黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第24回 松島で、一句。
あのー、日光に着いたときにはさ、
オレは昔、眠り猫になってたって
言ったじゃない?
糸井 ああ、はい、はい。
あと、天狗にもなられていたと。
うん。でね、さっき、
今回の旅の予定を見たんだけれどもね、
驚いたのは、行く先々で、
オレは過去に、なにかになっているんだよ。
糸井 え、この先も?
うん。
糸井 ええと、明日は、松島に行くんだよね。
松島で、私は以前、松尾芭蕉になりました。
糸井 はははは。なにしたの。芭蕉は、松島で。
松島には、有名な句があるじゃない?
「松島や ああ松島や 松島や」っていう。
糸井 はいはいはい。
あれがね、どうも調べてみると、
芭蕉が詠んだわけじゃないみたいで。
松島には、じつは芭蕉の句が
ひとつも残ってないらしいんだ。
それで、残したほうがいいかなと思って、
まぁ、俳句をいくつかひねりましたね。
糸井 その、ありがたい句を、
うかがってよろしいでしょうか。
うん。ええと、あのー、
あれ? なんだっけな?
「松島‥‥」うーん、ちょっと‥‥。
糸井 忘れちゃってるわけね(笑)。
まぁ、なんか、松島にちなんだ俳句をね、
いくつか詠んだはずですよ。
糸井 芭蕉になるってさぁ、
要するに、茶人みたいな格好するわけ?
茶人というか、お坊さんの格好ですね。
糸井 あ、お坊さんか。
うん。で、松島で芭蕉になったときはね、
同じホテルに、お坊さんの団体客が
たくさん泊まってたんだ。
するとさ、ほとんど、おんなじじゃん、格好が。
糸井 芭蕉と坊主が(笑)。
芭蕉と坊主が。
だから、せっかく芭蕉になってるっていうのに、
ホテルじゃ、ぜんぜん目立たなくて。
糸井 ははははは。
あれはちょっと、参ったね。
糸井 「木を隠すなら森の中」理論でいうと、
芭蕉を隠すなら、お坊さんの団体客の中。
絶対、そうするべきだね。
‥‥あ、そのときに詠んだ句を
思い出しました。
糸井 はい、どうぞ。
「松島は 岩のかたちが ヘンですね」。
糸井 はははははは。
一同 (笑)
そういう句をね。
糸井 けっこうですなぁ(笑)。
うん。
糸井 よく思い出したね、それ。
「松島は」。
糸井 「岩のかたちが」。
「ヘンですね」。
糸井 ははははは。
その、礼儀正しい感じがいいですね。
うん。
糸井 それ、誰に言ってるんですかね。
やっぱり、松島の人を
喜ばそうとしたんじゃないですかね。
糸井 芭蕉が?
うん。
「どうです、松島は? 初めていらっしゃって」
「松島は‥‥岩のかたちがヘンですねぇ」
っていうのを、まぁ、句にしたわけです。
一同 (爆笑)
糸井 そのまんまですね(笑)。
ま、俳句って、そういうもんですから。
糸井 わ、ほんとに、芭蕉が言ってるみたいだ。
ありがたいなぁ。
「本人」ですから。
糸井 あの、今日行った、華厳の滝なんかは、
霧でまったく見えませんでしたけど。
見えませんでしたね。
糸井 見えないながらも、芭蕉ともなれば、
それをいとも簡単に詠むんでしょうね。
詠むんでしょうね。
えーと‥‥。
糸井 五七五の最後の五は
「見えません」ですかね。
あ、結論としてね。
「華厳の滝」っていうのは、
五のところに入れると字余りになるね。
糸井 ってことは、二個目に入れるしかないですね。
「華厳の滝は」とか。
で、「見えません」と。
ふたり 「華厳の滝は 見えません」
一同 (笑)
糸井 丁寧でいいですね。
「霧深し」あたりから、はじめてね。
糸井 「霧深し 華厳の滝は 見えません」
うん。いいですね。
糸井 情景が目に浮かぶようですね。
ははははは。
糸井 見えなかったのに、
見えなかったという情景が目に浮かぶ(笑)。
さすがですね、芭蕉。
ああ、霧が深いことだなぁ、と。
糸井 うんうん。
あの、「ことだなぁ」って、
俳句の現代語訳に必ず出てくるよね。
糸井 詠嘆ね。
そうそう、詠嘆。
糸井 詠嘆っていっても、オレがいってるのは
(ポーズをビシッと決めながら)
「ヨロシクぅ!」のえいたんじゃないからね。
‥‥それは『成りあがり』のえいたん?
糸井 うん。一般的には、
「永ちゃん」っていわれてるみたいね。
一般的にはね。
(つづきます。ぃヨロシクぅ!)

2009-10-27-TUE

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