黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第31回 胃が痛いということ。
いまはわかるんだけど、オレは昔、
「胃が痛い」っていうことが
よくわかってなかったんだ。
糸井 え? 胃が痛くなかったってこと?
いや、胃は痛かったんだと思うんだけど、
「胃が痛い」っていうことの意味が
わかってなかったんだ。
そういうのは、漠然と、
「お腹が痛い」に含めちゃってた。
糸井 ああ、はぁ、はぁ。
だから、わかりやすい例を挙げると、
誰かが「胃が痛い」って言うと、
「うんこすれば治るよ」って返してたわけ。
糸井 違うだろう、それ(笑)。
違うんだよ(笑)。
糸井 「胃が痛い」と「うんこすれば治る」は
そもそもの場所が違うよ。
ああ、そうだね。
糸井 でも、昔のばあさんとかは
「腹が痛い」って言うととにかく
「うんこしてこい」って言ってたね。
そうなんだよ。オレもそれと同じで、
「胃が痛い」も、「腹が痛い」も
同じこととして認識してたんだ。
糸井 胃も、腸も、同じだと。
「ちょうよ、いよ」と育てられたわけだ。
はははははは。わかりづらいね。
糸井 「腸よ胃よ(蝶よ花よ)と育てられ」。
いいね、くだらないね。
糸井 いや、しかし、そうですか。
「胃が痛い」が理解できませんでしたか。
うん。あのさ、
「胃がシクシク痛む」とか言うじゃない?
糸井 うん。
それを聞いて、
「シクシク? なに言ってんの?」って。
糸井 ふざけんじゃない、と。
甘えるんじゃない、と。
「お腹が痛い」って言うなら
ふつうに同情しますけどね。
シクシク? なに?
糸井 泣いてんのか、と。
怪談か、と。
じつは、いまでも、
「胃が痛い」は理解できたけど、
「シクシク痛い」はよくわかんないんだ。
糸井 伸坊自身は、胃が丈夫?
いや、胃は痛いよ。でも、オレはね、
そういうときも胃が痛いんじゃなくて、
「みぞおちが痛い」と思ってたんだ。
糸井 ははははははは。
だから、あるとき、
「どういうわけか
 みぞおちが痛い」って言ったら、
「それは胃が痛いんだよ」って
教えてくれた人がいて。
糸井 (笑)
それでようやく
「胃が痛む」ということに思い至ったと。
糸井 それでいろいろ合点がいった?
腑に落ちたねぇ。
「みぞおちが痛いときは、
 水を飲むとスーッとするぞ」
とか思ってたからさ。
糸井 それは、つまり、胃液が出すぎてたとか。
そういうようなことだと思うんだよね。
徹夜で仕事してたりすると、
そのあたりのことが、
うまく調節できなくなるんだよ。
糸井 ああ、そうね。
夜中に食べたり飲んだりするもんだからね、
胃の、液とか、粘膜とか調整する人も、
「急に言われても‥‥」っていう状態でさ。
「勤務時間内にお願いします」
みたいなことだったんじゃないかな。
糸井 「勤務時間内」(笑)?
だから、胃の、役人がね、
さぼってるっていうか‥‥。
糸井 その役人、どういう格好してるの?
胃の役人ですからね。
だいたい、みんなこういうような。
糸井 こういうような? どういうような?
ええっと‥‥「いなかっぽい」格好を。
糸井 胃の中の役人だけに。
そう。
糸井 「いなかぼっこ」っていうのは、どうかね。
「いなかぼっこ」?
糸井 田舎に当たるんだよ。
体がポカポカしてくるんだ。
ちょっと肌寒い季節に。
糸井 そうそう。干し草の上かなんかに寝そべって。
いいかもしれないね。
(さすがにもう終盤ですが。まだ、つづきます)

2009-11-04-WED

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