第11回 死んでなにが悪い!
「ゲストにいろいろな有名人の方が
やってきてくれましたが、
岡本太郎さんほど印象的だった方はいません。
岡本太郎さんは御柱祭の神様です」
『芸術は爆発だ! 岡本太郎痛快語録』(小学館)より
|
|
|
敏子 |
日本史の教科書のいちばん最初には、
縄文土器の写真が載っているのが
ふつうだと思われているけど、
あれは、岡本太郎以前には、なかったことなのよ。
岡本太郎は戦後、縄文式土器を博物館でみて、
そのすばらしさを世に問うたの。 |
糸井 |
縄文の普及をしたんですよね。 |
敏子 |
縄文の丸木舟を出土した、
福井県の三方っていうところがあるんです。
そこが丸木舟を復元したときに、
「縄文人といえば代表は岡本太郎さんですから、
舟長(ふなおさ)になってください」
って言ってきたの。
そしたら喜んじゃって
「よしよし乗る!」って。 |
糸井 |
すーぐ乗る。 |
敏子 |
向こうの人は
まさか乗ってくれるとは思わなかったらしい。
「縄文」って言ったら、
目の色が変わったんだって(笑)。
でも、湖の丸木舟だから、
カヌーみたいに浅いのよ。
じつは岡本太郎さんってね、
正座ができないの。
あぐらをかいてもひっくり返っちゃう。 |
糸井 |
そうなんですか。 |
敏子 |
お座敷の宴会では、
座布団を重ねて、ドッカと腰を下ろすの。
みんなに「岡本太郎さんの牢名主スタイル」
って言われてた。
その丸木舟に乗るときも、
「牢名主」じゃなきゃだめだってことを
すっかり忘れていい気になって、
「よしよし」なんて言っちゃった。
舟が浅いから、お尻が船端より高くなっちゃう。
週刊誌やテレビやらが
ひっくり返るところを撮ろうって、
手ぐすね引いて待ちかまえてんのよね(笑)。 |
糸井 |
重心が変わりますからね。 |
敏子 |
困ったね、こりゃ危ないな、
と思ったんだけども
そこまで来たらもうしょうがない。
だからもう、天に祈りましたよ。
舟にはカヌーの名人が乗ってくれて、
うまく漕ぎだした。ホッとしました。
でもあなた、帰ってこなきゃいけないことに
気がつかなかったのねぇ。 |
糸井 |
行くだけ行って(笑)。
僕は舟は好きですから
わかりますけども。 |
敏子 |
我々、ぜんぜん思わなかったの。 |
糸井 |
帰りが大変なんですよ。 |
敏子 |
舟をつけるのが大変でしょ?
絶対にひっくり返ると思ったけど、
なんとか無事に帰りました。
その、カヌーの名人がうまかった。 |
糸井 |
太郎さんって、
なんでもやっちゃうんだよね。
諏訪の御柱祭もすごかったって。 |
敏子 |
うふふ。そうなのよ。
御柱祭の丸太を山から引っ張ってくるあいだ、
氏子の人たちと一緒になって、
ワイワイとオンベを振り回して喜んでね。
みんながご飯を食べるとこで、
いっしょにお酒飲んでるから、危ないのよ。
木落しっていう
30何度の急斜面にさしかかったとき、
丸太に乗って降りるって言い出したんですよ。
御柱にまたがっちゃってね。
もうすっかりその気なの。 |
糸井 |
おもしろいね。 |
敏子 |
みんなが
「先生やめてください!
それだけはやめてください、死にますから!」
って、降ろそうとするの。そしたら、
「死んでなにが悪い? 祭りだろ!」
って、怒ってね。 |
糸井 |
主役本人が言うんだからね。
ほんと、おっしゃるとおりなんだけど。 |
敏子 |
無理に引きずり下ろされちゃったから
「もう帰る!」って、カリカリに怒ってね。
「みなとや」っていう、
下諏訪のお宿にいつも泊まるんですけど、
そこのおかみさんが、
「あの晩、先生は
ひと晩中怒ってらっしゃいましたよ」
って、いまでもよく笑ってます。 |
糸井 |
その話ね、
死ぬかもしれない本人が
「本人」だと思ってないし、
「誰か」だとも思ってない。
自他の区別がないんですよ、
あの人の発言って、いつも。 |
敏子 |
ほんと、そうですね。 |
糸井 |
そういう人って、
クールで寂しい人になっちゃうんだと思ったら、
逆に出るからね。
好かれてるし、敏子さんに(笑)。
ほんとに、冷たーい人と紙一重ですね、
この、この自分の「なさ」は。 |
敏子 |
‥‥ほんとに、そうね。突っ放してるし。
「自分だ」なんて気持ちは
これっぽっちも、ないのよ。 |
糸井 |
ないですね。 |
敏子 |
うん。ない。ほんとに。
でも、あったかい人なのよ。
というより、熱い。
激情だしね。
(つづきます!)
|