糸井 | じゃあ、最後に、 「黄昏」っていうことばでまとめてみようかな。 伸坊は、どう? 黄昏って。 |
南 | そういうの、いつもなにも考えてないな。 |
赤瀬川 | (笑) |
糸井 | 伸坊は、空を行く、鳥のように‥‥。 |
南 | そうじゃなくて(笑)。 考えてないんですよね。 |
糸井 | 怖がったりしない? |
南 | いや、怖がるよ。 スカイダイビングなんて絶対しないよ。 |
糸井 | 責めてる(笑)? |
南 | いや、責めてるんじゃなくて。 |
糸井 | でも、ぼくはやっぱり 自分は怖がりだと思いますよ。 |
赤瀬川 | あ、そう。 |
糸井 | 黄昏がくると、 「ああ、終わりがあるんだ」 みたいな気持ちになるし。 |
赤瀬川 | うん、うん。 |
糸井 | 終わりですよっていう合図。 夕暮れの町に 『新世界』が流れたりするじゃないですか。 『蛍の光』だの、「からすといっしょに」だの。 ああ、そうか、ずっとじゃないな、 って思うんですよね。 子どもをやめなさいって言われたときみたいなさ。 |
赤瀬川 | あるねぇ。 そういう気持ちでいえば、 ぼくは学生証がなくなったとき。 |
糸井 | うわ。 |
赤瀬川 | 大学なんて行ってもしょうがないや って思っていたけど、 ついに学生証の期限が切れたってとき、 やっぱり寂しかったねえ。 |
糸井 | それが黄昏のひとつの象徴。 |
赤瀬川 | そうですね。 しょうがない学生証だけど、それでも、 学生証が終わるというのはね、ちょっと。 |
糸井 | 二十歳くらいのときって 強がってても弱いから、なんでも怖いですよね。 |
赤瀬川 | そうね。どっかで甘えてるからね。 もう甘えられないんだっていうのが、 寂しかったのかな。 |
糸井 | ずぅっと前にみうらじゅんとかと、 廃墟に遊びに行ったことがあって、 大勢で寝泊りしてキャンプして。 |
赤瀬川 | 廃墟って怖いんだよね。 |
糸井 | 怖いですね。 それは大勢で行ったし、 たえず誰か起きてて、たのしかったんですよ。 そのときにね、子ども連れで行ったんですけど、 小学生の3、4年のころだったかな。 バスでみんなで帰ってきて、 さあみんな解散だっていう直前になって、 子どもがぼろぼろ泣き出したんですよ。 「どうしたんだ」って訊いたら、 「わからない」って言うんです。 つまり、別れちゃうとか夕方とか、 ぜんぶいっしょに来ちゃったんだと思う。 |
赤瀬川 | ふうん。 |
糸井 | あの感じは、オレ、親だからというのもあるけど、 そうだろうなと思った。 なにかが終わっていく、別れていく。 それがすべてです。ぼくの悲しさの。 簡単なことばで言っちゃうと、 「祭りのあと」なんでしょうね。 |
南 | ああ、それで思い出した。 オレは、子どものころ、 おふくろが「祭りの歌」を歌い出すと、 あわててはじめのところでやめさせてたなぁ。 祭りの太鼓の音が鳴って それに誘われて行くと もう祭りが終わってしまって何もなくなってる。 そういう歌がある。 なんでそういう寂しい歌を歌うの? これから寝ようというときに? っていう気持ちだったんだよね。 なんていう歌だか知らないんだけど。 だから、子どものときから、 同じようなことをしてるんだ。 寂しくなるから、考えるのをやめてしまう。 |
糸井 | ぼくはいま、そういう歌をつくりたいなぁ。 みんなにこの寂しさを味わわせてやろう、 というような気持ちが、 いまのぼくの仕事のなかにはありますよ。 |
南 | ああ、そう。 |
糸井 | 伸坊のなかに、夕暮れはない。 |
南 | うーん‥‥。 夕暮れの景色はありますけどね。 夕焼けとか。 |
赤瀬川 | 夕焼けの景色は好きだね。 ものすごい鮮やかなんですよ。 |
糸井 | 下からの光のきれいさっていうか、 穏やかさってありますよね。 |
赤瀬川 | ちょっと赤みがさして、 色が上気してるというか‥‥。 あれはほんとに好きですね。 |
糸井 | 悲しくなったりはしない。 |
赤瀬川 | 色そのものが好きだからね。 |
南 | うーん‥‥黄昏ねぇ‥‥。 考えてないですね。 |
赤瀬川 | (笑) |
糸井 | 伸坊とぼくが、 友だちでもこんなに違うというのは 愉快ですよね。 |
赤瀬川 | 話は合うくせにね。 |
南 | (笑) |
糸井 | おまえ、そんなのダメだよ っていう関係じゃないんですよね。 「悲しくなれよ、おまえ」とも思わないし。 その違いを知る喜びというのは スカイダイビングを やってみたくなる気持ちと同じなんですよ。 友だちでもこんなに違うという発見が、 空から飛び降りて、 わーっと思うのと同じなんですよ。 |
南 | なるほどね。好奇心だ。 |
糸井 | 好奇心だね、言ってみれば。 |
赤瀬川 | 好奇心だよね。 |
糸井 | さて、ぼちぼち終わりにしましょうか。 ‥‥日も暮れてきたし。 |
南 | うん。 |
赤瀬川 | はい。 |
糸井 | どうもありがとうございました。 |
(終) |