第14回 帽子とかぎ裂きとサザエのしっぽ。
糸井 ここ半年くらいで
帽子をよくかぶるようになったんだけどね。
うん。
糸井 なかでもこれはよくかぶる帽子で、
ずっとかぶってるうちに、
ここのところに
「かぎ裂き」ができちゃったんだ。
それが、妙にうれしくてね。
帽子を長くかぶった経験が
なかったからさ、いままで。
ああ、そういえば、
あんまりかぶってなかったね。
糸井 そうそう。
かぶってるうちに、かぎ裂きができた、
なんてことが妙に懐かしくて。
どこ?
糸井 ほら、ここに、かぎ裂きが。
ん? かぎ裂き?
それは、かぎ裂きには見えないよ。
糸井 え、そうなの?
うん。細かいことを言うようですけど、
これは、かぎ裂きではないですね。
糸井 あ、オレ、かんちがいしてる?
かぎ裂きっていうのはね、
なにかに引っかかって、こう、
L字型に裂けるような破れ方のこと。
糸井 ああ、そうか。
じゃ、これは、なに?
なにって言われても(笑)。
なんて言うんだろうね、
「ひっかき傷」?
糸井 「ひっかき傷」?
「かぎ」じゃないにしても、
「裂き」は活かしてくれてもいいんじゃない?
「かぎ裂き」の「裂き」はさ。
ああ、「裂き」は活かしてもいいね。
糸井 でしょう? 
「棒裂き」くらいにしてよ。
はっはっはっ、じゃあそうしようか。
糸井 うん。
この帽子、長くかぶってるうちに
「棒裂き」ができてさぁ。
それがちょっとうれしいんだ。
それはそうと、
その帽子についてる、
ぐるぐるした模様のことだけどさ。
糸井 模様? これ?
ああ、コム・デ・ギャルソンの渦巻き模様。
あの、伊丹さんの記念館に
伊丹さんが描いたサザエのイラストがあってね。
その、サザエの中身を取り出すと、
最後のところににょろにょろっとした
しっぽみたいなやつがついてくるでしょ?
そのしっぽのところが
ちょっと気持ち悪いっていう話なんだけど。
その、帽子のぐるぐる模様を見てたら、
サザエのしっぽを思い出してさ。
糸井 つまり、誰にでもわかるように言えば、
「あなたの帽子には、
 気持ちの悪い模様がついていますね」と。
そうそう(笑)。
そう、言わんとしたんだね、いま。
糸井 なんて失敬な。
ははははは。
白い模様だから、まだよかったね。
もうちょっと青黒かったりすると、
もっとサザエのしっぽだから。
糸井 なんて失敬な。
ははははは。
(神保町の古い喫茶店でこんな話。つづく)


2010-06-07-MON