第8回 どうしてTAROはテレビに出たか。

誤解される人の姿は美しい。
誤解のカタマリのような人間こそ
本当だと思う。
『一平かの子』(チクマ秀版社)より

糸井 太郎さんについて、
ひとつ思ったことがあるんです。
岡本太郎って、平気で
メディアに、
壊れるまでに出た人でしたよね。
敏子 ほんとは、そんなでもないんだけど。
でも平気でしたね。
糸井 相手の言うように演じてあげて、
その上に乗っかって
何かを伝えようとしていた。
だから、ある意味では
バカにされた面がありましたよね。
敏子 うん、そう、そう。
糸井 僕、気づいたんですけれども、
その「バカにされる」ということが
「あとまで残る人」の特徴なような
気がするんですよ。
敏子 ああ、そうなのかしら。
糸井 いまになってもみんな
「岡本太郎はすごい」と言いますけど、
その土台って、
あそこで一回泥まみれになったこと
なんじゃないでしょうか。
あれは、太郎さんが
自分でそうしたようなところがありますよね。
敏子 そうですよ。
出なくったって
いいんですから。
糸井 自分をお笑い化させちゃったおかげで、
いま、こんなに力強く立ち上がってるんです。
例えば、選挙に出た人はたくさんいるけど、
「票を取った、選挙を通過した政治家は強い」
って、言われますよね。
敏子 ああ。
それが人にまみれるってことね。
糸井 あれと同じようなもんで、
ロックスターなんかでも、
バカにされたことのない人って、
あとに残ってないです。
尊敬されたままの人って、ぜんぶ小粒なんです。
敏子 そうね‥‥、それで終わると
たしかに弱いわね。
糸井 岡本太郎については、
うちの子どもも小さいときに、
「ンッ」とやって、ものまねした。
敏子 みんなやったのよ(笑)。
糸井 その材料になってる岡本太郎って、
本人とは別なものなんだろうけど、
小さな子どもに
そこまでされるっていうことが
もう、すごいね。
敏子 でもね、それは
岡本太郎のメッセージなの。
糸井 望むところなんですね(笑)。
敏子 でもじつは、
テレビがあんなに力を持ってるって
知らなかったのよ。
糸井 ああ、そうなんだ(笑)!
敏子 試験放送のときから出てるんだけど、
なんとも思ってなかったのよ。
家にはずっとテレビはなかったし。
糸井 そうなんですか。
敏子 かなりあとになってから、テレビ局の人に
「先生、どのくらいの人が
 テレビをみてると思いますか?」
って、訊かれたことがあるの。
「(当時の)後楽園球場がいっぱいになる
 ぐらいかな?」
って、答えてた。
「とんでもない! そんなもんじゃありませんよ」
って驚かれていたけど、
彼のイメージとしてはそのぐらい。
糸井 そのサイズをイメージして
出ていたんでしょうね。
敏子 まあ、どうであれ、
言われれば何でもやっちゃったし。
糸井 でも、そうなったのは、運ですね。
太郎さんは、やっぱり、
引きが強いかんじがする。
考えてみれば、岡本太郎は
学者であり先生であり、血筋はいいわ、
スポンサーだっていつだって探せる、
そんな状態にいた。
周りから見れば、あらゆることが、
ぜんぶできる人なんですよ。
その人が、一回、
子どものギャグのネタになった。
そのところがなかったら、って思ったら、
嫌です、やっぱ。感じ悪いもん。
敏子 はは、そうね。
そう思ってやったわけでも
ないんでしょうけど。
糸井 だから、それは運なんですよ。
僕が知ってる人でいうと、
矢沢永吉という人が、
いわゆる「バカにされる人」なんですよ。
敏子 あ、そうかしら? バカに?
糸井 みんなが矢沢永吉の真似をして、
おもしろい気分になるわけです。
敏子 そうか。
糸井 だけど、その本人が出てきたら
みんなは息を飲むんです。
バカにしてなかったはずの、
それ以外の誰かさんには到底かなわない
「なにか」が、
その人にはあるんです。
敏子 なるほどね。
糸井 太郎さんも、
一回泥まみれになった時期があったおかげで、
いまの若い人たちが
岡本太郎をおもしろがってるんです。
みんなが話すきっかけだって、
「テレビでバカなことしてたの、知ってるよなぁ」
とかでしょう。
敏子 そうですね。
みんな知ってるんですもの。

(つづきます!)

2003-11-18-TUE

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