- ──
- もう何年も前になるんですが、
柄本明さんに、
お話を聞かせていただいたことが
あるんです。
- 柄本
- あ、そうですか。
- ──
- テーマは「俳優とは何か」でして。
- 柄本
- へえ‥‥。
- ──
- で‥‥そのときのインタビューが、
ある意味で、
今の自分をつくってくれていると、
思っているんです。
- 柄本
- どうしてですか。
- ──
- 経緯だけを簡単にお話しますけど、
インタビューってたいがい、
その人に憧れていたり、
その人のつくるものが好きだから、
お願いするんですね。
- 柄本
- ええ。
- ──
- その人の魅力が伝わればいいなと
思ってやっているので、
たとえば、会話のはしばしで、
意図せず、ぶっきらぼうな口調に
なってしまった場合には、
編集の段階で直したりするんです。
語尾を柔らかくすると言いますか、
口調を丸めるというような。
- 柄本
- はい、はい。
- ──
- 柄本明さんのインタビューのとき、
それが、できなかったんです。
- 柄本
- できない?
- ──
- つまり、ほんのわずかな語尾を
丸めるだけで、
柄本明さんのあのお顔が、
パッ‥‥と消えちゃったんです。
- 柄本
- ああー‥‥。
- ──
- 柄本明さんじゃない「誰か」が、
しゃべりはじめるというか。
だから、ぶっきらぼうな部分は、
ぶっきらぼうなまま、
誤解を受けそうな言いまわしも、
あえてそのまま、
残さざるを得なかったんですね。
- 柄本
- なるほど。
- ──
- それで原稿チェックに出したら、
OKをいただいたので、
ほとんどそのまま公開しました。
結果、読者にとても好評でした。
- 柄本
- そうなんですか。
- ──
- そのとき、俳優さんの言葉って、
ある種「独特」なもので、
いろんな都合で、
勝手に変えたりできないんだと。
- 柄本
- へえ‥‥。
- ──
- その経験から、
俳優さんの言葉っておもしろいなあ、
もっと聞きたいと思って、
この「俳優の言葉。」という連載を、
はじめたというわけなんです。
- 柄本
- なるほど。
- ──
- すいません、前置きが長くて。
- 柄本
- 親父、何、言ってました?
- ──
- 聞いたことのない話ばっかりでした。
たとえば、
当時「顔」に興味があったので、
「人間の顔って、
どういうものだと思いますか?」
とお聞きしたら、
「大衆に消費されているものだ」
とか‥‥。
- 柄本
- ほー‥‥(笑)。
- ──
- ジョン・レノンでも、
マリリン・モンローでもいいけど、
俺たちは
その人の「才能」じゃなく、
その人の「不幸」に対して、
拍手をおくっているんだ‥‥とか。
- 柄本
- そういうこと言いますね、うん。
- ──
- あ、おっしゃいますか。ふだんから。
- 柄本
- 言いますね。
- ──
- 仕事でインタビューということを
やっていると、
どこかで聞いたことあるような話や、
似たような表現が
混じってきたりもするんですけど、
柄本明さんの言葉や表現は、
聞き覚えのないものばっかりでした。
- 柄本
- そうですか。
- ──
- ですから、佑さんや柄本時生さんは、
子どものころから、
こういう言葉に
触れてきたのかと思ったら、
何て言うか‥‥
うらやましいなあって思ったんです。
- 柄本
- うらやましい‥‥うらやま‥‥んー。
いやあ、どうなんだろうなあ、
でも‥‥いちばん近いところにいる、
「師匠」なんです、どうしたって。
- ──
- ええ。
- 柄本
- その人の言葉にがんじがらめですよ。
ぼくなんかは、やっぱり。
- ──
- そうですか。
- 柄本
- 親父の言葉って、わかんないんです。
わかんないから、おもしろいんです。
いろんな言葉を使って、
いろんな言いかたをするんですけど、
まあ、よくわからない。
- ──
- ぼくも、聞いた瞬間には、
実はすぐにわからない表現が多くて。
- 柄本
- そうでしょう。
- ──
- でも、さっきの「顔」のことも、
「才能」のことも、
どういう意味だろうって、
ずっと考えていたくなるんです。
- 柄本
- わかんないから、考えざるを得ない。
考えるうちに、おもしろくなる。
そういうところが、あると思います。
- ──
- 柄本明さんって、どんな人ですか。
佑さんからしてみると。
- 柄本
- まあ‥‥役者としては師匠ですし、
当然、尊敬もしてますけど、
んー、やっぱり「怖い人」ですね。
- ──
- 怖い。
- 柄本
- ふつうの会話をするのにも、
緊張感を伴うような人なんですけど、
でも、それだけじゃなくて。
いろんな意味で「怖い人」です。
<つづきます>
2020-02-20-THU
ヘアメイク:星野加奈子