|
|
糸井 |
まずは、タコを釣った話からしよう。 |
南 |
うん、うん。 |
糸井 |
そのときはね、
テンヤっていう仕掛けで釣ったんだ。
それはね、こう、板みたいなものに、
どう言ったらいいのかな、
「ピースサインの指先を折り曲げた」
みたいな針がついてる。 |
南 |
こういう(ピースサインの指先を折り曲げる)。 |
糸井 |
そうそう(ピースサインの指先を折り曲げる)。
で、そこに、ラッキョウを縛っておくの。 |
南 |
へぇ。ラッキョウ。 |
糸井 |
うん。ラッキョウを板の先につけて、
バーンと海中に沈めて、こう、煽るんですよ。
するとそこにタコが抱きつくんです。 |
南 |
へぇーー、そんな釣り方があるんだ。
それははじめて知った。 |
糸井 |
でしょ? あの、くれてもいいでしょ? |
南 |
え? なにを? |
糸井 |
「タコの話」をさ。 |
南 |
ああ、うん、そりゃもちろん(笑)。 |
糸井 |
でさ、ほんとはイカを捕りに行ったんだよ。 |
南 |
ダメじゃん。 |
|
糸井 |
じつは、ダメなんだ。
ほんとはテンヤでスミイカを釣りに行ったんだ。
そしたらタコがかかっちゃって。 |
南 |
外道ですね。 |
糸井 |
外道なんだ。 |
南 |
ふつう、タコはツボで捕るよね。 |
糸井 |
でも、テンヤでもかかることはあるんだ。
で、「わー、こりゃタコだ」なんて
騒ぎになったんだけど、
ま、どっちも美味いからさ。 |
南 |
タコ、美味いですよ、そりゃ。 |
糸井 |
しかも有名な久里浜のタコですよ。
「これは久里浜のタコだから」
っていう久里浜ですよ。 |
南 |
うん。 |
糸井 |
久里浜っていうのは、房総じゃなくて、
ええと三浦半島の突端のとこですよ。
美味いんだ、そこのタコは。 |
南 |
話がずれてるんじゃないかな。 |
糸井 |
そう。そんで、家にタコを持って帰ったわけだ。
ところがタコを食おうにも、ヌルヌルしてる。
あのヌルヌルを取らなきゃならない。 |
南 |
あー、そうそう、そういう話だ。 |
|
糸井 |
ヌルヌルを取るのに、
もう、ものすごく苦労するんだ。
手に粗塩を盛っては、
ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっ、
こすって、こすって、こすって、こするんだけど、
もう、ずっとヌルヌルしてんのよ。
30分以上やってても取れない。
でも、それを取らないと料理もできない。 |
南 |
そりゃたいへんだ。 |
糸井 |
タコを加工する専門店なんかはね、
洗濯機の中に塩を入れて、
そこにタコを放り込んで、
ガンガラガンガラ回してヌメりを取るんだよ。 |
南 |
それを自宅でやろうってんだから、
たいへんだね。 |
糸井 |
たいへんだよ。
もう、たいへんで、たいへんで、途中で
「あー、もう、やんなっちゃったよ」と。 |
南 |
あらら。 |
糸井 |
うんこでもしてこようかと。
新聞でも読むわと。
スポーツニュースでも観るわと。 |
南 |
どれかなんだな。 |
糸井 |
とにかく、いったん休むと。
で、休んで、「よし、やるか」と。
そんで、台所に戻ったら
‥‥タコがいないんだよ。 |
一同 |
(笑) |
南 |
ああ、それは、話したいね!
ぜひ、話したいね、みんなにね! |
糸井 |
な。な。 |
一同 |
(笑) |
南 |
タコを洗ってて、休憩して、
戻ってきたら、タコがいないんだもん。 |
糸井 |
いないのよ。帰って来たらいないんだよ。 |
南 |
「ヤロー、逃げやがったな」ってことだ。
そりゃあ、いい話だ。 |
糸井 |
な。な。
オレに「タコの話」をくれて
よかっただろう? |
南 |
うん、よかった。 |
|
糸井 |
こう、見渡しても、いないんだ。
流しはステンレスのシンクでさ、
どーーーう考えても、逃げ場はないんだよ。
シンクの外に出たのかなと思って
そこらじゅうを探したけど、いない。 |
南 |
まだ遠くには行ってない。 |
糸井 |
まだ遠くには行ってない(笑)。
で、まさか、と思ってね、
流しの排水溝の、なんて言うの、
生ゴミが溜まるところを見たら、
そこに、こう、
ひとかたまりになって、入ってたんだよ。 |
一同 |
へーーー。 |
南 |
コップ一杯ぶんくらいのところだよね。 |
糸井 |
そうそう。そこは網になってるからさ、
そこから先はさすがに行けなかったみたいで。
でも、すごいでしょ。洗われてる最中だよ。 |
南 |
もう、だいぶんヌメりも取れて、
さっぱりしてきてるのに。 |
糸井 |
うん。人間だったら観念してるよ。
ところが、タコにはタウリンがあるからね。 |
南 |
はー、タコにはタウリンが。 |
糸井 |
あるんだよ。
しかも1000ミリグラム以上あるからね。
だから、がんばれるんだ。
で、まあ、そんなこんなで、苦労しながら、
桜煮をつくって食べましたよ。美味かったー。 |
南 |
そりゃあ、美味いだろう。
なんてったって
一度は逃げられたタコ、逸したタコですよ。 |
糸井 |
うん。ひとしおですよ。 |
南 |
一回、水道管を通したことによって、
うまみも増してるね。 |
糸井 |
いや、水道管までは行ってない。 |
南 |
そうか、そうか、網があったからな。 |
糸井 |
うん。網のところは
お茶殻でも通らないような
小さい穴しか空いてないからさ。 |
南 |
さすがのタコも。 |
糸井 |
さすがのタコでもムリです。
いくらタコが隙間から逃げるといっても
お茶殻以上の大きさはあるから。 |
南 |
だな。 |
|
糸井 |
そういうお話を、話したかったんだ。
これは、伸坊から譲り受けてもいいでしょ。 |
南 |
うん、うん、いいこと聞いた。
で、さ。そのときにさ。そのタコをさ。
こう、ツーっと切ったりした? |
糸井 |
うん、したよ。 |
南 |
タコの血って、どういう色してるか知ってる? |
糸井 |
うわ、そう来る。 |
南 |
タコの血は、ね。
‥‥青いんだ。 |
糸井 |
返すわ、「タコの話」。 |
|
|
(俄然、続きます) |