南 |
イシハラ先生っていう理科の先生は、
とにかく、怖いんで有名だった。
もう、姉の代から申し送りになっててね。
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糸井 |
イシハラ先生に気をつけろ、と。
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南 |
うん。
でも、顔がもう、めちゃめちゃ怖いから、
申し送り、必要ないんだけど‥‥。
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糸井 |
ははははは。
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南 |
だから、実際に怒られる前から、
すごく怖い先生だって
みんなびびってるわけ。
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糸井 |
ふふふふ。
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南 |
ある日、実験の前に練習で、
「試験管を振る」ってのをやった。
カラの試験管を全員に持たせて
ただ、こう、振るだけなの。
教室中、全員こうやって
カラの試験管、振ってるわけ。
で、イシハラ先生が振り方をじーっと見ながら、
コツコツって歩いてくる。
教室中、緊張感に包まれてんの。
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糸井 |
あー(笑)。
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南 |
友だちにカクタくんっていう、
すごくマジメで気のいいやつがいたんだけどね、
もう、緊張でガチガチになっちゃってて、
不器用だし、うまく振れないわけ。
そこへどんどんイシハラ先生が近寄ってきてね、
カクタくんの真横で、じぃーっと見ながら、
持ってる試験管をぐるぐる振りながら、
「こう! こう!」って振ってみせる。
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糸井 |
ははははは。
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南 |
ますます震えて、うまく振れないよ。
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糸井 |
つまり、試験管1本でびびらせる先生。
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南 |
そうそうそう(笑)。
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糸井 |
かわいそうだったね、カクタくんは。
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南 |
うん。
イシハラ先生に、ほんとに、
理科室で叱られてたときなんだけどね、
こう、白衣を着たまま、
けっこう長いお説教をしてたんだけど、
なんかの拍子にぽろっと
「‥‥オレもいろいろあるんだよ」
って言ったんだよ。
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糸井 |
はははははは。
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南 |
すごく味わい深いんだけどさぁ、
意味わかんないんだ、それは。
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糸井 |
わかんないね(笑)。
けど、いいね、
一度は、声に出して言ってみたいことばだね。
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南 |
ふふふふ。
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糸井 |
「いろいろ」っていうことばに
ほんとにいろんなことが含まれてる。
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南 |
「‥‥オレもいろいろあるんだよ」(笑)。
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糸井 |
「‥‥オレもいろいろあるんだよ」(笑)。
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南 |
だから、ほんと、
先生もいろいろあるんだなぁと思ってさ。
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糸井 |
当たり前のことなんだけど、
こどもにはそれがわかんないんだよね。
つまり、先生が人間だっていうことを知らずに
子どもって生きてるじゃないですか。
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南 |
うん。
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糸井 |
でも、先生はずっと先生なわけじゃない。
たぶん、伸坊は、それを早めに
発見できた生徒だったんだろうね。
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南 |
そうかもしれない。
だから、オレは、学校を辞めて工場長になった
ヨコボリ先生のこととかが
けっこう、好きだったんだよね。
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糸井 |
ああ、わかる、その感じは。
(どんな先生が好きでした? つづきます) |