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南 |
(ホテルのロビーでお茶を飲み干しながら)
これは、美味しかったね。
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糸井 |
うん。リンゴかな。
あとシナモンと、クローブかなんか。
いや、そうとう美味しかった。
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南 |
おかわりしようかな。
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糸井 |
その気持ちもわかるけどね。
ぼくはあえて違うものを飲むよ。
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南 |
あ、そうなの。
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糸井 |
ジンジャーティーかなんかをいただこうかな。
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南 |
へぇ。ジンジャーティーね。
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糸井 |
ジンジャー仏閣。
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南 |
うん。ジンジャー仏閣。
なんでおかわりしないの?
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糸井 |
オレはね、ほんとに気に入ったものは、
一気にガッと行かないようにしてるんだ。
かつて、塩カルビというものを
はじめて食べたときもそうだったよ。
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南 |
「塩カルビ」?
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糸井 |
わさび醤油で食べるカルビがあってね。
タレに漬けてないカルビを
レア目に焼いてわさび醤油で食う。
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南 |
じゃ、「塩カルビ」じゃなくて、
「わさび醤油カルビ」じゃない?
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糸井 |
‥‥‥‥その展開、おもしろそうなんだけど。
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南 |
うん。
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糸井 |
「塩カルビ」の話を優先させていいかな。
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南 |
よっぽど話したいんだね。
レアで焼いて、
わさび醤油をつけて食べる、塩カルビの話。
美味しそうだね。
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糸井 |
うまいよー。
ふつうのカルビも美味しいけど、別格。
ジンジャー別格。
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南 |
あはは。ジンジャー別格。
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糸井 |
で、うまいうまいって食って、
案の定、「追加!」っていう声がしたときに、
オレは「やめろ」と。「今日はやめろ」と。
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南 |
止めたんだ。
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糸井 |
止めたね。
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南 |
ちなみに、追加したのは誰?
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糸井 |
石井くんだね。昔、うちの事務所にいた男。
「これうまいッスわー、もう1枚、追加ー」って。
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南 |
あ、石井くん。
で、「やめろ」と。
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糸井 |
うん、言ったわけだよ。石井くんに。
これだけ美味しいカルビは、なかなかないぞと。
だったら、今日は、いま食べた分だけでやめて、
これを食いにまた来るんだよ、と。
そしたら、またこの喜びが、
いや、ことによったら、さらなる喜びが味わえるぞと。
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南 |
ああー、正しいかもね。
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糸井 |
おかわりして、うまいうまい
と何度も味わっちゃうと、ありふれた
「美味しかったねー」になっちゃうのよ。
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南 |
こういうときの糸井さんは、本当に真剣だね。
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糸井 |
なんていうの?
消費しきらないことが、次の消費を生むんだ。
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ホテルの人 |
なにか、お持ちしますか?
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南 |
あ、同じものを、おかわり。
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一同 |
(爆笑)
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糸井 |
‥‥‥‥しかも、全員、おかわりしたね。
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南 |
だって、美味しかったからね。
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糸井 |
そういうことでいいんですかね?
その、落ちてれば拾う的な。
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南 |
拾ったら食べる的な。
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糸井 |
食べたら下痢する的な。
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南 |
ははははは。
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糸井 |
下痢をしたら懲りる的な。
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南 |
ははははは。下痢はしてない。
美味しいお茶をいただくだけだよ。
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糸井 |
‥‥‥‥うらやましいな。
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南 |
すれば? おかわり。
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糸井 |
そうだね。
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南 |
するんだ(笑)。
(するんだ。つづきます) |