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糸井 |
伸坊んちって、
旅行するときは、どっちが仕切るの?
切符の手配とか。 |
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南 |
まぁ、奥さんだね。 |
糸井 |
伸坊はそういうの、苦手? |
南 |
ダメだと思うな。
あんまり、やったことないんだけど。 |
糸井 |
やったことないまま、人生が終わろうとしている。 |
南 |
そう。
前に、赤瀬川さんと話したことがあるんだけど、
赤瀬川さんとオレって、
ひとり旅をしたことがないんだよ。 |
糸井 |
ほ、そうなんだ。 |
南 |
うん。やんない。 |
糸井 |
前に誰かが言ってたんだけど、そもそも、
ひとり旅っていうのは無理してやるもので、
無理してやる人ってのは、
「原稿を書くため」だったり
「自慢するため」だったり、なんかしら
やる必然性があるからやってるんじゃないかって。
あ、日垣隆さんだ。日垣さんと対談したときに、
「団塊世代の人たちは若いころに
なぜ長いひとり旅に出るのか」
っていう文脈で言ってたんだ。
あの解釈は、なかなかおもしろかった。 |
南 |
やらないよね、糸井さんも。 |
糸井 |
やらないですね。
昔、それこそ、わざとしたことがあったけど、
やっぱりすごくつまんなくて、
すぐ帰ってきちゃった。 |
南 |
そういえば、オレ、1回だけ、
ひとり旅のまねごとをしたことがある。 |
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糸井 |
へぇ。 |
南 |
ほら、つげ(義春)さんとかがさ、
こう、千葉の方に、
ふらっと旅したりするじゃない? |
糸井 |
うん。 |
南 |
じゃあ、オレもやってみよう、と思って。
そのころ、亀戸に住んでたから、
千葉方面は、わりと近かったし。 |
糸井 |
ゆるいね、決意が。 |
南 |
うん(笑)。
あれは土曜日だったかな、
両国駅の列車ホームから汽車に乗るとね、
こう、勝手に千葉の方に行くわけだよ。 |
糸井 |
そりゃ、行くだろう。 |
南 |
で、ゴトン、ゴトン、と揺られてね。
なかなか旅気分が出てきたかなと思ったら、
なんだかどんどん乗客がいなくなるんだよ。
要するに、途中で降りていくわけ。 |
糸井 |
うん、うん。 |
南 |
最初のうちはさ、原宿で遊んでいま帰るところ、
みたいな女の子とかがいたんだけど、
どんどん降りて、いなくなっちゃって、
ついに、車内にオレしかいない、
みたいなことになっちゃった。 |
糸井 |
あらら。 |
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南 |
一方、オレは、
どこで降りるかさえ決めてなかったわけ。
で、考えて、昔、学校の遠足で行った、
「鯛ノ浦でも行くかぁ‥‥」と思って。 |
糸井 |
いい声出したね、いま。
「行くかぁ‥‥」 |
南 |
ははははは。
「鯛ノ浦でも行くかぁ‥‥」。 |
糸井 |
「鯛ノ浦でも行くかぁ‥‥」。 |
南 |
で、鯛ノ浦を目指したわけだけど、
なんせ、乗ってるのが、ひとりだけだから
やっぱり、さびしいんだよ。ひとりだし。 |
糸井 |
それが、ひとり旅だからね。 |
南 |
しかも、なんか、暗いんだよ、電車の中が。妙に。
もうちょっと明るくしたらいいのに、
って思うぐらい、暗い。 |
糸井 |
(笑) |
南 |
で、なーんか、寂しくなっちゃったなぁ、
と思って、車内に貼ってある路線図を見たらさ、
「行川(なめがわ)アイランド」
っていう場所があったわけよ。
「行川アイランド」だよ? 「アイランド」だよ? |
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糸井 |
たしかフラミンゴとか、
いるところじゃなかったっけ? |
南 |
フラミンゴくらいいたかもしれない。
なにしろ、「アイランド」だからね。
ネオンがキラキラっと
またたくような感じがしたんで、
暗い車内でさびしい思いをしていたオレはもう、
目がくらんじゃって、つい降りたんだ。
そしたら、まぁ、そこが
なーんにもないとこなんだよ。
行川アイランドしかない。 |
糸井 |
ははははは。 |
南 |
しかも行川アイランドには
徒歩じゃ行けないみたいでさ。
つまり、にっちもさっちもいかないところで
オレは降りちゃったわけだ。
困っちゃってさぁ、まずいなと。
つぎの電車まで待つか‥‥とか思って、
時刻表とか見たらさ、
つぎの電車、ねぇんでやんの。 |
糸井 |
ははははは、たいへんだ。 |
南 |
まずいなぁ、と思って、ふと見ると、
駅からずいぶん離れたところに
ぽつん、と灯りがあるわけだよ。 |
糸井 |
怪談みたいになってきた。 |
南 |
もう、状況的には、怪談だよ。
だって、その灯りのところまで行く道は、
舗装なんてされてなくて、
草っぱらだからね。
きつねが出るようなとこなんだよ。 |
糸井 |
出てほしいねぇ、きつねに。 |
南 |
で、まんじゅうだと思ってたら
馬糞を食わされてて。 |
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糸井 |
そうそう。もらったお金は葉っぱでね。 |
南 |
布団かと思ったら寝てるのは墓石で。 |
糸井 |
赤ん坊かと思ったら背負ってるのは地蔵で。 |
南 |
いや、だから、そうじゃなくてさ。 |
糸井 |
うん(笑)。 |
南 |
ようやく灯りのとこまでたどり着いてさ、
「ごめんくださーい」って言ったんだけど、
誰も出てこないんだよ。 |
糸井 |
「こーんな顔だったかい?」って
のっぺらぼうのフラミンゴが‥‥。 |
南 |
「誰も出てこない」って言ったじゃないか。 |
糸井 |
そうだった。 |
南 |
電気はついてるんだけど、
呼べど叫べど、誰も出てこない。
しばらく待ってたら、
そこんちの人がふいに帰ってきて。 |
糸井 |
おお。 |
南 |
で、かくかくしかじかで、
にぎやかな場所だと思って降りたんだけど、
って正直に言ってみたら、やっぱり、
「ここは、ぜんぜんにぎやかじゃないです」って。
「引き返したほうがいいです」って。 |
糸井 |
よっぽどすごいところだね。 |
南 |
それで、その人が、一所懸命調べてくれてね、
「臨時ののぼり電車が1本だけありますよ」
っていうので、なんとかそれに乗って
帰ってきたっていうことがある。 |
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糸井 |
それが、唯一の‥‥。 |
南 |
うん。ひとり旅‥‥とはいえないか。 |
糸井 |
そうだねぇ。 |
南 |
だって、日帰りだもんね。結果的に。
(お友だちにも教えてあげよう。つづきます) |