■12月5日■
Tシャツ鼎談第6回
横をみていないものを、みたい。



伊賀 こないだ、電気屋さんに行って
びっくりしたんですけど、
最初から「裏技」がついているゲームソフトが
売っているんですよ。
メモリーカードを入れると、
いきなり「最強」になるのがあるんです。
糸井 そうなの?
伊賀 みていたら、子どもがお父さんと、
ソフトと「裏技」のカードを
買ってった。
最初から最強だったら、
なんもおもしろくないと思うんですけど。
糸井 ああ‥‥みんな、
プロセスは嫌いなんだね。
伊賀 ゲームって、偶然や自分の知恵で
裏技や、いろんな方法を発見しますよね。
そのたいせいつな「遊び心」のところを、
最初から「無敵」って、どういうことなんだ?
糸井 でも、伊賀くんのスタイリストという仕事は、
「無敵のもの」をそろえたって、
仕事になっちゃいますよね。
伊賀 そうですね。確かに。
糸井 無敵願望って、ものすごい強いよな、若い子は。
無敵のはやりものを買ってきて、
あいつにこれをみせるとか。
伊賀 そうですね。
傷つきたくないですからね、みんな。
糸井 岡本太郎がいま、
みんなに興味をもたれている理由って
「横」をみてないからだと思うんだ。
はやってるものを追いかけてる人たちって、
ほんとうのところは、くたびれ果ててるんです。
「このことを知ってるか知らないか」
で、命がけ。
そこに疲れた人たちが、
「そんなに横と比べてもしょうがねぇだろう」と
思いはじめている。
伊賀 そうですね。
「負けるならとことん負けろ」とか、
まわりは岡本太郎のように
ズバッと言ってくれないから。
秋山 横みてちゃ、辛いよね。
糸井 でも、スタイリストとしては、
「ちょっと余計に知ってる」というのは、
商売にはなるわけでしょう?
伊賀 はい。
糸井 そこ、困るね。
伊賀 そうですね。でも、逆に
あんまりそれを「売り」にしてないですね。
どっちかっていうと、
とにかく「できあがり」が
かっこよければいいって思います。
服だけに目がいくよりは、
「うわっ、なんだこの写真は!」って
写真で手がとまってほしい。
雰囲気や、ポーズや、ぜんぶひっくるめて
「なんだ、これは!」みたいな。
糸井 なるほどね。知識だけだと
素人の若い子なんかのほうが、
あったりするだろうから。
伊賀 デザイナーの名前とか、
いっぱい知ってる子、いると思いますよ。
糸井 こないだ夜中にみたアメリカ映画で
ブランドに詳しすぎる男が出てきたんですよ。
その男、女の子の靴をみたときに、
さっとブランドを言いあてるんだけど、
「きっとゲイの子だよ」
というくだりがあったわけ。
だから、ファッションに詳しいんだ、と。
女の靴みて、たとえば
「それはフェラガモですね」
と言える男って、
日本には山ほどいるじゃない?
伊賀 そうですね。
糸井 そっちのほうがほんとは、
不思議なことなんじゃないかって思うね。
秋山 その映画、どんな映画だったんですか?
糸井 B級の映画でね、
ボインの金髪の子が
大学に入る話。
秋山 ぜんっぜんわかんないけど(笑)。
糸井 要するに、ボインの女の子が
大学のキャンパスで、成績良くなってくのよ。
そこにブランドの話が出てくるんだけど。
秋山 ‥‥糸井さんって、すごいなと思うのは、
ほんと忙しくて、で、
本も、もんのすごい読んでて。
でもって、
そういう映画もみてるっていうのが(笑)。
糸井 ぬはははは!
それはね、俺の1ジャンルなのよ。
もうほんっとに疲れてて、
まともなものをみられないときってあるじゃない?
伊賀 はい。
糸井 そういうとき用のビデオを買うのよ。
いま言ったのは「キューティー・ブロンド」
っていう映画なんだけど(笑)。
秋山 なんか、聞いたことある。
糸井 ほかにも、バルタン星人みたいなのが
出てきたりする、
わっけのわかんないものがね、
1,500円ぐらいで売ってるんだよ。
で、それ買って。
秋山 買うんだ(笑)。
糸井 映画を1本みたあと、もう1本、
寝る前に眠いけどみられる映画というと、
そういうのがいちばんなんだよ。
いちばんムダなのは、
人のあげあしをとったりしてるものを
読んだりみたりしてる時間。
みて下さい、楽しんで下さい、ってものは、
C級でもB級でも、もう、みんなOKです。
だから、たとえば、
週刊誌を読む時間がいちばんムダなんですよ。
秋山 あ、今日、買っちゃった。
糸井 アッキィ、意外とね、そういうの、
いくんだよね。
秋山 読んじゃうんですよね〜。
糸井 俺、「キューティー・ブロンド」はみてても、
そっちはいかないんですよ。
で、そういうつまんない映画のなかに
大傑作があるのよ、
「ビートルジュース」みたいな。
伊賀 あ! 俺、いま、「ビートルジュース」と
言おうと思ってたんですよ!
糸井 最高でしょ?
伊賀 あと「グーニーズ」も
すっごい好きなんです。
ほんっと、どうでもいい、みたいな(笑)。
糸井 「バック・トゥー・ザ・フューチャー」だって、
ギリギリですよね。
秋山 「パルプ・フィクション」とかも、
そうかな?
糸井 そうだよ。
秋山 あの組み立て方って、新鮮でしたよね。
あと、「ラン・ローラ・ラン」も、
好きだったですけど。
伊賀 いいっすね。しかも短いですし。
俺、けっこう昔の仁侠映画とかも‥‥。
糸井 仁侠映画もいいよ。
昔は5本立てとかあったんだよ。
伊賀 マジですか?!
糸井 9時ぐらいから、並んで入って、
も、ずーっと高倉健。
ほんっとに映画館で、
みんなが声を出すの。あぶねぇ!とか言って。
伊賀 いい時代だなぁ‥‥。
糸井 あと、4人でさ、なんか、
悪いやつが出てきて裏切るやつ、なんだっけな?
「レザボア・ドッグス」!
伊賀 「レザボア・ドッグス」も最高です。
糸井 あのあたりの、
B級のいい映画っていうのは、
ほんとにいいよなぁ。
横にある、「現在はやってる映画」と、
自分たちとを、比べてないんだよ。
「俺、あんまりよく知らないんだよね」
と言って、つくってるような。
実は「よく知ってるから」つくってるんだよね。
‥‥そっか、伊賀くんは、
比べてないものをみたいんだ。
伊賀 そうですね。
隣がどうだから、とか、
そういうのじゃないもののほうが、
人生は楽しいんだという気がします。
超ひよっ子の俺がこんなこと言って
申し訳ないんだけど(笑)。

(つづきます!)

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