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テレビ逆取材・
クリエイティブってなんだ?

第2回 番組が終わっても、わからないままだと思う


[今回の内容]
「クリエイティブ」というものに関して
この夏に本格的な番組を作る動機とその手法を、
本格的な撮影前に、ディレクターのうちの2人、
長嶋甲兵さんと根岸弓さんに伺っています。
今回は、八谷和彦さん・井上陽水さん・見城徹さんの
3人とdarlingとの対論番組に、どうしてしたのか?です。
(前回読まれなかった方は、ぜひ、第1回をどうぞ)



(ディレクターの根岸さん)


---- 糸井さんと3人の対論にしようというのは、
  個人それぞれでクリエイティブへの思いが
  違っているという事情を出そうとしたからですか?
長嶋 と言うよりは、いろいろな分野に
「クリエイティブ」を解体した感じが強いですね。
まず最初に考えていたのは、
糸井さんを番組の編集長のような立場に置いて、
糸井さんなりのクリエイティブに対する考えをもとに
いろいろな出演者を出していこうという企画でした。
でも結果的には経済寄りの人ではなくなりましたが。
特に井上陽水さんの登場によって、それこそほんとに
表現者に話を聞くことになったという観があります。

表現というかクリエイティブと言うと、
作品だとか狭く限定されたものを扱う感じになるけど
そうではなくて、はじめは、もうちょっと広く、
「人間が生きていくこと」だとか
「お金を稼いでいくこと」だとかいうことにも、もっと
クリエイティブがシフトしていかなければいけないという
企画上の考えがありました。
それが結果的に表現者寄りに話を聞くことになって、
ビジネスにおけるクリエイティブというよりは、
もう少し本質的なクリエイティビティを問う、
そういう形になっていると思います。

特に陽水さんは、
自分の生き方のパターンを全く決めないやり方ですし、
自分が納得する分かり方じゃないと
「分かった」と言わない人なんです。
言ってみれば、何もかも自分で考えたいという人。
自分で考えて自分で納得するまで、うんと言わない。
「レコードジャケットの写真をどれにするか?」から、
インタビューする時の椅子の状態まで含めて、
いろいろなことが気になる人です。
そういう人って、あまりいないじゃない?
みんなで決めたことに沿って生きることが
割と得意な日本人の中で、陽水さんは違う。
あんなにいろいろなことに棹をさして生きることが、
むしろこれからの日本人に必要なんじゃないかと。

見城徹さんにしても、
今日対談前に事前インタビューをした限りですが、
表現に向かっている人だと思います。
彼は確かに「ひんしゅく」というキーワードを掲げて
いろいろ戦略的にやっていらっしゃる人だけど、
そのことの根底にあるクリエイティブに対しては、
・・・あ、彼はそれを「表現」と言うけれども・・・
話を聞いていると、その「表現」というものへの
愛情がおそらく過度に強い人だという気がしました。

表現者というか、表現そのものよりも、
作家を含めて表現を愛するというか・・・。
見城さんにしてもそういう人ですから、
かなり本質的な話が出てくるんじゃないかなあ。
それぞれの人にとっての自分の生き方だとかも含めての、
とても面白い対談になるんじゃないか?と思います。

そして、未来にどういう
ソフトを作るのだろうかで、八谷和彦さんなんです。
僕は八谷さんを直接は知らないですし、
陽水さんや見城さんとはまた違った人ですから、
もしかしたら、八谷さんとの対談のほうが、
もうちょっとこれから先のことについての話が
具体的に出てくるのではないかと思っています。
根岸 今は、話すにはちょっと「どつぼ」にいるんです。
本当に「はじまりはじめ」というか。
こうだろうああだろうという企画をこねた時期が終わり、
実際に構成を作ってそれを持っていくと、
糸井さんに「ちょっと違うんじゃない?」と言われたり。
今日、見城さんの所に行って取材をしてきたけれど、
「ご自分が、モットーとして、
 ひんしゅくは金を出してでも買えと言われているので」
「ひんしゅく」について話を聞こうかと思ったんだけど、
見城さん本人が
「いや、ひんしゅくだけじゃないんだ」
とおっしゃったり・・・。
「クリエイティブ」という主題についても
これから問うていくところですけど、
今はわかりかけてはいるんだけど、
わかっていくところの一歩手前のところで、
う〜ん、なんですかね・・・。
わかったら開放的で楽になれそうだけど、
わかりそうな寸前のところに来ていて・・・。

