |
で、ホームルームのときに、
「大西君はこんなんができました」
って、僕の絵だけを、
みんなの前でみせてくれたんです。
先生に褒められたことって
それ1回だけですね。 |
糸井 |
うれしかっただろうね。 |
大西 |
うれしかってね。 |
糸井 |
そのときから
自分は絵が得意なのかもしれない、
という意識が芽生えたんですか? |
大西 |
得意とかいうよりも、
先生に褒められたことが、
自分にとって、ものすごいことで‥‥。 |
糸井 |
絵だけではなく、
先生から褒められることそのものが
はじめての経験だったんだ? |
大西 |
そうなんです。
でも、そっから自分の
勘違いがはじまってしまうんですけど(笑)。
「人とちゃうことしたら褒められんねや」思て。 |
糸井 |
なにしろ、ビルをみてゾウを描いたんだからね!
そのやり方で、
褒められるところへいけた? |
大西 |
「人と違うことしたら褒められる、褒められる」
思たら‥‥これがまた、違うたんですわ。
人とちゃうことしたら、
どんどん怒られていく、
どんどんどんどん自分のドツボにはまっていく。
それからは、そういう失敗を
繰り返していくんですけども。 |
糸井 |
いつも、
褒められたかったんだよね。 |
大西 |
褒められたかったですよ、先生に、
常に。
(つづきます!)
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