糸井 |
ところで、伊賀くんの写真集『FIrst time』の
モデルになっている人たちは、
有名無名入り交じっているんですよね。 |
伊賀 |
そうですね。
そういうことが関係ないところで
やりたかったんです。
有名無名は関係なく、
やっぱ、おもしろいヤツはおもしろいし、
つまんないヤツはつまんない。 |
秋山 |
これ見てると、
「どっかで会ったっけなぁ」
という人がけっこういる。 |
伊賀 |
俳優からモデルから、デザイナーやら学生やら
いろんな人が出ていますから、
秋山さんが「あれ?」と思われるような
業界の人も混じっているかもしれませんね。
基本的には、ほんとに
自分に近いところにいる人たちで撮ってるんです。
撮影してるときに
「誰かおもしろいヤツ紹介して」って言って、
「あ、それなら、この子はすごいヤバイよ」
とか、みんなが言ってくる。 |
糸井 |
そうか、いろんな出会いがあって。 |
伊賀 |
僕は基本的に、いつもこんな格好をして、
こんな雰囲気の音楽を聴いている。
たとえばいまなら、ヒップホップの人なんかとは、
あまり交流がなかったりするんですけど、
「そう言うけど、アイツはかっこいいぜ」
と、人から聞いて、会ってみると、
すげえいい人だったりして。
僕は10代のとき、
音楽がすごく好きだったんですけど、
10代だとね、
格好が違うだけでケンカの種に
なっちゃうじゃないですか。 |
糸井 |
アハハハ、なる、なる! |
伊賀 |
俺はパンクで、お前はモッズだから、
なんかすごいムカツク!とか(笑)。
だけどこの年になって、
お互いの音楽のよさもそれなりに
わかるようになったし。
腹を割って話をすると、
意外と、どころか、すごいいい人だな、
と思うことがくりかえしあった。
そんなとき、ちょうどMOTOKOさんから
「写真集、やってみない?」って振られて。 |
糸井 |
なるほどね。それで‥‥結論として‥‥、
これは、スタイリングは
なさってるんですか? |
伊賀 |
全く、一切してないです。 |
秋山 |
ふふふふ。 |
糸井 |
やや、やっぱり。 |
伊賀 |
男っていうのは、
いかに中身が「ある」か、
というのが、ほんとに大事なことで。 |
糸井 |
うん、うん。 |
伊賀 |
ほんとによく言われることなんですけど、
かっこいいやつは何を着ててもかっこいい。
でもね、実際にはそういう人は
たくさんは、目にすることはないんです。
正直、自分がいま、
ファッション業界で仕事をしていて、
感じることがあります。
男の子のスタイリングで、
ルイ・ヴィトンとかディオール・オムとか、
ああいう高尚な服になると、
雑誌で見る写真は、モデルはだいたい外国人。
そして全身すべて同じブランドを着てる。
僕ら以降の、10代の子どもたちは
そんなのは、きっと、
かっこいいと思わないですよ。 |
糸井 |
そういえば、子どもに「ひとそろえ」で
何か買ったとしても、
あまり喜ばれないもんなぁ。 |
伊賀 |
たぶん「すごいいい服」はすごいいい服なんで、
欲しいかもしんないです。
でも、全身でそろえて着るっていうのは、
僕ら以降の世代にはまず、あり得ないんです。
「このスタイリングは、
日本の男の子たちに見せるものなのに、
なんだかそういうのがまかり通ってるな」
って、思って。すごい悲しいな、と。 |
糸井 |
そこのフラストレーションも
あったんですね。 |
伊賀 |
だから敢えてこういうことをやってみたかった、
ってのは、あります。 |
秋山 |
なるほどねぇ。 |
伊賀 |
ほんとにいい写真で、かっこいいヤツが写ってたら、
みんなその服が欲しくなるだろうし。
30万円のジャケットに
800円のタンクトップを合わせて、
毎日着ているリーバイスを履く、
それこそが「あり得る姿」なんですよね。
そういう人が街を歩いてるのを見たとき、
「あー、すげぇかっこいいな」
「お金貯めてあのジャケットだけ欲しいな」
と、そういうかんじになるよな、と思って。
だから、この写真集は一切、
とりあえずスタイリングしないで
やってみたんです。
スタイリストっていうのは、
服をそろえるだけじゃなく、
「空気」をつくるのも
その役割なんだと思うんですよ。 |
秋山 |
スタイリストって、
すごいおもしろい職業だなと思ってて。
知りあいの某スタイリストの人が、
家を買うときに、
銀行でローンを組もうとして、困ったんだって。 |
糸井 |
スタイリストって職業で。 |
秋山 |
そう。スタイリストという職業を、
何回説明しても銀行はわかってくれない。
「服をデザインしたり
つくったりするんじゃなくて、
借りてきて着せたりするだけなのに、
どうしてこんなに収入がいいんですか?」
って言われて(笑)。 |
糸井 |
そうだね。スタイリストって、いまは、
スタイリストというよりも、
セミ・プロデューサーみたいな役を
することが多いよね。 |
伊賀 |
はい。 |
糸井 |
たとえば芸能人と一緒に買い物に行って
レコードを勧めたりする。
そうするともう、
「個人」のように見えることの影に、
実はスタイリストがいる、
ということになってくる。
スタイリストの仕事って、昔とはもう違いますよ。
「服」だけではないですよね。 |
伊賀 |
そうですね。
僕は、高校1年のときに、雑誌の
「THE FACE」かなにかで、
ジュディ・ブレイムのページを見て、
スタイリストになろうと思ったんです。
そのファッションページが、すごいかっこよくて。
「こういうものをつくりたいけど、
どうしていいかわからないな」
と思ってクレジットを見てみると、
いろんな人たちが関わって
ページをつくっているのがわかった。
フォトグラファーは、まあ、たぶん無理だな、
ヘアメイクも、たぶん無理だな、
モデルは間違いなく無理だし。 |
糸井 |
無理じゃないよ(笑)。 |
伊賀 |
それで、最後に残ったのが
「ファッション・エディター」。
何だろう?と思って辞書で引いたら、
あ、編集って意味なんだ、
じゃ、全体のこと、決めていいんだ、
そしたら俺はこれをやりたいな、と思った。
だから、楽しそうなことがあったときに
自分が関わるとしたら
「服」をいちおう持っていく、みたいなかんじで。
いまもそのまんまですよ。
いちおう「服」を持ってくけど。 |
糸井 |
うん。「服」って、
ツールにしかすぎないんだよね。
そういう時代が、いつからか来てるんだよ。 |
伊賀 |
僕は、メンズのスタイリングをするときは、
とにかく「おもしろい」ヤツに着てもらう。
そのほうが、
写真に写したときに「すごい」んです。
逆に「もうモデルなんかいつやめてもいい」
ぐらいのヤツのほうが、写真の仕上がりは、
ぜんぜんおもしろいですね。 |
糸井 |
うーん。なるほどね。 |
伊賀 |
顔だけきれいなヤツを撮っても、
きれいなんですけど‥‥。 |
秋山 |
ダメなんですよね。
顔のいいだけの人、
つまんないよね。 |
伊賀 |
ええ。
リズム感があんまり出ないなって、思う。 |
糸井 |
リズム感(笑)!
(つづきます!)
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