糸井 |
ここ半年くらいで
帽子をよくかぶるようになったんだけどね。 |
南 |
うん。 |
糸井 |
なかでもこれはよくかぶる帽子で、
ずっとかぶってるうちに、
ここのところに
「かぎ裂き」ができちゃったんだ。
それが、妙にうれしくてね。
帽子を長くかぶった経験が
なかったからさ、いままで。 |
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南 |
ああ、そういえば、
あんまりかぶってなかったね。 |
糸井 |
そうそう。
かぶってるうちに、かぎ裂きができた、
なんてことが妙に懐かしくて。 |
南 |
どこ? |
糸井 |
ほら、ここに、かぎ裂きが。 |
南 |
ん? かぎ裂き?
それは、かぎ裂きには見えないよ。 |
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糸井 |
え、そうなの? |
南 |
うん。細かいことを言うようですけど、
これは、かぎ裂きではないですね。 |
糸井 |
あ、オレ、かんちがいしてる? |
南 |
かぎ裂きっていうのはね、
なにかに引っかかって、こう、
L字型に裂けるような破れ方のこと。 |
糸井 |
ああ、そうか。
じゃ、これは、なに? |
南 |
なにって言われても(笑)。
なんて言うんだろうね、
「ひっかき傷」? |
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糸井 |
「ひっかき傷」?
「かぎ」じゃないにしても、
「裂き」は活かしてくれてもいいんじゃない?
「かぎ裂き」の「裂き」はさ。 |
南 |
ああ、「裂き」は活かしてもいいね。 |
糸井 |
でしょう?
「棒裂き」くらいにしてよ。 |
南 |
はっはっはっ、じゃあそうしようか。 |
糸井 |
うん。
この帽子、長くかぶってるうちに
「棒裂き」ができてさぁ。
それがちょっとうれしいんだ。 |
南 |
それはそうと、
その帽子についてる、
ぐるぐるした模様のことだけどさ。 |
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糸井 |
模様? これ?
ああ、コム・デ・ギャルソンの渦巻き模様。 |
南 |
あの、伊丹さんの記念館に
伊丹さんが描いたサザエのイラストがあってね。
その、サザエの中身を取り出すと、
最後のところににょろにょろっとした
しっぽみたいなやつがついてくるでしょ?
そのしっぽのところが
ちょっと気持ち悪いっていう話なんだけど。
その、帽子のぐるぐる模様を見てたら、
サザエのしっぽを思い出してさ。 |
糸井 |
つまり、誰にでもわかるように言えば、
「あなたの帽子には、
気持ちの悪い模様がついていますね」と。 |
南 |
そうそう(笑)。
そう、言わんとしたんだね、いま。 |
糸井 |
なんて失敬な。 |
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南 |
ははははは。
白い模様だから、まだよかったね。
もうちょっと青黒かったりすると、
もっとサザエのしっぽだから。 |
糸井 |
なんて失敬な。 |
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南 |
ははははは。 |
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(神保町の古い喫茶店でこんな話。つづく) |