第5回 おもしろ主義の、覚悟。

一番目、二番目は相手も気ばかりはやって
まだ調子が出ず、ジャストミートしない。
三番目、そろそろ調子が整ってきて、
四番目が一番強烈だ。
後の方になってくると、
殴るほうもだんだんと腕が疲れてくる。
岡本太郎はその四番目がくるのを待つ。
『芸術は爆発だ! 岡本太郎痛快語録』(小学館)より

敏子 太郎さんが中学生のころのエピソードなんだけど、
太郎さんは本を
階段で足を上にして寝そべって
読むんだって(笑)。
「頭を使って本を読んでるんだから、
 頭に血がくるほうがいい」
と言って。
糸井 ハハハ。
敏子 いつもそうやって本読んでたって、
みんな言います。
実践してるのよ。
自分がそれほど変わってると思ってないのよね。
糸井 その、変種のような人が、
自然さのようなものを獲得してったわけですよね。
いま、時代は、当時以上に、
頭でっかちだらけになっちゃった。
敏子 そうね。
糸井 いまの時代は、みんな、
「若いときの岡本太郎」みたいになってる。
太郎さんは、それが嫌だから出たんだよね。
そして、死んだときがいちばん
「子ども」になってたんじゃないかな(笑)。
敏子 そうよ。
年を取るっていうのは、
だんだん枯れることじゃないんだって。
どんどんどんどん膨らんでいって、
膨らみきったところで、ドッと倒れるのが死なの。
実際、そのとおりでしたよ。
糸井 岡本太郎は、
いわゆる健康ですくすく育ったというのとは
実は違うから、
辛かったんじゃないかな、って想像するんだけど、
そういうかんじがないのが不思議なんですよ。
敏子 ないの。全然ないですね。
糸井 それは何なんですかねぇ。
強いんですかね? やっぱり。
敏子 あの方はなにせ、
留学先のパリから日本へ帰ってきて、
軍隊に入れられたんですから、
それこそ、辛かったと思うわよ。
フランスは自由主義国で、
日本はドイツと組んでるから敵国でしょ?
自由主義って、犯罪人よりもっと悪いのよ。
そんな時代にアバンギャルドなんて言ったら、
それこそ、極悪非道みたいなもんですよ。
糸井 国賊ですね。
敏子 そう、国賊よ。
滝口修造みたいな人でさえ捕まったんですからね。
でも、岡本太郎は、
捕まるよりもっと酷いところに
放り込まれたんだよ、って言ってました。
軍隊より監獄のほうがずっと楽だったよ、と。
おまえなぞ根性をたたき直してやらねばならぬ、
なんて手ぐすね引いてるなかに
放り込まれたんだから、
そりゃもう、ひどかったでしょうね。
糸井 そういう悲鳴みたいなものを
ぜんぜん残さない人ですね。
敏子 うん。あんまり書いてもいませんよ。
ただね、「四番目主義」っていうのを、
ひとつ書いてるだけね。
廊下に並んで上官に順番に殴られるんだけど、
四番目がいちばん痛いんだって。
自分はすすんで四番目に並んでいた
というのを書いてて。
それも、ほんとに悲惨な話なんだけど、
なんかカラッとしてて、
ユーモラスに書いてるのよ。

糸井 やっぱ、根っこがユーモリストというか、
おもしろ主義なところがあります(笑)。
敏子 それはあるのね。
それを読んだ人が
「僕も戦争中のことを思い出しましたよ。
 岡本先生もたいへんな目に
 遭ってらっしゃるんですね。いやー、ケラケラ」
なんて笑っちゃうのよ。
糸井 それって、強さなんですかねぇ。
敏子 違う。負けないぞっていう意志ですね。
糸井 でも、意志って脆いじゃないですか、ふつう。
敏子 でも、この人は覚悟してるの。
いつも確信犯なのよ。
糸井 うん‥‥なんかね、意志と呼ぶには、
しなやかというか。
敏子 そうね、突っ張ってないのよね。

(火曜に、つづきます!)

2003-11-07-FRI

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