糸井 |
めまいの話って、伸坊に言ったっけ?
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南 |
え? 言ってない。
来たか、ついにめまいが。
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糸井 |
そうそう、言われてたじゃない?
「いつか、めまいがくるぞ」って、伸坊に。
いつ来るのかなあ、って思ってたんだけど。
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南 |
うん。
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糸井 |
たぶん、その日のお昼に、
鍼(はり)を強めに打ってもらったから、
それの影響じゃないかと思うんだけどね。
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南 |
ふーん。
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糸井 |
日曜日だったんだけど、
鍼を打ってもらったあと、
ちょっと昼寝でもしようかなと思ってたら、
もう夕方になっちゃってた、みたいな感じで、
夕食に出かけたんだ。
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南 |
ほうほう。
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糸井 |
その日はソバ屋に予約を入れててね。
時間が来たから、準備して、
妻とふたりで家を出たわけさ。
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南 |
もちろん、カギはかけてるね?
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糸井 |
え?
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南 |
ほら、どろぼうも読んでるからさ。
インターネットを。
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糸井 |
ああ、ああ(笑)。
いや、かけてます!
もちろん、かけてますとも。
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南 |
おれんちにもかかってるからね。
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糸井 |
南さんちにもかかってますよ。
ですから、これを読んでいる
どろぼうのみなさん!
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南 |
ははははは。
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糸井 |
ぼくと南さんちに来てもムダです!
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南 |
だって、カギがかかってるから!
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糸井 |
うちのカギは、あれだよ、
2個かけたら6重にかけたことになる、
っていうカギがあってね、それをかけてるんだ。
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南 |
へーー。そんなカギがあるんだ。
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糸井 |
あるんだよ。
だから、どろぼうが、苦労して2個開けても、
あと4つ開けなきゃいけない、みたいな。
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南 |
そりゃすごいね。
どろぼうは行かないほうがいいね。
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糸井 |
(ひそひそ声で)でも、いまのはウソなんだ。
どろぼうに聞かれてもいいように。
うちに入るのをあきらめさせるための、
深謀遠慮な策略なの。
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南 |
あはははは。
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糸井 |
いや、でも、カギはほんとだからね!
かかってるから!
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南 |
もう、いいよ(笑)。
で? めまいは?
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糸井 |
ああ、そうそう。
で、ソバ屋に行くってことになって、
ちょっと、くらっとする感じがあったんだ。
船酔いではないんだけど。
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南 |
うん、うん。
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糸井 |
なんかこう立っていて、
なんかこう、くらっとする感じがあって、
ちょっとしゃがんだら、楽だったりして。
でも、まあ、とにかくソバ屋に行ってね、
きっと食べれば治るだろうなんて思ってたら、
なんと、ソバが出てきたのに、食べられない。
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南 |
あらら。
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糸井 |
ふつうにしてらんないっていうか、
どうしても、こう、頬杖をつきたくなるんだね。
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南 |
ぐわーって、回んなかった? 視界が。
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糸井 |
うーん‥‥いや、なんなかったなぁ。
歩くのに、ちょっと不都合っていうか、
足元がおぼつかない、みたいな感じはあったけど。
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南 |
視覚的には、回らなかった?
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糸井 |
回らなかったよ。
あのさ、伸坊が言う、めまいってさ、
ヒッチコックの『めまい』の印象が強くて
そういうふうに感じてるんじゃない?
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南 |
いや、オレは実際、
あの映画みたいな感じだったよ。
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糸井 |
そりゃヒッチコックのマネじゃないの?
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南 |
マネって(笑)。
症状だよ、症状。
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糸井 |
得も言われぬ妙な感覚のことを
ヒッチコックの映画の場面を引用して
説明してるだけなんじゃない?
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南 |
そんな、人のめまいをなんだと思ってるんだ(笑)。
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糸井 |
だってさ、「めまい」だからっつって、
そんな都合よく、視界が回るだなんて。
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南 |
みんな違うんだよ、少しずつ。
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糸井 |
そうか。まぁ、いいや。
とにかく、ソバも食わずに、
「大丈夫、大丈夫」とか言いながら、
こう、頬杖をついていたらね。
かみさんが、
「それは大丈夫じゃないんじゃない?」
って言って、そう言われてみれば
大丈夫じゃないわ、って思って、
そのまま病院に行って検査してもらった。
けっきょく、なんでもなかったんだけどね。
まぁ、そんな感じ。
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南 |
へぇー。
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糸井 |
だから、めまいというよりも、
のぼせみたいな感じ?
ぐらんぐらん回ったりはしなかったよ。
でも、伸坊は回ってたんだね。視覚的に。
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南 |
うん。視覚的にっていうか、
ようするにあれは耳の平衡感覚がおかしくなって、
それで視覚情報もおかしくなるわけだからね。
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糸井 |
三半規管だっけ?
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南 |
そう、老廃物が溜まるのが原因らしい。
要するに、三半規管っていう器官の中に、
老廃物が溜まるんですよ。老廃物が。
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糸井 |
うん、うん、老廃物がね。
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南 |
‥‥「老廃物」っていうことばが
会話のなかに、登場したとたんに
音楽が聞こえてたきただろう?
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糸井 |
‥‥ひづめの音が聞こえてきたよ。
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南 |
「♪ローレンローレンローレン……」
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糸井 |
「♪ローレンローレンローレン……」
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ふたり |
「♪ローレンローレンローレン……」
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南 |
「♪ローーハーーーーイ、ブツ」
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一同 |
(笑)
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糸井 |
これ、前に、まったく同じことを
やったじゃないか!
(書籍『黄昏』の東京編に収録)
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南 |
はっはっはっは!
しかも、めまいから老廃物に行って、
「ローハイド」の歌に行くっていう
順番までおんなじだよ。
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糸井 |
もう、「黄昏」も、
新作(落語)じゃなくて
古典(落語)になってっちゃうね。
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南 |
ふふふふ、あちこちで
演目としてやられちゃうね。
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糸井 |
そうそうそう。
で、「あの人の『ローハイド』はすごいよ」
なんて言われたりしてさ。
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南 |
「いま『タコ』やらせたら、
若手じゃあいつがいちばんかな」みたいな。
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糸井 |
そうそうそう(笑)。
そうするとさ、オレらもさ、
ずっとおんなじ話を
してればいいわけじゃない?
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南 |
「塩カルビ」なんていう新作を
わざわざ披露しなくても。
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糸井 |
いいわけだよ。
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南 |
‥‥‥‥だめだろう。
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糸井 |
だめか(笑)。
(毎度ばかばかしい「黄昏」をひとつ。つづきます) |