南 |
あの、ほら、さっきお祭りのところで会った、
位の高いお坊さんのことを、なんて言ったっけ?
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糸井 |
あー、ええと、あの、
意外に若くて、いい男だったお坊さんね。
うーん‥‥なんとか言ったね。
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南 |
‥‥‥‥ポテチン。
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糸井 |
んー、ポテチンではない。
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南 |
「チン」が入ってなかった?
チンポテかな? ポテチン?
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糸井 |
思い出せないけど、
チンポテでもポテチンでもないよ。
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南 |
そうか。近いと思うんだけどな‥‥。
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周囲の者 |
(見かねて)‥‥「リンポチェ」です。
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ふたり |
「リンポチェ」だ!
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一同 |
(笑)
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糸井 |
最近、どんどん出なくなるね、ことばがね。
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南 |
もう、たいへんだよ。
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糸井 |
じゃあさ、あの、お祭りのときに、
赤いお面をかぶって、
ふざける役の人の名前は?
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南 |
あ、あの人ね。いたね。
うーん‥‥アチャ‥‥。
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糸井 |
そうそう、そんな感じだったよ。
近い、近い。
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南 |
アチャ‥‥うーん‥‥。
教えて。
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糸井 |
早いね。
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南 |
なんだっけ、あの人は。
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糸井 |
いや、オレも思い出せないんだ。
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南 |
さも知ってるような感じで
「近い、近い」って言ったじゃないか。
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糸井 |
いや、だから、あれは、
「オレも近い気がするぞ」って思ったんだよ。
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南 |
ははははは、まったく。
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糸井 |
アチャ‥‥アチャ‥‥。
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南 |
アチャワ? 違うね。
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糸井 |
シャラポワ。
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南 |
シャラポワはテニスの人だろ。
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糸井 |
そう、そう。
ってことは伸坊、「シャラポワ」は憶えてるんだね。
なんでシャラポワは憶えられるの?
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南 |
あ、それには理由があってね、
昔、シャラポワについてのエッセイを
書いたことがあるんだよ。それで憶えてる。
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糸井 |
どういうエッセイ?
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南 |
ええとね、
「シャラポワの乳首」っていう
タイトルなんだけどね。
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糸井 |
読んでみたいね(笑)。
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南 |
それを書いた当時はね、
メディアがシャラポワの乳首ばっかり
追いかけてたんだよ。
それについて、ちょっとした考察をした。
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糸井 |
いいねぇ。
どういう考察をしたの?
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南 |
ええとね‥‥
うーん、どういう内容だったっけな。
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糸井 |
頼むから教えて。
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南 |
ハハハハハ、なんか考察したんだよ。
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糸井 |
え、思い出そうよ。
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南 |
熱心だね(笑)。
えーと、うーん、どういう話だっけなぁ‥‥。
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糸井 |
ていうかさ、どうして、
そんなに特徴のあるタイトルの
エッセイが思い出せないんだ。
「シャラポワの乳首」だぞ!
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南 |
ええとね‥‥。
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糸井 |
ほんとはそんなエッセイ、
書いてないんじゃない?
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南 |
アハハ、いいねぇ(笑)。
書いたような覚えがあるけどなぁ‥‥。
ああ、ちょっと思い出した。
そもそも「衣服」というものは、っていう話だ。
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糸井 |
ほう。
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南 |
衣服というものは、たいがい、
防寒だったり、保護だったり
っていう役割があるんだけど、
もともとの機能を大昔のところまでさかのぼると、
じつは「性器を目立たせる」という
役割があったっていうんだ。
いまでも、古い部族の衣装なんかには、
そういう性質がくっきりあってね。
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糸井 |
ペニスケースとか。
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南 |
そうそう。
まさに、ペニスケースの話も
そのエッセイに書いたよ。
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糸井 |
話の腰を折っていいかな?
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南 |
えっ! せっかく思い出したのに?
話の腰を折られるの?
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糸井 |
うん。ごめん。すぐ終わる。
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南 |
‥‥しょうがないな。
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糸井 |
性器と服については、
オレも昔から考えることがあってね。
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南 |
うん。
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糸井 |
ほら、現代においては、
人前で性器を出してはならぬ、服を着ろ、
と良識ある人たちが言うだろう?
じゃあさ、全身タイツみたいなぴったりした服でね、
それが、もう、ものすごく体に沿うようになってて、
たとえば男の場合、
服のその部分が、竿と袋に分かれて、
ぴったりきっちりキューッとなるくらいに
体の線に沿って作られていたとしたら、
それは、ダメなんだろうか? 怒られるんだろうか?
要するにさ、こう、股間に
そのものずばりの形があるんだが、
服は着てるわけさ。
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南 |
おもしろいねー。
股間のことで、
オレもちょっと話の腰を折りたいんだけど。
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糸井 |
えっ、もってかれちゃうの?
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南 |
すぐ終わるから。
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糸井 |
‥‥しょうがないね。
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南 |
服と股間っていうことで思い出した。
埴谷雄高っていうえらい作家がいるでしょう。
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糸井 |
はいはいはい。
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南 |
あの人はえらいんだけど、おもしろいんだ。
いろんなエピソードを残してる人なんだけど、
ぼくがいちばん好きなのは、パーティでの話でね。
女の人たちが、
観てきたバレエのことをおしゃべりしていた。
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糸井 |
それは、踊るほうのバレエ?
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南 |
そうそう、踊るバレエ。
男のダンサーのひとりだけ、
あんまり股間がモッコリ、モコモコすぎで、
ついついそこばっかりに目がいっちゃって‥‥って。
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糸井 |
うん、うん。
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南 |
みんなで大笑いしてたんだって。
そしたら、埴谷さんが横からスッと話に入ってきて、
「はいはい、それはですね、
ウサギを股間に入れてるんですよ」って。
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糸井 |
はははははは。いい!
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南 |
いいでしょう?
ものすごーく、感じが出てるよね。
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糸井 |
入ってるよ、たしかに、ウサギが。
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南 |
いい話でしょう?
まぁ、そんだけなんだけどね。
じゃ、話を、返すよ。
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糸井 |
いや、オレの話も終わってる。
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南 |
じゃあ、なんだっけ。
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糸井 |
シャラポワだ。伸坊のエッセイ。
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南 |
それもまぁ、終わってるようなもんだ。
服はかつて性器を目立たせるものだったから、
シャラポワの乳首は目立っていいのだ、
っていうだけの話。
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糸井 |
なるほどね。
‥‥あれ? でも、なんで
シャラポワの話になったんだっけ?
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南 |
え? そういえばそうだね。
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糸井 |
ええと‥‥なんだっけな。
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周囲の人 |
(見かねて)‥‥あの、
お祭りの、赤いお面をかぶった人の名前を
思い出そうとしてて‥‥。
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ふたり |
あー、そうだ! そうだ!
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南 |
アチャ‥‥アチャ‥‥。
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周囲の者 |
(見かねて)‥‥「アツァラ」です。
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ふたり |
「アツァラ」だ! |
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ふたり |
「アツァラ」だ!
(しょうがないねぇ。つづきます) |