クリエイティブということも、
クリエイティブが未来を拓くということも、
何かが未来を拓くということについても、
ちょっと、この天井をもうひとつ拓けば、
「わかった!」と気持ちのいいところにいきそうだけど、
その寸前のわからない気持ち悪さというところに、
今、私はいるんです。
だからあんまりいい話ができない。
長嶋 その気分は番組が終わるまで続くし、
終わってもわからないものだと思う。
そんなに晴れるものでは、ないんじゃない?
根岸 晴れたいと思う。
そんなにきれいにはわからないだろうけど。
長嶋 僕は全然違う番組で会った人にも、
この番組について話を聞いているんです。
クリエイティブを考えることって、
みんな必要だなと思っているから、
「それ面白いね」と話してくれるの。
根岸 どうしてクリエイティブのことについては
こんなに面白く言えるの?という人もいて・・・。
見城さんと角川時代からの十何年付き合っている
石原さんという編集者の方が、「ひんしゅく」だとか
見城さんとのエピソードについては、
こちらが思っているよりも言葉少なだったんです。
でも「クリエイティブをどうお考えですか?」
と聞いたら、いきなり面白おかしくなって。
長嶋 その時におっしゃっていたのが、
ジミヘンドリックスが死ぬ前に言った話だった。
「俺に金があって、
 世界中の優秀なミュージシャンを集めて、
 ひとつのバンドのようなものを作って、
 どんなものであるかを、音楽で見せてやる」
って言って死んだ、それがクリエイティブだと、
まあ、そういうことを言う人もいるんです。

小林恭二さんに別の番組で聞いたら、
クリエイティブの語源は
「神が世界を創ったこと」だから、
その意味では、すでに本当の意味での
クリエイティブはもうなくて、
あとは改良ぐらいしか残されていない、と。

庵野秀明なんかも、似たようなことを言っていた。
「ビートルズが最後だ」なんてことを話していて、
「はっきり言えば、俺たちはぜんぶ
 パロディかリサイクルみたいなことで
 食いつないでいくしかない」
というようなことを言っていた。
人それぞれで、ほんとに話がまとまらないような話で。
根岸 だから、すごくやっかいですよね。
クリエイティブという言葉に正解があるわけじゃなくて、
「その人がそう思えば、まあいいじゃないか」
みたいな、100人いれば100通りの答えがありますから。
観る人に納得してもらうような番組では
ないんだろうなあ、とは思います。
きっと「違うよ」とか思われたりするのかな?

有名な人達ではなくても、
私の友達の一般企業の人だって、
クリエイティブについて語れるんだもん。
こないだも、企業のなかで
プロダクトデザインをする人達と飲む機会があって、
例えば、糸井さんとか見城さんとかと、
もうおんなじ悩みを持っていると思いました。
いいと信じるデザインと売れるデザインには葛藤がある、
とその人達は言っていたんだけど、これは立派に今回の
クリエイティブの企画の俎上に乗せてもいい話です。

そういう、実感として生きることにつなげて
その人達はクリエイティブを考えているわけで、
場合によっては、その人達のほうが
いつもそういうことをすごく考えているかもしれない。
今回の番組の話をして
「それ、面白いね。観ますよ」
と言われて、怖いなあと感じました。
クリエイターにとってのクリエイト話だけでは
絶対に満足しないであろう企業の人も観ていると思うと、
お気楽な番組にはできないから。


★まだ「はじまりはじめ」で
 わかりたいけどわからないんだ、
 というところにいるというのが、リアルです。
 100人に聞いたら100通りの答えのある問いを前に、
 どういう番組になっていくのか?期待しています。


(つづく)


2000-07-27-THU

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