黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第15回 ひとり旅の思い出。
糸井 伸坊んちって、
旅行するときは、どっちが仕切るの?
切符の手配とか。
まぁ、奥さんだね。
糸井 伸坊はそういうの、苦手?
ダメだと思うな。
あんまり、やったことないんだけど。
糸井 やったことないまま、人生が終わろうとしている。
そう。
前に、赤瀬川さんと話したことがあるんだけど、
赤瀬川さんとオレって、
ひとり旅をしたことがないんだよ。
糸井 ほ、そうなんだ。
うん。やんない。
糸井 前に誰かが言ってたんだけど、そもそも、
ひとり旅っていうのは無理してやるもので、
無理してやる人ってのは、
「原稿を書くため」だったり
「自慢するため」だったり、なんかしら
やる必然性があるからやってるんじゃないかって。
あ、日垣隆さんだ。日垣さんと対談したときに、
「団塊世代の人たちは若いころに
 なぜ長いひとり旅に出るのか」
っていう文脈で言ってたんだ。
あの解釈は、なかなかおもしろかった。
やらないよね、糸井さんも。
糸井 やらないですね。
昔、それこそ、わざとしたことがあったけど、
やっぱりすごくつまんなくて、
すぐ帰ってきちゃった。
そういえば、オレ、1回だけ、
ひとり旅のまねごとをしたことがある。
糸井 へぇ。
ほら、つげ(義春)さんとかがさ、
こう、千葉の方に、
ふらっと旅したりするじゃない?
糸井 うん。
じゃあ、オレもやってみよう、と思って。
そのころ、亀戸に住んでたから、
千葉方面は、わりと近かったし。
糸井 ゆるいね、決意が。
うん(笑)。
あれは土曜日だったかな、
両国駅の列車ホームから汽車に乗るとね、
こう、勝手に千葉の方に行くわけだよ。
糸井 そりゃ、行くだろう。
で、ゴトン、ゴトン、と揺られてね。
なかなか旅気分が出てきたかなと思ったら、
なんだかどんどん乗客がいなくなるんだよ。
要するに、途中で降りていくわけ。
糸井 うん、うん。
最初のうちはさ、原宿で遊んでいま帰るところ、
みたいな女の子とかがいたんだけど、
どんどん降りて、いなくなっちゃって、
ついに、車内にオレしかいない、
みたいなことになっちゃった。
糸井 あらら。
一方、オレは、
どこで降りるかさえ決めてなかったわけ。
で、考えて、昔、学校の遠足で行った、
「鯛ノ浦でも行くかぁ‥‥」と思って。
糸井 いい声出したね、いま。
「行くかぁ‥‥」
ははははは。
「鯛ノ浦でも行くかぁ‥‥」。
糸井 「鯛ノ浦でも行くかぁ‥‥」。
で、鯛ノ浦を目指したわけだけど、
なんせ、乗ってるのが、ひとりだけだから
やっぱり、さびしいんだよ。ひとりだし。
糸井 それが、ひとり旅だからね。
しかも、なんか、暗いんだよ、電車の中が。妙に。
もうちょっと明るくしたらいいのに、
って思うぐらい、暗い。
糸井 (笑)
で、なーんか、寂しくなっちゃったなぁ、
と思って、車内に貼ってある路線図を見たらさ、
「行川(なめがわ)アイランド」
っていう場所があったわけよ。
「行川アイランド」だよ? 「アイランド」だよ?
糸井 たしかフラミンゴとか、
いるところじゃなかったっけ?
フラミンゴくらいいたかもしれない。
なにしろ、「アイランド」だからね。
ネオンがキラキラっと
またたくような感じがしたんで、
暗い車内でさびしい思いをしていたオレはもう、
目がくらんじゃって、つい降りたんだ。
そしたら、まぁ、そこが
なーんにもないとこなんだよ。
行川アイランドしかない。
糸井 ははははは。
しかも行川アイランドには
徒歩じゃ行けないみたいでさ。
つまり、にっちもさっちもいかないところで
オレは降りちゃったわけだ。
困っちゃってさぁ、まずいなと。
つぎの電車まで待つか‥‥とか思って、
時刻表とか見たらさ、
つぎの電車、ねぇんでやんの。
糸井 ははははは、たいへんだ。
まずいなぁ、と思って、ふと見ると、
駅からずいぶん離れたところに
ぽつん、と灯りがあるわけだよ。
糸井 怪談みたいになってきた。
もう、状況的には、怪談だよ。
だって、その灯りのところまで行く道は、
舗装なんてされてなくて、
草っぱらだからね。
きつねが出るようなとこなんだよ。
糸井 出てほしいねぇ、きつねに。
で、まんじゅうだと思ってたら
馬糞を食わされてて。
糸井 そうそう。もらったお金は葉っぱでね。
布団かと思ったら寝てるのは墓石で。
糸井 赤ん坊かと思ったら背負ってるのは地蔵で。
いや、だから、そうじゃなくてさ。
糸井 うん(笑)。
ようやく灯りのとこまでたどり着いてさ、
「ごめんくださーい」って言ったんだけど、
誰も出てこないんだよ。
糸井 「こーんな顔だったかい?」って
のっぺらぼうのフラミンゴが‥‥。
「誰も出てこない」って言ったじゃないか。
糸井 そうだった。
電気はついてるんだけど、
呼べど叫べど、誰も出てこない。
しばらく待ってたら、
そこんちの人がふいに帰ってきて。
糸井 おお。
で、かくかくしかじかで、
にぎやかな場所だと思って降りたんだけど、
って正直に言ってみたら、やっぱり、
「ここは、ぜんぜんにぎやかじゃないです」って。
「引き返したほうがいいです」って。
糸井 よっぽどすごいところだね。
それで、その人が、一所懸命調べてくれてね、
「臨時ののぼり電車が1本だけありますよ」
っていうので、なんとかそれに乗って
帰ってきたっていうことがある。
糸井 それが、唯一の‥‥。
うん。ひとり旅‥‥とはいえないか。
糸井 そうだねぇ。
だって、日帰りだもんね。結果的に。



(お友だちにも教えてあげよう。つづきます)

2009-10-16-FRI

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