- ──
- 師匠の「わからない言葉」を、
佑さんは、
どうやって「昇華」してるんですか。
- 柄本
- やはり「考える」しかないですね。
- ──
- 考える。
- 柄本
- はい、もうジタバタ考えるしかない。
だから、さっきぼくのことを
うらやましいとおっしゃいましたが、
うらやましいというなら、
ぼくは、劇団員がうらやましいです。
- ──
- 東京乾電池の、劇団員さんが?
- 柄本
- ええ、あの稽古場にいられることが、
うらやましいなと思います。
- ──
- それは、なぜですか。
- 柄本
- まず、稽古場って、楽しいんです。
座長‥‥つまりぼくの親父の
よくわかんない言葉が
あっちこっちへ行き交って、
それはそれは怖い場所なんですけど。
- ──
- ええ。
- 柄本
- 楽しいんです、同時に。稽古場って。
怖いんだけど、楽しい。
怖さがないと、
きっと楽しくはないと思いますし、
何より、あの場にいたら、
親父の言葉がわかってくるんです。
- ──
- わかってくる。わからない言葉が。
- 柄本
- うん。
- ──
- 時生さんとおふたりで、
舞台をやってらっしゃいますが、
昨年、
柄本明さんが演出された‥‥。
- 柄本
- 『ゴドーを待ちながら』ですね。
- ──
- ぼくみたいな一般人には、
柄本明さんの演技指導の言葉が、
わかりませんでした。
でも‥‥わからないんですけど、
ずーっと考え続けていたら、
その先に、
何かが見つかりそうな言葉だと
思いました。
- 柄本
- 稽古場にいる乾電池の劇団員は、
あれ、わかるんですよ。
乾電池語録とでも言うのかなあ、
たとえば、
「おまえは声を探してるだけだ」
とか、言ったりするんです。
- ──
- ええ、ええ、おっしゃってました。
ドキュメンタリーでも。
- 柄本
- その表現が何を意味しているのか、
そう言われることで、
自分が何を、指摘されているのか。
あの場にいると、わかってくる。
- ──
- 稽古場というのは、
共通の言語圏のような場所だと。
その『ゴドーを待ちながら』の
ドキュメンタリーで、
もうひとつ驚いたことがあって。
- 柄本
- ええ。
- ──
- それは、ひとつのセリフを、
あそこまで、突き詰めていること。
- 柄本
- ああー‥‥そうですねえ。
- ──
- ぼくらは、ああいう稽古の場面を、
ほとんど見ることがないので。
- 柄本
- そうか。そうですよね。
- ──
- 厳しい場なんだろうなというのは、
なんとなく思ってましたが、
「鳥が、飛ぶ」
みたいなたった一言のセリフさえ、
具体的に、
あそこまで追求しているのか、と。
何度も何度もダメ出しされながら。
- 柄本
- ぼくらは、あれしか知らないから、
まあ、当たり前なんですけど、
思うに、あの場で、
演出家が何をやってるかというと。
- ──
- 演出家‥‥つまり柄本明さんが。
- 柄本
- それぞれの役者に、
それぞれ、
考える時間をつくらせてるんじゃ
ないかなあと。
- ──
- なるほど。考える。考えさせる。
- 柄本
- わからない言葉で考えさせるのも、
稽古場というものを、
考える場にしたいんだと思います。
そんなふうに思うことがあります。
- ──
- いや、わかる気がします。
明さんの言葉は、考えちゃいます。
- 柄本
- ひとりひとりが自分の頭で考えて、
どう「言う」か考えて、
舞台の上を、どう、動いていくか。
そのきっかけを、
「よくわからない言葉」を使って、
与えてるのかなあ、とか。
- ──
- はー‥‥。
- 柄本
- そこ、昔は「怒鳴ってた」んです。
- ──
- つまり、考えさせるために。
- 柄本
- でも、最近は、あまり怒鳴らない。
ここは大きな声を出しとかなきゃ、
みたいな、
わざと「計画的に怒鳴る」ことは、
あるらしいんですけど。
- ──
- そうなんですね。
- 柄本
- うん、ついこないだ
「俺、怒鳴るの、やめたんだよね」
って言ってました。
「あ、そう。なんで」って聞いたら
「怒鳴るのって疲れるし、
役者が萎縮するだけだと思うんだよ」
って、何をいまさら(笑)。
- ──
- はい(笑)。
- 柄本
- そのことに気がついたって言ってた。
怒鳴っちゃダメなんだな‥‥って。
- ──
- でも、それ、逆に‥‥。
- 柄本
- うん、怒鳴んなくなったぶん、
怖さや凄みが、増した感があります。
- ──
- さっきのドキュメンタリーでは、
演技するふたりの前で、
明さんが、ずっと笑ってて‥‥。
- 柄本
- 怖いでしょう?(笑)
<つづきます>
2020-02-21-FRI
ヘアメイク:星野加奈子