- ──
- 俳優の「表現力」という言い方を、
よく目にするし、
自分も口にしたりするんですけど。
- 柄本
- ええ。
- ──
- こうしてお話をうかがっていると、
「表現」ということとは、
またちょっと、ちがうような気も。
- 柄本
- ええ‥‥「表現」というほど、
たいそうなことをしてるつもりは、
個人的には、ないんですよね。
- ──
- でも、観ているぼくらからすると、
俳優さんって、
すごい絵を描く画家だとか、
自由に空を飛ぶ鳥みたいに、
いいな、すごいなあって、
憧れをいだく存在なんですけども。
- 柄本
- でも、それは、ぼくらも一緒かな。
こないだ『ジョーカー』観たけど、
「デ・ニーロ、すげえな!」って。
- ──
- あ(笑)、でもデ・ニーロさんも、
ご自身の延長上にいる人ですよね。
- 柄本
- いやあ、そうは思えないですよ。
「わあ、よくこんなことできるなあ」
「すげえな、役者って」とか思う。
- ──
- 同じ役者さんではあるけど。
- 柄本
- うん、あそこまでいったら、
役者も楽しいのかもしれないですね。
昔の作品なんかを観ると、
絶望的な気持ちになっちゃいますし。
- ──
- 絶望、とまで。
- 柄本
- ここまでいって、
ようやく芝居なんだろうな‥‥って。
森繁久彌さん、小林桂樹さん、
加東大介さん‥‥がいた、
東宝の「社長シリーズ」とか、絶望。
- ──
- 喜劇を観て絶望(笑)。
- 柄本
- そうそう(笑)。あるいは
成瀬巳喜男監督の『鶴八鶴次郎』の
山田五十鈴さん、
田中絹代さん、原節子さん‥‥とか、
完全に絶望モノです。
- ──
- 何がすごいんでしょうね、みなさん。
- 柄本
- 何がすごいか、わかんないですよね。
とにかく「銀幕スター」っていうか、
正真正銘の映画俳優ですよ。
- ──
- いま、佑さんは
役者という仕事のどういうところに、
おもしろさを感じていますか。
- 柄本
- んーー、ぼくの場合は、
家族の会話が映画とか演劇だけだから、
家族で会話するために映画を見出して、
結局、映画が好きになっちゃって。
で、『美しい夏キリシマ』に出たあと、
1年半くらい、
ふつうの高校生活を送ったんですけど。
- ──
- ええ。
- 柄本
- つまんなくて。
- ──
- 学校が。
- 柄本
- 毎日、決まった時間に学校へ行って、
決まった授業を受けて、
決まった時間に家に帰ってくるのが、
本当に、つまんなかった。
- ──
- 映画の撮影現場にくらべちゃうと。
- 柄本
- そう、2ヶ月も大人たちに囲まれて、
ひとつの映画をつくりあげる。
ホームシックで泣いたりしたことも
あったんですが、
あんなおもしろい場はなかったから。
- ──
- 柄本明さんにお話をうかがったとき、
「当時、反抗期だった長男が、
はじめての映画の現場で、
原田芳雄さんや、香川照之さんや、
寺島進さんに囲まれて、
すっかり矯正されて帰ってきた」
みたいなことをおっしゃってました。
- 柄本
- あはは、そうですねえ(笑)。
でも、本当に、楽しかったんですよ。
だから、どうにかあの場へ帰りたい、
でも、どうしたら帰れるだろうと、
いろいろ、自分なりに考えたんです。
- ──
- なるほど。
- 柄本
- 監督はどうだろう‥‥
監督は、仲間を集めなきゃならない。
俺は友だちが少ないからムリだ。
録音部・撮影部・照明部‥‥
専門の学校に行かなきゃいけないな。
- ──
- ええ。
- 柄本
- でも、俳優なら。
俳優だったら一回やった経験あるし、
学校に行く必要もないし、
あの現場に戻れるんじゃないかって。
- ──
- へえ‥‥。
- 柄本
- そう、そう思って、
ウチの親父に相談したんです(笑)。
- ──
- 柄本明さんに。
- 柄本
- はい。
- ──
- 映画の現場に戻りたい‥‥って。
- 柄本
- そう、「親父、俺は、もう一度、
映画の現場に戻りたいんだ」って。
自分のやりたいことにたいして、
自発的に動いたのは、
思えば、そのときだけなんです。
- ──
- 就職活動したんですね、本気の。
- 柄本
- そのときから、役者ということが、
ずーっと続いている感じで、
だから、
仕事のおもしろさみたいなことは、
うまく言葉にできないんですけど。
- ──
- ええ。
- 柄本
- 全員で映画をつくりあげる現場で、
ピースのひとつとして、
その場にいられること。
そのことが、本当に幸せだと思う。
だから、映画の現場の人たちから、
仲間として
認め続けてもらえるだけの努力を、
怠ってはいけないなと思ってます。
- ──
- 努力。
- 柄本
- サボらずに映画を見ることですね。
自分の場合は、やっぱり。
名画座に行けば
昔の名優たちのすばらしい芝居を、
いくらでも観れるわけだから。
- ──
- なるほど。
- 柄本
- 観たからなんだって話なんだけど。
- ──
- 本当にお好きなんですね、映画。
- 柄本
- 好きですねえ。やっぱりね、うん。
<終わります>
2020-02-26-WED
ヘアメイク:星野加奈子