糸井 昔さ、『指名手配』って番組が
あったの知ってる?
うーん、うっすら覚えてるような‥‥。
いつごろ?
糸井 小学校の高学年くらいかな。
ふーん、それは知らないなぁ。
糸井 まぁ、その名のとおり、
こういう事件があって、
こういう犯罪者がいて、
いま指名手配されております、
その人を見つけたらお知らせください、
っていう番組なんだけどね。
もう、欠かさず見てたの、オレ。
うん。
糸井 で、犯罪ものだから、
犯罪のシーンがあるじゃない。
それが少し、ときにはエロチックだったり、
ときには残虐だったり、っていうことで、
まぁ、刺激の強いね、俗な番組なんだけど、
「みなさんの一報が犯人逮捕に
 つながるかもしれません!」
みたいなこと最後にわざわざ言って、
教育的なふりをして、やってましたね。
ああ、なるほどね。
糸井 まぁ、全体に、昭和のにおいが
ぷんぷんする企画だよね。
いろんな誘拐事件の公開捜査があったり。
農薬入り毒ぶどう酒事件とかね。
うんうん。あの時代ね。
糸井 犯罪って、なんていうか、ものすごく、
いってみれば歌謡曲なみに
時代を反映するじゃない?
流行りっていうと不謹慎だけど、
同じような犯罪が続いたりとかさ。
世相も、景気も、きっと影響するし。
事件の呼び名なんかもそうかもね。
だって、「毒ぶどう酒」だからね。
糸井 「ぶどう酒」(笑)。
昭和だろう、それは。
いまなら、少なくとも「毒ワイン」だ。
糸井 そうだよね、ほんとにほんとに。
しかも「ぶどう」はひらがなで。
うん。「葡萄」だと、
新聞に載っても読めないからさ。
糸井 とくに、小学校高学年には。
うん、『指名手配』好きの
糸井少年にも、さすがに(笑)。
糸井 その「ぶどう酒」っていうのはさ、
ワインじゃなくて、
ちょっと甘いやつかもしれない。
赤玉ポートワインみたいな。
糸井 そうそうそう、
それのことだと思うんだよね。
いや、でも、ほんと、
犯罪と時代は切り離せないね。
そうだねー。
糸井 当時の犯罪者なんてさ、
いわゆる「時の人」でしょ。
いい意味じゃないよ、もちろん。
そうだったね。
テレビとか週刊誌で
映画俳優とか野球選手なみに
犯罪者がウワサになるっていう。
糸井 有名。
チフス菌バナナの医者とかね。
ああ、あったねぇ、チフス菌バナナ。
糸井 覚えてるもんねぇ。
大久保清とかね。
糸井 大久保清は、だいぶ後だね。
ちなみに大久保清が着ていた服は?
ああ、ルパシカだ。
糸井 ルパシカですね(笑)。
スッと出るなぁ。
当たり前に出るよ。
糸井 なんだろう、いまとはやっぱり違うね。
いまの犯罪は、ああいう貧しい感じがない。
そうだね。
糸井 あと、「指名手配」っていう
ことばの持つムードとかね。
なんていうんだろう、あの当時、
いったん犯人が逃げおおせたら、
そのまま捕まんない可能性があるぞって
みんな思ってたじゃない。
うん。
糸井 だからこそ捕まえたいなぁ、
ってみんなが思って、
あんな番組も成り立ってたわけでさ。
でも、いまって、なんか、
隠れられる場所が
ないような感じがするんだよね。
いまだと、
「なんで捕まんないんだ?!」
っていう感じだもんね。
糸井 そうそう。
いや、「昔の犯罪はよかった」じゃないよ?
ハハハハハ。
糸井 そこんとこ、はっきり言っとかないとさ。
「いやー、キミ、昔の犯罪はよかったね!」
糸井 「夢があったよ、昭和の犯人は!」
このぐらいにしておこう(笑)。
糸井 そうだね(笑)。
でもね、いまさ、
戸籍上は生きてることになってて、
生きてたとしたら200歳、みたいな人が
あちこちで発覚してるじゃない?
うん。
糸井 ああいうのってさ、
当たり前にあったんだと思うよ。
「こんなにいるんですね」
「管理が杜撰ですね」って驚いてるけどさ、
あんなもんだったんじゃないかなぁ。
そうね、昔はね。
糸井 うん。
「全部、チェック済みです」
みたいになってるのって、
ほんとに最近のことだと思うよ。
(今回、独特ですね。つづきます)

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2010-11-02-TUE